83話 真力
クオンの好戦的な態度に、ケアニスは苦笑する。
「申し訳ないのですが、私は人間と手合わせをしたことないのです」
ケアニスはまったく隠していない態度だった。
何を隠していないかというと、無駄だから止めておけ、という自分が強くて相手が弱くて怪我をさせてしまうから止めないか、という気持ちだ。
俺が気付いたんだから、クオンが気づかないはずはない。
そこにいた者たちは皆、彼女からの気配が変わったことに気づく。
クオン、怒ってる!?
「では、僕の力を見せるっす。戦士殿、鬼を出してください」
うむを言わさぬ態度に、俺はアイの方を確認し、少し焦り顔でコクコクとうなずくので了承と判断し、鬼を一匹ハイエースから召喚した。
「これがイセさんの力ですか。亜人召喚? また珍しい魔法ですね」
ケアニスは鬼近づき、じっと見定めるように見つめている。
「……うん、強い。兵士たちだけじゃ戦えない。これはこっちも武装が必要ですね」
「ケアニス殿、その鬼を今から僕がやっつけるっす」
「え? できるんですか?」
「もちろん」
クオンが鬼の手首を取ると、合気道みたいに鬼の体勢を崩し、そのままパズルでも解くように関節を外していって、床に転がした。
「…………」
それをじっと見ているケアニス。
どやっとしているクオン。
ケアニスは驚いているように見えたが、ケアニスはその鬼の姿を見ながら言う。
「根本的に、そういうんじゃないんです。えっとクオンさん」
「と、言いますと?」
「そういうの、私たちには通じません」
「天使には?」
「ええ。特に私には」
キルケと天使の戦士たちに鬼の力は通用した。
物理的な力という意味では、キルケたちより俺の持っている力の方が上だった。
なのに、クオンの異質な格闘術を見ても、ケアニスは以前として最初の時のままだった。
「イセさんたちの話によると、天使と手合わせしたことがあるようですが……武装した天使と敵対したわけじゃないようですね」
「剣と鎧なら持ってたぞ?」
「天使の武装というものは、そういうものとは違います」
そう言ったケアニスは、俺たちから少し離れる。
いかにも、俺たちに危害が及ばないように気を使っての行為のように見えた。
「天使の武装とは、ただの武器や純粋な武技のようなものではありません」
言いながら、ケアニスの雰囲気が変わった。
彼を中心、空気の流れができている。
「私たちの武器は、こうです」
言った瞬間、ケアニスの体の周りが黄金色に輝く。
アニメや特撮で見たことあるような、オーラとかそういうのを纏っているような状態になり、空気の流れもいきなり風でも吹いたかのように早くなる。
「攻防一体の力。これが天使の武装です」
あとから、アイとシガさんが教えてくれた。
天使が使う力は『真力』と呼ぶ。
神より与えられた真なる力。
アイとシガさんたちの研究によると、魔法が外の世界の力だとしたら、真力はこの世界そのものの力。
世界を構成する様々な要素から少しづつかき集めて蓄えた力らしい。
魔法使いには、かつて世界を覆うだけの魔法という大きな装置があったように、真力を扱うための装置が天界にはあり、それは天使のみが使えるものとのこと。
「本来は天界のものを使用するのが天使ですが、僕はこの武装を自力で用意できます」
「なるほど。人間にとってのアイ、みたいなものだな」
今まで黙っていたシガさんが、口にする。
それはつまり、魔法が壊された後も再構築して魔法が使えるアイと同じような才能を持つということ。
「天界側の異端児か」
「そうとも言われますね」
くすりと微笑みつつ、ケアニスはクオンを見る。
それは手合わせをと挑みかかった時のクオンと同じく、好戦的な視線に見えた。
「できますか? 手合わせ」
聞かれたクオンは、見るからに焦りを隠せていなかった。
「これは……戦士殿の『力』でも止められないかもしれないっすね……」
そうつぶやくのが聞こえた。




