表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/280

82話 足止め

「それじゃ早速伝えておくぞ」


 アイは小さな葉に、最低限の情報を書き込んで、例の魔法を使って連絡した。

 ケアニスを連れていく際に、カウフタンに案内を任せたようだ。


 カウフタンに、受難は続く。


「クオン、どうする? ケアニスが来るまで残るか?」


「そうさせてもらいたいっす。折角の大都市っすから」


 ニコニコ笑顔で観光気分のクオン。

 流石、アイの部下になるべくしてなったと思わせる、精神の太さだ。


 だがそれが心強い。

 ウルシャも、アイをひとりで守っていて、さらには俺のことも守護対象してるもんだから、気が休まる時がなかっただろう。


 クオンがいれば、ウルシャも過ごしやすくなる。


「よーしっ、それじゃまたあのカフェ行こう。飲み物は苦かったが、お菓子は甘くて美味しかったぞ」


「いいっすね。カフェとかオシャレっすねっ、シャレオツっすねっ」


 アイと同じ視線ではしゃげるクオンを見てると、肩から荷が下りたような気分にさせる。

 それを見て、自分が今まで緊張していたことに気付いた。


「じゃ、行こう」


「ん、俺はちょっと部屋で休む」


「えー、どうしたんだ」


「なんか、安心したら肩とか背中が、張ってることに気付いた」


 ここに召喚されてから、休む暇なんてなく動き回っていたからだろう。

 気が抜けて、自分の疲れに気付けたっぽい。


「マジっすか。なら僕にお任せっす」


「え? 何? いっそひと思いに、肩の関節とか外す気? 止めてくれーっ」


「そんなことしないっすよ。こう見えても人体構造のエキスパートなんすから、肩こり治療も専門っすよ」


 ほんと? という視線をアイとウルシャに向けると、頷かれた。


「私も、あとでやってもらおう」


「アイも」


「あいあいさー」


 気楽に言いながら、俺の前にいたクオンが、瞬間移動したかのように背後に回る。

 あっ、これ知ってる。漫画とかアニメで見たことがある素早い動き過ぎて残像とか残しそうなやつだ。


 と思っている隙に、背後の肩胛骨と肩胛骨の間に、クオンの思ったよりも小さい手が触れる。


「うっ!?」


「いくっすよー」


 軽く言われた後、止める間もなく背中に指が埋まるほどの衝撃が走る。


「痛っ……たくない?」


 ぐにぐにと指で背中を押され、そのたびに肩から背中全体のコリがほぐれていくのがわかる。


「おっ、おおおっ、な、なんだこれ……新体験っ!?」


 めっさ効いてる! 効いてる!!

 クオンの手が動けば動くほど、体から疲れが取れていくみたいだ。


「おおぉ、すごーぉ……ふわぁぁ……あうんっ。変な声、でちゃうぅぅ」


 まさか、異世界転生して初めて甘い喘ぎ声をあげたの俺っ!?

 ハイエース能力とか出しておいて、最初が俺っ!


「戦士殿の体、なんか普通じゃないっすね。触り心地が全然違うっす。やっぱり異世界人だからっすかね」


 普通に話ながらも、俺は体から骨抜きにされていく感覚に酔いしれてしまった。



 と、そんな感じでクオンも一行に加わり、サミュエル自治領の大都市内を見て回るおのぼりさん観光状態でしばらく楽しんでいたが、1週間と経たずに変化があった。


 ケアニスから、アイが渡した魔法の手紙が届いたのだ。

 準備が終わったのでこっちに来る、とのこと。


 そのことを俺たちは、サミュエル卿とシガさんへ伝えた。


「早すぎますね。この短期間で魔境城塞から要が抜けても大丈夫な体制が整えられるとは思えません」


 サミュエル卿は、そう判断して部下たちを動かした。

 ケアニスが無理矢理動いたことで、魔境城塞で致命的な変化が起こったりしたら、状況が大きく変わりかねない。


 ケアニスは、本当にちゃんと準備してきたのかを調べるため、サミュエル卿は自分の手駒を動員して調べてみるとのこと。

 そのテキパキとした様子を見てると、通商連合の副会長であるシガさんがいるから保っているサミュエル自治領ではなく、単純にこのサミュエル卿が優秀だから、シガさんという難儀な人を使えているだけじゃないかと思えてきた。


 人を使うのが上手い人は、どの世界にいっても優秀と聞くが、本当にそうかもしれない。


 サミュエル卿が動き出してから1日後、ケアニスがまた空から現れた。

 やはり人の常識はない。


 現れた瞬間から、サミュエル卿は俺たちに頼んできた。


「すぐエジン公爵領へ向かうのは待っていただきたい」


「わかった。ケアニスの足止めだな」


「話が早くて助かります。魔境城塞の詳細を掴むまではお願いします」


「うん。ただいつまでも留めておくのは難しい。その時は……」


「アイ様のご判断でお願いします」


 そう言って頭を下げるサミュエル卿。

 アイの判断を信用している、という態度だ。


 ケアニスは魔境城塞を亜人たちから守ったとはいえ、人間と亜人たちとの交流を断ってみせた。

 同じようなことを通商の要衝であるサミュエル自治領でやられては、致命傷だ。

 それは、天界や教皇庁の利するところになる。


 こちらからすると、ケアニスも危険な存在と認識する必要が出てくる。


「まあ、この同盟はこっちが主導権を握っている。イセが居る限りな」


 俺か。俺が切り札か。

 頼りねぇな。


 と、そんな風な裏話をサミュエル卿と済ませた後、俺たちはケアニスと再会した。


 挨拶も早々に、ケアニスは、


「さあ、早く女の子にしてくださいっ」


「待て待て待て。まずはうちのカウフタンの様子を見てからだろう」


「ええ、ええ。わかってます。さっそく参りましょう。私がアイさん達を運びます」


 早く早くっ、と散歩を急かす犬のように無邪気だ。

 これを足止めするのは骨が折れそうだ、と思っていたら……


「あなたが、『神器』ケアニス殿っすか」


 アイに近付こうとするケアニスの前に、すっとあの残像を残しそうな動きでクオンが立ちふさがる。


「あなたは?」


「僕はクオン。アイ様にお仕えしてるっす」


「ではあなたも召喚戦士?」


「いえ……ですが」


 クオンは拳法の型のような動きをその場で何通りかしてみせて言う。


「地上最強と言われる拳士のケアニス殿に、お手合わせを願いたいっす!」


 あ、そういう足止め?

 物理的に足止めをしようと?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ