80話 エジン公爵領からの連絡
ケアニスから報告があるまでは、またサミュエル自治領に居座る俺たち。
その間、シガさんとサミュエル卿には、俺の『力』を披露した。
ハイエースを駐車している地下空洞で、俺は鬼たちを呼び出す。
出したのは1体の鬼。
その鬼と戦ってみせるのは、ウルシャ。
ウルシャの剣技は、サミュエル自治領にも鳴り響いている。
そのウルシャ相手に、鬼は傷つきながらも一歩も引かず、ついにはウルシャの腕を捕まえることに成功する。
「待てっ!!」
俺はそこで鬼を止めた。
これ以上は……
「あれ? 車内に連れ込んだりしないのか?」
「しません」
シガさんの質問に、一番反応したのは捕まっているウルシャだったが、俺のひとことですぐに胸をなでおろした。
鬼と戦っている時、なんとなくいつもよりキレがない感じがしたのは、鬼たちに対して若干退いているのか、シガさんとサミュエル卿たちの前だから、全ては見せまいと加減してくれているのかわからなかった。
「この鬼を沢山出せると」
「まあ、それなりに」
「そこでネットスラングのように、あんなことやこんなことをするわけだな」
「という能力なんですが、そこまでしてません」
「何故?」
「同人の妄想を現実化して無事で済むとお思いですか?」
「思わない」
「だからです」
「なるほど。しかしだ、使いたいとは思わないのか?」
「思いません」
「人間というのは、やれることはいつか全てやる種族だ。その力を持ったイセくんが果たしてやりたいと思う欲望に耐えられるのかどうか」
「シガさんやめて! これ以上言うと……」
ちらりと、アイとウルシャの方を見ると、やっぱり若干退いている感があるのがわかる。
「わかったわかった。からかっただけだ」
それを聞きながら、俺は鬼を消した。
その消える姿を見たサミュエル卿は、今まで鬼に威圧されていたかのように、ホッと息を吐いた。
「召喚された戦士とは、これほどの『力』を持っているものなのですね」
いや、それほどでも……と思うけど、それは今まで見て読んで知っている、他の物語の異世界転生ものであって、今ここでは、この程度でも十分に脅威になりうるものであることを思い出して、言うのを止めた。
「何体の鬼を召喚できるかは知らんが、こいつらを上手く使えばどんな城塞も落とせるかもしれないな。切り札になりうる」
「ですね。あるいは……帝都の『竜』へも対抗しうるかもしれません」
「サミュエルくん、それは期待しすぎじゃないかな」
「いやでも、そこまでのものでしたよ?」
『竜』の話題、聞いたことがある。
確か、アイが言っていたような……
「なあ、それで今ので何かわかったか? 師匠」
「なんにも。魔法だが魔法だけじゃないってことくらいかな」
「そうだよなぁ。ほんと謎だらけで」
「まあ、今のは動画に撮ったから、分析はこっちでしておこう」
「よくわからんがそっちの技術か? まあよろしく頼む、師匠」
動画!? そんなものを撮られていたのか!
油断も隙もないぞ、この人。
だがしかし、シガさんは仲間としていろいろ情報提供しておかないといけない相手だから、致し方ないか。
それから、アイとシガさんは、ふたりで魔法談義。
俺の『力』と魔法との関わりについて、専門的な話に入ってしまった。
手持ち無沙汰な俺は、護衛にいるウルシャの方へ。
「そういえはウルシャさん、今回はアイを止めるようなこと、何も言ってませんでしたね」
「そうですね。きっと、あのケアニス様の方が……」
危ない人物だったから、ウルシャには止めようがなかったってことだろうか。
「カウフタンのところへ連れていくって話は? ウルシャさん的にはどうでした?」
「その発想はなかったです。ですので、止めるという発想もないです。ただ……」
考えこんでそれから……
「カウフタン殿がこの件を聞いたらどう思うか、ですかね。彼女の許可なしでこのような重要な決定をしたら……」
そう考えてみたらそうか。
「連絡取れるかな?」
「アイ様にとってもらいましょう」
「その必要はないっす」
そのアイとウルシャにとっては聞き慣れた声がして、その地下空洞にいる者たちが全員、声がした方を振り向く。
仄暗い外へと続く回廊の方から、音もなく歩んでくるひとつの人影。
「アイ様、ウルシャさん、戦士殿、お久しぶりっす。クオンっす」
現れたのは、アイに使える隠密、クオンだった。
「連絡なら、僕がしますよ?」
サミュエル卿と、彼の護衛をしていた者たちが、彼女の登場に驚愕する。
俺たち以上に、何故ここに? 状態みたいだ。
クオン……サミュエル自治領の監視網を突破してここまで来ちゃったのかな?




