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75話 『神器』同盟交渉迷走中

 交渉の席につくのは、こちらはアイと俺とサミュエル卿で、ウルシャは護衛の位置につく。

 サミュエル卿は、会議の声が聞こえる位置にタブレットをおいた。

 さらに、いく人かの兵士が部屋にいる。


 対する相手は、ケアニスひとりだ。

 大人たちが全員でひとりの少年を取り囲んでいるようにも見えるが、この中で最も危険な存在はその少年だ。

 

「それで、私に話というのは?」


 アイと同盟を、と一気に言おうとしたアイの口を、俺は塞いだ。


「ケアニスさん、いったいその魔境城塞で何をしてるんですか? こちらとしてはまず、その辺を詳しく聞いておきたいです」


「あなたがたが私に話すことに関わりがあるのことですか?」


「はい」


 そうはっきり告げると、ケアニスは特に言いよどむことなく話し始めた。


 魔境城塞が亜人たちによって落ちそうになっていたので助けたこと。

 キルケ先輩たちにはこっぴどく怒られて、戻ってくるなと言われたこと。

 故に現在は、魔境城塞のあるコンウォル辺境伯のところで、食客扱いと。

 アイと同じような立場、らしい。


「戻ってくるなっていうのは、追放処分ですかね」


「そうかもしれません。成長のいい機会でした」


「というと?」


「私は天界にいて、人間たちが暮らす地上がどんなところなのか興味がありました。ですが見てるだけでは、聞いているだけでは、情報が断片的でよくわからないというのが本音でした。そこで追放されることで、実際に体験して知ることができました。この機会をくれたキルケ先輩には感謝しています」


 前向き思考とはこういうものなのか? というものを見た。


「えっとつまり……成長した暁には、天界に戻ると」


「はい。今は多くを知り、素晴らしい天使になりたいと思います」


 純粋すぎる。

 そしてとても騙されそうな子だ。

 この姿勢は、上手く御することができる人がいるならいいが、あのキルケを見る限り、天界で孤立してそうだ。


 俺がそんなことを考えていると、アイがこそこそ声で話しかけてきた。


「どうだ? 話、できそうか?」


「どうだろう……だって俺たちは天界に敵対するって話をするんだぞ? 御本人的には嫌なんじゃないか?」


「そこは騙して味方にして裏切らせて……」


 離間の計とか、俺とアイにできんのか?

 もしアイがやってみようと発言するとしたら……


 ケアニス、天界を裏切ってアイたちと同盟を結べ。

 って大真面目に単刀直入で言いそうな気がしてきた。


「……よし、俺からだな。聞くだけ聞いてみよう」


「頼むぞ」


 アイはそうこっそり言って、あとのことを俺に任せた。

 元々ダメ元なわけだから、やれるだけやってみようか。


「どうかしましたか? 私に話したいことは?」


「そのことなのですが、私たちはケアニスさんに助けていただきたいことがあります」


「なんでしょう? 私にできることならいいのですが」


「ケアニスさんにしかできないことです」


「私にしかできない……?」


「今、私は自分自身の『力』によって、天界のキルケ様に目をつけられています」


「なんと……」


「私も召喚戦士として、この世界を憂える気持ちに代わりはない。なのに召喚の際に得た『力』のせいで、この世界の天使様に受け入れてもらえない。これは悲しいことです」


 よよよよ、とても悲しいという風な表情を作った。

 作れただろうか? そんな演技力あったっけ、俺?

 まあ、いいか。


「ですので、もしキルケ様に私が殺されそうなったり、『力』が奪われそうになった時、助けていただきたいのです」


「わかりました。ご助力いたしましょう」


「え!?」


 即答された!?


「何を驚いているのですか? 困っている者がいるなら助ける、当然のことです」


 マジか?

 ここまで純粋な子なのか?


「ん? んんん? なぁなぁ、交渉成功か?」


 アイが聞いてくるが、俺は応えられない。

 ほんとに? これで同盟結ぶって話にもっていけるのか?


 一応、嘘は言っていない。

 異世界の力だから危険物扱いされたって話はしてないけど、嘘はついていない!


「私からもいいですか? その召喚戦士の『力』についてなんですけど」


「私、イセといいます。私の『力』がなんでしょう?」


「どんな力なのか、ぜひ見てみたい。戦士ではないと言うが、武力に関するものならば、私の拳にどこまで通用するものなのかも体験してみたい」


 そう言って、ケアニスは椅子に座ったまま片手だけ拳をつくってみせた。

 あとで聞いたことだが、ケアニスは天界一の拳士らしい。

 クオンなら喜んで手合わせするんじゃないだろうか。


「クオンの時みたいに、勝負してみたらどうだ?」


 と、アイがそんなことを言うもんだから、ケアニスの顔に喜色が浮かんだ。


「それは是非に」


 ん? それはマズくないか?

 ハイエースおいてある場所は、内緒にしておかなきゃいけない場所だし。

 上に持ってこられるか?


「では、また外に出ましょうか。イセさんの、キルケ先輩に目をつけられるほどの『力』、こんなところで使えるものではないですよね?」


「だな。サミュエル卿、こっちまでハイエースを持ってくることできるか?」


「お待ちください。そういうことでしたら、ケアニス様と、イセ様が腕試し可能な場所を、ご用意いたします」


「おお、そうか。それは楽しみだ」


「かたじけない。よろしく頼む」


 見た目、少女と少年が、きゃっきゃと楽しんでいるが、いきなりの無理難題に困惑するサミュエル卿。

 俺の方も、手合わせということになり……


 クオンの時みたいに……この子をハイエースするの?


 同盟相手を拉致る対象にするって、ありえなくない?


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