74話 『神器』同盟交渉開始
見た目、アイと同じくらいの年の頃の姿の少年で、背中には大きな翼。
あのキルケたちと同じ天使だとわかる。
だが、もしかしたらキルケは隠していたのかもしれないが、ケアニスからは存在感からくる圧力のようなものを感じる。
天使としての『力』を、キルケたちよりも強く感じる。
「アイさん、ですよね?」
「そうだ。ケアニス、久しぶりだな」
「あ、はい、お久しぶりです」
ん? 明らかにケアニスの方は、アイのことを覚えていない?
「天使から見て、人間の区別は難しいらしい。キルケは慣れていたみたいだけどな」
アイがそっと教えてくれた。
「人間から見て他の動物の見分けが難しいのと同じ感じか」
否定はされなかったので、そういうことと認識した。
「ケアニス、何しに来たんだ?」
「アイさんと召喚戦士が会合を望んでいると聞いたので、早速やってきました」
「常識を知らぬな。人間社会には、手続きというものがある。サミュエル卿に対してもそうだが、お世話になっているコンウォル辺境伯に対して失礼だぞ」
「そうでしたか、それは……ちゃんと謝っておきます」
どことなく反省している素振りが見えないのが、怪しい。
本当に、この少年天使と同盟とか結べるのか?
「それはそうとアイさん。召喚戦士に是非会いたかったんです。こちらまで活躍は聞こえてきてて、どんな人物でどんな『力』の持ち主なのか非常に興味がありました。どちらにいます?」
きょろきょろと期待の目であちこち見てる。
目の前のアイの隣にいる冴えない男がそうなのだが、まったくそうは見えないらしい。
キルケや天使の戦士たちは、俺ってすぐわかったから誘拐できた。
もしかしたら見てすぐにわからず、何か別の特徴とかで俺だと見抜いたのかもしれないな。
「おまえの目の前にいるぞ。私の召喚戦士は」
「え? あれ? アイさんのお隣にいる……」
「そっちはウルシャ。こっち」
ウルシャさんの方に近づくので、アイは俺をジャスチャーも含めて示した。
すると、不思議そうな顔でこっちを見る。
「戦士? こちらは文官の方ではなく?」
着ているものからそう判断したのかもしれない。
あとは……戦士って体格も身のこなしも、そもそも雰囲気がこの世界の戦士とは比べ物にならないくらいゆるいよな。
「便宜上そう読んでいるが、彼はどちらかというとアイに近い。特殊な魔法を使うんだ」
「なるほどなるほど! まさに特殊な『力』だ。そうかーなら手合わせってわけにもいかないのかな。うーん、してみたかったなぁ」
残念そうに言うものの、『力』には興味津々なのか笑顔は崩さない。
「ぜひ、あなたの『力』を見せていただきたい」
「その前に、こちらの話をいいか?」
「あ、はい。どうぞ」
「こんな目立つところで立ち話は止めて、中でどうだ?」
アイは、俺たちに続いて近付いていた、サミュエル卿の方を見た。
「席をご用意します。『神器』の方々」
「それはかたじけない」
アイもサミュエル卿も、気にすることなく屋敷の中へ入ろうとするケアニス。
彼の丁寧そうな言葉遣いは、まさに丁寧そうなだけで、どこか敬意は希薄な感じがする。
ケアニスの核たるものは、傍若無人だということだろう。
俺が見てそうわかるのだから、サミュエル卿なら余裕で察しているだろう。
そのサミュエル卿は、俺たちにだけ聞こえるようにそっと囁いた。
「危険な方です。くれぐれもご注意を」
「注意といっても、ああも礼儀も人間社会も知らぬとなると、何が琴線に触れるのかわからん。もう単刀直入で行くぞ」
アイが単刀直入以外のこと、したことあったかな? と思ったけど言わないくらいには俺は人間社会で生きている。
それにそういうアイだからこそ、ケアニス相手の交渉は向いているかもしれない、とも思った。
その後、サミュエル卿はケアニス相手の交渉の場をすやばくセッティングした。
そこには、タブレットもご相席しているが、シガさんはしゃべったりせず、マイクで音を拾うだけにする模様。
シガさんが言うには、興味持たれていじられると困るから、だそうだ。
「まあ、私のことなんてあっちは覚えてないだろう」
「『神器』同士なんですよね?」
「『神器』にもいろいろなヤツがいるんだ。みんなだいたいケアニスより厄介だぞ」
「師匠も含めてだ」
「何を言う、人類最後の希望が。今はアイが震源地になってるぞ」
「あ、そうか。師匠も別に魔法のアイテムになってなかったんだよな。人間の『神器』がふたり、天使の『神器』がふたり、さらに今から天使側のひとりを寝返らせるという作戦……これ、だいぶ有利になるんじゃないか?」
「まあそういうことだ。コンウォル辺境伯から離れて交渉できるのも、意外といい流れだぞ」
タブレットから聞こえてくるシガさんの声は、少し弾んでいる。
楽しいのか? またいきなりの変化で俺としては身の縮む思いなんだが。
「アイ。サミュエルくんにサポートさせるが、交渉のだいたいは任せるぞ。好きにやれ。いざとなったらイセくんの『力』に頼れるんだろ?」
「ああ。そうだ」
「マジか? そこまでか?」
「イセ、リミッター解除だ。いざとなったら全部ぶつけていい」
「……マジか」
アイが自信満々にニヤッとしている。
全部って、ハイエースと……やっぱり俺のおにゃの子化能力のことだよな……
あの時のアイたちのドン引きっぷりを見てると、あまりやりたくない。
だが、いざとなったら使うしかない。
俺は、ケアニスがおにゃの子化したらどんな容姿になるのかなと想像しながら、アイたちと一緒に交渉の席についた。




