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64話 偽装ワゴン

 屋敷に戻ってすぐにアイとウルシャと、ハイエース偽装のための話し合いをした。

 湖側の裏庭で、ハイエースを見ながら話す。


「カモフラージュといったら、草をかぶせるかな」


 俺はそこらから抜いた雑草を、壊れていない方のサイドミラーにかけてみた。

 ゴミが乗っかっているようにしか見えないが、こっちの世界的にはどう? という感じでアイたちの反応待ち。


「それ、全部にやるのか? 走ったら取れちゃうだろ」


「接着剤でくっつける」


「そういうくっつけるのがあるのか?」


 どうやら接着剤は、すぐに用意できないらしい。


「草木のような色合いの布で、全体を覆ってみたらどうだろうか」


「駐車した時に隠すにはいいけど、布をかけながらは運転しにくいな。あ、でも後ろからの車に注意する必要ないから、フロントガラスさえ見えていればいいか」


 サイドミラー壊れても、大丈夫だったし。

 後ろを気にするような相手もいないか。


「なら馬車につける幌とかどうだ? 布をかぶせるよりかは固定しやすいんじゃないか?」


 アイが言うと、妙案だったのか、ウルシャが伝えてきますと屋敷へ走る。

 すると、車庫に使っていたあたりにあった、今は使っていない馬車の幌を数人がかりで持ってきた。

 それを、皆でハイエースの上に被せようと、AI機関の人たちが頑張る。


 上にのぼったり、ハイエースにハシゴをかけたりと、好き勝手にやり始める。

 壊さないように! サイドミラーは足掛けに使わないで! 壊れるからっ! 等々の声かけをしながら、なんとか運転席の後ろあたりを覆うように、幌がかぶさった。


 こういうのトラックで見たことがある。

 トラックの荷台に、幌がかかっているやつ。

 引っ越し用に使うトラックの候補にもあった。

 それに近い。


 故に、小さいトラックって外観なだけで、幌馬車にはちっとも見えなかった。


「無理がありますね」


「なぁイセ、運転席の屋根って取り外せないか? はずせれば御者台みたいになると思うんだが」


「無理」


 ううむと、腕を組んで悩むアイ。


「あ、運転席の屋根の上に、御者がいるようにしたらどうでしょうか? 嘘の御者です。運転はイセがしつつ、こんな感じで」


 そう言って、ウルシャはハイエースの少しのでっぱりにつま先をひっかけて一歩、二歩で運転席の屋根へ。

 そこに腰掛けて、手綱をもっているようなジェスチャーをした。


 見上げる高さに座り、足をフロントガラスに垂らしてぶらぶらさせるウルシャ。

 この足を見ながら運転するのか? 邪魔そう。


「高すぎるな。ちょっとあわない」


 アイの評価を受けて、ウルシャは降りてきた。


「やはり、もともとの四角い形が、何をしても移動要塞ですね。一番近いのは、魔法が生まれる前にあった攻城兵器の矢や熱した油を防ぐための屋根付き破城槌でしょうか」


「そういうのがあるのか? ならそれを真似てみればいいんじゃないか?」


「私も、絵で見たことがあるだけです。うちの長老方ならもしかしたら見たことがあるかもしれませんね。でもだからといって、それをもし再現したとしても、移動要塞と同じくらい目立つ代物になりそうです」


「まあ、そうかー」


 屋根付きの破城槌……ストラテジー系ゲームで見たことある。

 あれは確かに、一番似てるかもしれないが。


「なぁ、せめてこの運転席のところ、少し低くできないか?」


「いやそう言われても、そういう風に作られたものならできるかもしれないけど、ハイエースはそういうものでは……あ」


「どうした? 名案か?」


「これ魔法のハイエースだから、形くらい変わるかも……」


「おおっ! カウフタンの時みたいに新しい『力』に気づいたか? じゃ、早速やってみてくれ」


 また人の力を越えた神の力とか言われて、どん引きされるかもしれないが、やってみようか。

 皆に、幌を取ってもらい、素のままのハイエースにしてもらって試してみる。


 ハイエースをよく見る。

 サイドミラーの片方はなくなっていて、どこでこすったのかすら覚えていない傷も多いし、正面のバンパーに凹んでいる箇所もある。

 城下町でも無理して走り回ったし、昨日は礼拝堂の壁を正面からぶち抜いた。


 そりゃ傷だらけにもなる。

 元の世界でもいろんな人にコキ使われる業務車両になっているものもある車種だ。

 その上、ここにきて戦車を飛び越えて要塞扱いだ。


 この世界に一緒に来た相棒を、俺は讃えたい気分になった。

 ハイエース、かっこいいぞ。


「イセ、どうしたんだ?」


「やってみる」


「おう」


 俺から離れるアイ。

 ウルシャがアイを守るような位置に立つ。


 天界が忌避するこいつが、新たな力を解放するかもしれないわけだから、警戒もする。

 だが、今この問題を解決するにはこれしかない。


「いくぞ、『至高なる(エース・オブ)鋼鉄の移動要塞(・ハイエース)』!!!」


 ふおおぉぉ!!! と声には出さず、そんな感じの気合いを入れてハイエースに向かって念じる。

 その『力』を解放するんだ! と。


 そして目を閉じて、ハイエースと繋がっている感覚を頼りに、自分から力を送り込んでいるようなイメージを脳内でする。

 少しだけ、俺の方からハイエースへ、何かが流れていく感覚がした。


「おおおおっ!?」


 アイがいきなり叫んだ。

 お! ひょっとして変わった?

 と、目を開けてみた。


 すると、ハイエースはそのまま変わらずにある。

 少しがっかり。


「どうした?」


 アイがハイエースを指差す。


「直ったぞ」


 アイが指している箇所は、俺が立つ反対側で、そっちに回って見てみると……ん? 何が直った?

 いたって今までのハイエースだが……あ。


 一瞬気付かなかったが、カウフタンに壊されたサイドミラーが元に戻ってる!?


「おおっ!? 直った?」


「おぬしから魔力が溢れたと思ったら、自動車に魔力が注がれて傷が直ったぞ」


 よく見ると、確かにキズが減っている気がする。

 細かいキズまで覚えてないけど、全体的になんとなく綺麗になった気がする。


 そしてこいつは覚えている。

 バンパーの凹んだところが元に戻ってる!


「元々こうやって直せたのか? イセ」


「みたいだ。そうか、魔法のガソリンに、魔法の車体だから、魔法で直せるわけだ」


 タイヤとかパンクしても、これで大丈夫ということか?


「良かった……私がぶつけたところも直っている」


 ウルシャさんがバンパーの凹みをなでなでしている。

 あのバンパーの凹みは、やっぱりウルシャさんだったんだな。


「礼拝堂でぶつけた時よりも、庭の木にぶつけた時の方がひどかったもんな」


 あ、そんなぶつけ方、してたんだ。

 俺を救いに来る前に、壊してたかもしれなかったんだな……


 ウルシャさんに運転の仕方、教えないと。


 しかし、まさか直せるとは思わぬ収穫だった。

 超便利仕様なハイエースだ。

 便利過ぎて、若干怖くなるくらいだ。


 でも、良かった。正直、ホッとした。

 ハイエースないと、俺、この世界でなんにもできないしなぁ。


「で、直せるのはいいとして、変形は?」


「それはできるのかなぁ。もう少しやってみるか」


「いや、もういいだろ。そろそろ日が沈む頃合いだ。休もう。朝になったらやってみよう。暗いと見えないから変化がよくわからんしな」


「そうだな……って、見えない? そうだよ、夜見えないじゃん」


「ん?」


「昼間にハイエースで走れば、怪しい乗り物が高速で走ってて怖いけど、夜だったらわからない! だから移動は夜にすればいいんだよ!」


「おおっ!! そうだな!!」


「なるほど。昼間は、森などに紛れ込ませる布をかけておけばいいわけか」


「それでいこう! サミュエル自治領へは夜に行こう!」


 解決だー、と3人で喜ぶ。

 大きな問題が解決した後の開放感に包まれる気分だった。


 これなら明日から連絡があるまでは、ウルシャに運転を教える時間に使えそうだ。


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