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63話 移動要塞の異様

 車内で今後の打ち合わせを済ませたあたりで、野営地を設営するために行軍はストップ。

 それに合わせて、俺たちはオフィリアたちと分かれ、AI機関へ戻ることに。


 オフィリアとカウフタン、そしてクオンがハイエースを降りる。

 特にカウフタンは、名残惜しそうに降りた。


「もう少し、こいつで走るところを見ていたかった。イセ、今度運転させて欲しい」


「暇になったら」


「い、いつになるんだ?」


 これから城下町へ戻り、衛兵隊長代理としての立場を確立させなければならないカウフタン。

 自業自得とはいえ、とっても大変だ。


「あと、オフィリア様のために、アイ様のためにがんばりますんで、元に戻すことご考慮いただきたい」


「善処する」


「…………うぅ」


「う、うん。必ず」


 泣き出しそうな顔にキュンときてしまい、思わず言ってしまった。

 カウフタンはこれから大変だ。

 妻と子供には、どう説明するんだろうか。

 何が起こるか、想像もつかない。


「戦士様、アイ様のこと、よろしくお願いします」


「はい。わかりました」


 オフィリアとも挨拶を交わす。

 エジン公爵のお嬢さんで、この領地で一番偉くなった人なのに、腰が低い。


 そしてカウフタンと比べると、ハイエースから降りる時、若干ホッとした様子だったのは、やはり、いきなり鬼に襲われ、押さえつけられ続けたトラウマだろうか。

 ハイエースそのものがトラウマにならなくて、ほんとよかった。


「戦士殿、アイ様のこと、よろしくお願いいするっす」


「ああ。そっちも大変だろうが……」


「余裕っすよ」


 自信満々に、それでいてまったく気負いもなく、今までのクオンを見ていれば、その言葉に偽りはないのだろうと思う。


 クオンは、オフィリアの重要度と危険度は以前よりもずっと増しているということで、護衛につくようにアイに命令された。


 礼拝堂で、アイを危険に晒すわけにはいかないと、強く主張していたクオンだ。

 クオンは『神器』アイに仕える隠密であるため、本当はアイの護衛につきたいのだろう。


 ここでアイから離れなければならないクオンは、内心心配でならないだろう。

 だがそんな様子をおくびにも出さないのは、隠密として心得ているからかもしれない。

 うん、やっぱりこいつ忍だ。


 それから、俺たちは別れを惜しみつつ、帰路につく。


 徒歩で半日の距離なんて、ハイエースならあっという間だ。

 バックミラーに皆の姿が見えなくなるのも、すぐだった。


「それじゃ戻ったら、あとはあちらさんから返事が届くのを待つだけか?」


「そうだな。連絡が取れたらすぐにでも向かった方がいいだろう。戻ったら即出られる準備をしよう」


「まあ、ハイエースなら余裕だよ」


 サミュエル自治領は、エジン公爵領城下町から徒歩なら3日はかかる距離だそうだ。

 ハイエースなら、屋敷からだとしても半日もあれば余裕の行程だ。


「うん、まあそうだろう。そうなのだがな……」


「ん? 何か問題が? ガソリン代もかからないし……あ、そうかわかったぞ。エチケット的な何かだな」


 なるほど、トイレ休憩か。

 サービスエリアのないこの世界では、用を足す場所もないだろうかなぁ。


「えちけっとが何なのかわからんが、多分おぬしには気付かない重要な問題がある」


「俺には気付かない?」


 とウルシャの方を見る。

 アイの言うことに同意、という感じでうなずかれた。


「あ、わかった。俺が運転できない事態に備えて、ウルシャにも運転を任せられるように教える必要があるって話だな」


「それはそれでやってもらいたい。あ、アイも運転したい」


「イセ、それだけじゃないんだ」


 ウルシャが、脱線しそうになるアイの言葉を引き継いで話す。


「衛兵隊と一緒に行軍している時、気付かなかったか?」


「……何に?」


 多分、俺は気づいていない。


「隊士たちは、この自動車を見て、ものすごく緊張していた」


「おっかなびっくりしてたんだぞ」


「そうだったのか?」


 それはまったく気付かなかった。


「馬もなく、人が引っ張ることもなく、人や馬よりもずっと速く走る自動車は、鬼よりもずっと恐れられている」


「あの隊士たちの中には、城下町で暴れ回っていたハイエースを見た者もいただろう」


「……なるほど」


 この世界では異様で面妖なおっかない代物の自動車。

 それは今までのことで十分にわかっている。

 わかっているつもりだが……それを今、深刻に話し始めるのは何故?


「なるほどと言いつつ、全然わかっていないな」


「そのようですね。やはり我々とは常識が異なるようです」


 ウルシャは俺の方を見て、言った。


「イセ、このハイエースはとても目立つんだ」


「うん、目立つね」


「屋敷からサミュエル自治領にすごいスピードで走るこいつを見た者たちは、どう思う?」


「あっ!? ああぁぁ……」


「鋼鉄の戦車が、ものすごい勢いで街道を走り回っている、などと噂されれば、街道を利用する者たちに余計な不安を与えることになるんだ」


「ましてや、サミュエル自治領は商業都市。そのような危険な場所への交易どうしようか? って話も出てくるだろう」


「お、おおぅ……」


 せっかく収まったエジン公爵領の混乱が、今度は俺のハイエースによって引き起こされる。

 それも、ただ走って移動しただけでだ。


「ってことは、ハイエースを持っていけない?」


 移動が半日で済むのが1週間近くかかることになる。

 それはそれで時間のロスが半端ないが、それ以上の懸念がある。


 ハイエースがなければ、キルケにさらわれた時のように、暴力に対して俺は何の対応もできなくなる。

 その危険さは、昨夜十分に味わった。


 そのことは分かっているのか、アイは首を横に振った。


「こいつ無しはありえない。だから屋敷に戻ったらまずはハイエースを偽装するぞ」


 偽装!?

 いったいどういう偽装をすれば、この世界にこいつが馴染むんだ?


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