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60話 車ひとつで何とかなるんですかね?

「自動車、しゃべるのか?」


「え、あ、いや……ナビがついていればしゃべることはあるけど……」


 俺はレンタカーで借りる時、近場の引っ越しで終わる予定だったのでナビ無しの、一番安いやつを借りたので、ナビはついてなかった。

 もし必要ならスマホの地図アプリがあったし。


 てか、そういう問題じゃないんだ、これは。


「そうか、こいつしゃべれたのか……」


「いやそんなわけない……はず」


 でもなんてたって、魔法のハイエースだからな。

 鬼たちを出して、ガソリンいらずで、オフロードもオンロードのように走れる優れものだ。

 しゃべるくらい造作もないかもしれない。


「……しゃべれるのか?」


 さすが異世界……ってもう、こっちの方が俺のいる世界で、元の世界の方が異世界か。

 いやぁ、ハイエースが話し出すって感慨深いな。


「そうか。イセの自動車は、魔法生物だったのか」


「でもなんで今までしゃべらなかったのか。不思議だ」


「意思は持っていたが、しゃべるまでは学習していなかったんじゃないか? イセも来た頃はこの世界のことまったく知らなかっただろ?」


 なるほど、そういうことなら納得だ。

 俺たちと接することで、ハイエースはようやく意思を示すだけの言語能力を得たというわけか。


「えっと自動車……なんて呼べばいい? 『至高なる(エース・オブ)鋼鉄の移動要塞(・ハイエース)』だったか?」


「ハイエースでいいよ」


「わかった。おいハイエース。アイがおぬしの主人の主だ。よろしくな」


 初交流で、まず自分が上の立場であることを表す。

 まずはしっかりと躾けをするというわけか。

 流石、アイだ。


 俺も習って主人であることをしっかりアピールしておくか。

 と思って近づいた時だった。


「ちょっと、出て行きづらいんだが……」


「なに!? 出てくる? 鬼みたいに出てくるのか?」


「え? どんな姿?」


 ハイエースの人型ってどんな?

 擬人化? やっぱりおにゃの子化してるのか?


 アイと一緒に笑顔で待っていると、後部扉がゆっくりと開く。


 そして出てきたのは、カウフタンだった。


「……えっと」


「あ、そっか」


 気絶していたカウフタンを、ハイエースに寝かせていたんだった。


「なんか、すまん」


 カウフタンが謝るが、忘れていたのはこっちなので、こっちも気まずい。


「忘れられていた上、謎の期待をされて辛いっすね。このままカウフタンが、しゃべる戦車の演技を続けたらどうしようかと思ってたっす」


「クオン、気づいてたのか?」


「声でわかるっすよ」


 と、クオンはウルシャの方を見る。

 ウルシャも、うむという感じでうなずいた。


 気付かなかったのは俺とアイだけのようだ。

 気恥ずかしい。


「それで、カウフタン殿。ケアニス様の件だが、無理という根拠は?」


 ウルシャは、ハイエースのフリをして話しだした内容の続きを、カウフタンに促す。

 アイが、間違えた恥ずかしさを何とかフォローしようという、護衛の気遣いを感じさせる。


 カウフタンも、気まずそうな様子から一転して真面目な表情を作った。


「ケアニス様は、亜人の軍勢を避けることができる天使だぞ? 何とかなるならないの問題じゃない」


「そ、そうなの?」


「おまえ天界に喧嘩を売っておいて、何の勝算もなしか……」


「ほら、カウフタンにした俺の力って、天使の力を消し去ったみたいだし」


「その力は、コントロール可能なのか?」


「…………うん」


「今、間が空いたぞ。もう一度聞く、コントロールできんのか?」


「…………」


「今度はだんまりか……」


「いやほら、この場を何とかしようとノリと勢いでさ」


「ノリにもほどがある!!」


 カウフタンは、部下を叱るようにピシャリと俺に言う。

 思わずビクッと気をつけの姿勢をとってしまう。


 ぎろりと睨むカウフタンの迫力にも、思わず冷や汗が出そうだ。


「だが……あの場でキルケ様を捕まえるような真似をしなかったのは、良かった。天使長を捕虜にするなど前代未聞過ぎて、エジン公爵領ごと消えるような事態に発展した可能性があるからな」


 ……マジか?

 それは、天界に自主的に戻ってもらってよかったってことか。


「そして、その危険はまだ続いている」


「あ、やっぱり、俺のせい?」


「当たり前だ。そして……アイ様、あなたが原因です」


「わかっている」


 カウフタンの指摘は、アイがキルケに目をつけられた俺を切り離すことができなかったことだ。

 いや、ホントに、迷惑かけてるな、俺。


「私達は、皆上手く立ち回らなければならない。イセとアイ様はもちろんだが、我々エジン公爵領の全員だ」


 カウフタンは、俺とアイ、そしてウルシャとクオンを見ながら言う。


「カウフタン、どうしたらいい?」


「まずは1つ。私からの提案は、イセを切り離すこと。アイ様はもちろん、エジン公爵ともイセは関係ないと示すこと」


「断る。というか、話を聞いてなかったのか?」


「いえ。そう言うと思ってました。あなた様は優し過ぎる」


 カウフタンは苦笑して、それから自らの提案の非礼をわびた。


「でしたら、我らは腹をくくるしかない。アイ様の危険はもちろん考慮に入れるが、とてもじゃないがアイ様のお力無しにクリアできる問題ではない」


 そう言って、ウルシャとクオンの方を見るカウフタン。

 アイが俺と一緒にケアニスのところに行こうとするのを止めていた2人を牽制しているようだ。


「ひょっとして、カウフタンは手伝ってくれる?」


「仕方なかろう。せっかく改めて衛兵隊を掌握したばかり。エジン公爵領の方針についてもこれからって時だ。この問題に失敗は許されぬ」


 カウフタンは、俺を威嚇するように睨んでくる。


「こうなったら、イセにはキルケ様にした約束を果たしてもらう他ない」


 『神器』にして天使ケアニスの攻略か。

 天界に逆らう堕天使を討つことになるのか。


「ひとつ、考えがある」


「おおっ!? カウフタン、マジか?」


 アイが、目を丸くして食いついた。


「はい。まずは、サミュエル自治領に話を持っていきましょう」


「なぬ? あそこの通商連合か? 何故に?」


「彼らは、亜人たちとの商売をしたがっているからです」


「ほほう……」


 サミュエル自治領?

 通商連合?


 なんかまた新しいの出てきたな。


 天界、亜人たち、そして通商連合。

 規模がでかすぎて、もはや魔法のワゴン車一台で何とかなる話じゃなくね?


 自分がキルケに提案したことのやばさが、じわじわと響いてきてる?


「戦士殿、ついていけてるっすか?」


「いや、ぜんぜん」


 いったい俺はどうすればいいの?

 どこにハイエースを走らせればいいの?


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