59話 俺の提案やばそう?
「ひとまず、なんとか無事にのりきったな」
とアイとウルシャを見るが、ふたりとも「うーん」ともにょっている感じ。
無事とはいえない?
厄介事が増えた感じもあるので、事態は悪化してる?
でも、ここを乗り切らねば、天界とことを構えることになったと思えば、だいぶマシじゃなかろうか。
「あのー、終わりっすかね?」
大穴が空いて、それを塞いでいる大きな布をめくってひょっこりと現れたのはクオンだった。
「来てたのか?」
「はい。アイ様とウルシャさんが天使たちを追って、戦車で出ていくのを見て、しばらく屋根の上に張り付いてたっす」
おお、カースタントみたいな真似をしてたのか。
さすが、忍者だ。クノイチだ。
「危なくなったら出ていこうと思ったのですが、どうやらなんとかなったみたいっすね」
「まあ、なんとかなったとは言える……よね?」
と俺がアイとウルシャの方を見ると、また「うーん」って感じで首をかしげる。
そこまで言いづらそうにしてるということは……
「ひょっとしてやばそう? 俺の提案かなりやばそう?」
「普通に考えたら、おぬしの提案は無い。まったくな無い。想像もつかない」
「はい。天界の天使長様に力をお貸ししますとか、とても想像もつきませんね……まるで、店先で値引き交渉してる軽い感覚で話してて、正直わけわかりませんでした」
「言い得て妙だな。なんでそんなに簡単に軽くあんな交渉ができるのか、不思議でならん」
「…………」
やばそうっていうか、どっちかというと呆れられている?
「アイも正直埒外だ。だがおぬしはそもそもが規格外だからな。あるいはおぬしならと思わなくもない」
と苦笑するアイ。
アイは少しこのことについて考える余裕出てきた感じがした。
「具体的にはどうやばいのかな? 天界の問題に対応みたいにすればいいかなと思ったんだが」
「その発想がそもそも恐れ多い」
ウルシャの言う恐れ多いっていう感覚がまったくないので、わからない。
「イセ、天界はこの世界を支配しているとも言える存在なんだ。そこに楯突くっていうのはありえんのだ」
「アイだって楯突いてたじゃん。そもそも、楯突かないと俺殺されてたんだよ」
「まあそうだったな……」
「私は、戦車でキルケ様を轢き殺しそうになりました……」
この世界の人間的には、ただ事故を起こすよりもずっと罪深いことをしそうになっていたのか……
そこまでして助けてくれたっていうのは、とてもありがたい。
「……そうだな。イセがいなければ、エジン公爵領という後ろ盾を失って、カウフマンに捕まっていただろうってことを考えると、イセなら何とかなるのかもしれん」
アイはそう言って、浮かない思いを振り払った様子で笑った。
「よし、アイも協力してケアニスを倒すぞ」
「おう。それでこそアイだ」
「待ってください!」
俺とアイの、やってやるぜの気合に、水を差すウルシャ。
「アイ様をそんな危険に晒すわけにはっ」
「いやウルシャ、乗りかかった船だし」
「そんな簡単にとんでもない結論にしないでくださいっ」
「ウルシャさんだって、ハイエースで天使ひき殺そうとしたんだから、腹くくってくださいよ」
「そんな物騒な決断を、簡単に促すなっ」
「ん? んん? どうしたんすか? 何か問題ありありなんすか?」
話についていけてないクオンに、俺とアイとウルシャはそれぞれ説明をした。
すると、クオンが眉を寄せて、開き直る前のアイやウルシャみたいな表情をつくった。
「……それって、原因が思いっきり戦士殿じゃないっすか」
「え?」
「戦士殿がケアニス様を何とかするって言ったんすから、戦士殿が何とかしなきゃいけないんじゃないっすかね?」
「いや、そりゃそうだけど……一緒にやるんじゃないの?」
「アイ様はその問題にそのものには関係ないように聞こえたっすよ?」
「あれ? そう?」
「てっきり、アイ様のために、戦士殿が犠牲になるのかなって」
「…………おう」
俺が命を狙われただけで、アイは俺を排除しろみたいに言われたのを、一生懸命かばってくれただけだ。
これ以上は、アイの迷惑になるか。
俺の方こそ腹をくくらないといけないか。
と考えていると、アイが割り込んできた。
「クオン。アイはイセの主だ。ひとりで戦わせることはないぞ」
「でもアイ様。アイ様がこれ以上危険になるのは僕らも見過ごせないっすよ?」
「見過ごさず、クオンもウルシャも、イセの手伝いをすればいい」
「いやまあ、そりゃアイ様のためならやるっすけど……」
「その危険にアイ様が加わるのは、私たち護衛としても許せません」
「うん、わかるよ。ウルシャさんとクオンの言うこと、すごくわかる。まあ、これは俺一人で……」
「ならん! なんのためにアイたちは自動車でここまで来たんだ。イセを守るためだ。ここまでまたイセひとりで戦いに行かせたら、意味がないだろう」
アイは、自分の身を案じてくれているウルシャとクオンに対し、それでも俺を守るためにと怒ってくれている。
ほんと……いい子だよなぁ……
こんな子、俺、会ったこと無い。
「とにかくだ。アイはイセと共に行くぞ。これは『神器』の問題でもあるんだからな……ってイセ、なんでアイの頭を撫でているんだ?」
「いや、ほんといい子だなと思ってつい」
「いい子? なんだそれ……何故、そんなちっちゃい子みたいな扱いを、おぬしがするんだ? おじいさん達ならともかく……」
と言いつつも、撫でられたままのアイ。
少しだけ、頬が緩んでいる感じがするのは、アイも気持ちいいからか。
何この子、可愛い。
「すごいっすな。『神器』をペット扱いっすよ」
「イセ、お前というやつは……」
特に危険もなく、アイが受け入れている以上、手を出さないという感じのふたり。
せっかくだからこのまましばらく撫でていよう。
「アイ、ありがとう。助けにきてくれて」
「ん……こちらこそだ、イセ。おぬしのことは頼りにしてるぞ」
「ああ……まあ、ケアニスの方は何とかなるさ」
「ならんぞ」
「「「「っ!?」」」」
アイの頭を撫でてほっこりしていた空気の中、俺たち4人以外の声に否定されて、その声の方を見ると、そこには大きな車体しかない。
なら声の主は……
「……ハイエースがしゃべった?」
マジか!?




