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58話 『神器』会談終了

 堕天使ケアニス? 何者?

 そう質問する前に、ウルシャが俺の疑問に答えてくれた。


「ケアニス様は、人間の世界を亜人たちから守っている天使様です」


 ウルシャの言葉に、アイもキルケも否定しなかった。


 天使様? 堕天使ではなく?

 てかそもそも亜人って? エルフとかドワーフいるの?


 そう質問する雰囲気ではなく、アイとキルケの対峙は俺を無視して続く。


 ここでは聞けず、後から知ったのだが……先にここでケアニスについて俺が知ったことを記しておく。


 天使ケアニス。

 『神器』のひとり。

 キルケの後に『神器』になった天使。


 神がこの世界を去った後に生まれた天使のひとり。

 天使としての力も大きく、精神的にも高潔で、将来を有望されていた。


 生まれてから年月浅いうちに『神器』にも選ばれ、キルケら天使長たちも将来天界を導く存在になると期待していた。


 そんなケアニスはある時、地上に降り立つ。

 場所はエジン公爵領のある帝国の国境にあたるコンウォル辺境伯領にある城塞。

 そこは『魔境城塞』と通称される、人間の領土と亜人たちの領土とを分ける場所だった。


 その魔境城塞に、亜人たちが攻めてきた。

 それをケアニスが、守りきった。


 その後も、ケアニスは魔境城塞を根城にし、人間たちを亜人たちから守っている。

 守護天使ケアニスと呼び、人々から敬われている。


「だが、キルケ。あれは天界の意図とは違うんだったな」


「そうだ。あれは守っているのではない」


 どういうこと? と何とか話についていこうとする俺だが、さらに話は進む。


「われわれは、亜人たちにも神の教えを広める方が筋だと考えている。人間も亜人たちも、我々から見れば平等だからな」


「だが、ケアニスが動き、亜人たちを攻撃したことで、人間と亜人との関係は悪化した。魔境城塞は、彼らと交易するための唯一の場所だったからな」


 細々とだが続いていた交流と交易が、ケアニスの行動によって滞ってしまった。

 アイの組織、AI機関の調査によって導いた答えが、ケアニスによる人間と亜人の分断という事実だった。


「そして天界はケアニスの行為を黙認している」


「違う。天界の総意からは明らかに外れた行為だ。何を考えているのかわからん」


「故に堕天使か」


 天界を無視して勝手にしてる堕天使ケアニスに手を焼いている天使長キルケ。

 そのせいで、人間と亜人が不仲になっている。

 という構図か。


 その点は……人間側のアイと、天界側のキルケと、歩み寄れる点、だよな?


 そして……ケアニスはまだ『神器』で、神になれる資格を有している。

 問題はそこなんだろう。


「あのいいですか? ならなおのこと『神器』同士の会合を開くべきでは? 天使としてではなく、『神器』としてならそのケアニスも動く可能性があるのでは。真意も聞き出せるかと」


 俺がそう発言すると、キルケは首を横に振る。


「ならぬ。やつは天界の使者を殺した。我々『神器』と同じ席に立つことは、私が許さん」


 おうぅ、そこまでこじれていたのか。

 アイもそれは知らなかったのか、顔をしかめた。


「奴は排除する。天界では決定事項だ」


 天界の裏事情。

 そのために、『神器』同士の争いを可能にするため、アイにちょっかいを出していた。

 いいように利用されているんだな、アイは……


 ここは『神器』アイの存在を確固にするためにも、天使たちにも通用する俺の『力』を使うところだろう。


「で、話を前に戻しますが、そのケアニスってのを、俺が何とかしましょう」


「この話も知らなかったお前になにができる?」


「知らなかったからこそ、部外者として首を突っ込むことはできますよ。エジン公爵領で俺のやったこと、キルケさんの耳には入っているんじゃないですか? だから俺の排除に動けたんでしょう?」


「ま、まさか、イセ……」


 ウルシャとアイが、わななきながら俺を見る。


「ケアニスを、ハイエースする気か?」


 俺の『力』をというと、何かとハイエースする気かと恐れられていた。

 それは違うよと今までは否定し続けていたが……


「そうです」


 もう俺としては、サイコパスよろしく満面の笑みでニッコリと肯定してやった。

 ぞわぞわと鳥肌たちそうなやばいやつに見えているに違いない。

 ……退かれてるだけかもしれないけど。


 まあそっちはおいといて、キルケへの交渉を続けよう。


「場合によっては、俺の『力』で天使の力を消すこともできそうですよ?」


「っ!?」


 キルケが恐れ、排除しようとした性別を変えた俺の『力』。

 それを、天界の敵となったケアニスに向けると、俺は宣言した。


 それは彼にとっては願ったり叶ったりだろう。


「まさに俺の『力』を借りるにふさわしい事案、と思いませんか?」


「…………」


 キルケが無言でこちらを見つめる。

 強い意思が感じられる目は、すでに決断をしているように見えた。


「キルケさん、ご返答は?」


「お前については天界に戻り審議する必要がある。非常に危険な存在だ」


「危険と思われるのは心外ですが、いくらでも審議をしてください。しばらく空転しててくれればそれでいいです」


「……我々をこのまま見逃すと?」


「もちろんです。捕まえるつもりはないですから」


 どうぞおかえりください、と道をゆずる。


「こちらの礼拝堂の修繕費はお願いします」


「わかった」


 と言って、キルケは戦士の天使たちを率いて外に出る。

 そして、キルケは天使たちと同じような羽根を背中に出現させた。


「アイ、そいつにはせいぜい気をつけろ。『神器』としての自覚を持て」


「…………」


 アイは無言で見送る。

 キルケも返事は期待してないのか、天使の戦士たちと飛んでいく。


 夜空を飛んでいくのを見送り、ようやくこの危機から一時解放されたと少し安心できた。


 最後まで俺の提案には答えなかったが、ここで動くよりかはしばらく様子見していた方が、彼らにとっては都合いいくらいには考えただろう。


 ああいう答えをはぐらかし、いつでも後出しジャンケンできるよう、積極的曖昧さで振る舞うやつ、元いた世界にもたくさんいたなぁと思い出す。


 いやだね、影響力を弄ぶようなの奴らは。


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