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56話 『神器』会談 その4

 突破口。

 それはおそらく『神器』そのもの。


 『神器』の中に、キルケが避けたいものがある。

 それは『神器』の仕組みそのものなのか、それともここにいない4人の『神器』の誰かなのか。

 『神器』全員の可能性もある。


 その手がかりを、今ここで少しでもいいから探り、利用する。


「何故? 『神器』同士で、お互いの争いの件を話してはいけないのでしょうか? やはり争いはご法度だからですかね?」


「お前の『力』が問題なのだ。『神器』の問題ではない。はっきり言おう。これは天界とお前との問題だ」


「アイは、イセの保護者だぞ。イセと天界だけの問題じゃない」


「ならば私は、『神器』としてではなく、天界の天使長としてイセを排除する。戦士たちよ」


 キルケの命令で、天使の戦士たちが同時に腰の剣に手をかける。

 半歩も前に出ずとも、彼らの圧力は相当なものでアイと俺は一瞬でびびる。


 だが、まったくひるまず、今まで護衛として警戒していたウルシャがここにいる誰よりも速くアイと俺の前に出た。

 剣も抜かずに。


「キルケ様、命令の撤回をお願いします。私の剣は天使様方に向けるものではございません。ですが『神器』アイ様に危害を加えようとするのであれば……抜かさせていただきます」


 ウルシャは、柄に手もかけてない。

 だが、本気のウルシャが誰よりも速く剣を抜くことは、容易に想像できた。


 そして、キルケと天使たちすら怯ますウルシャの剣気の頼もしさで、俺も強気に出られた。


 『人喰い(オーガ・)鬼の分隊(スレイバー)』!!!


 そう口にしようとした。

 そして、アイとウルシャを守れと言うつもりだった。


 だが、俺は思っただけだった。

 強く、アイとウルシャを守らねばと思っただけだった。


 それだけで、鬼たちは現れた。


「「「っ!?」」」


 ハイエースの後部座席の扉が瞬時に開き、その音に気づいて後ろを振り返ろうと思った瞬間には、そこから現れた鬼たちが、俺とアイとウルシャを囲むように立っていた。


「…………」


 俺も、あまりの速さに言葉にならない。

 他の3人と一緒に、俺もびっくりしていた。


 こ、これに……レ○プされそうになるの?

 ちょっとだけ、今まで捕まった経験のある4人に同情した。


「……ど、どう、ですか? これでも、退かないのですか? キルケさん」


 うわずりながら、なんとか声にしてキルケを脅す。

 キルケは、冷や汗をかいている様子で、手をかかげる。


「……退け」


 天使の戦士たちは、その命令で一歩下がって柄から手を離した。


 一触即発の空気は、数秒しかなかったが、どっと疲れた。


「鬼たちよ、下がれ」


 さっきまでのスピードが嘘のように、ダラダラと歩きながらハイエースの車内へと戻っていく。


 マジで、なんなのこの『力』……

 キルケじゃなくても、こいつヤバいって思うわ。


 だが今は、キルケに対してはとても使える。

 今、この段階での力の差を、見せつけることができた。


 こちらの話を、通しやすい。


「……私をどうするつもりだ?」


 力の差を感じつつ、この場を何とか打開しようとしているキルケ。

 だが、打開されると、こちらも危ないのでさせるわけにはいかない。


「殺すのか? 捕まえるのか? どっちにしろ私がいなくとも、変わらない。天界の中に、おぬしの『力』を良しとする者はいない」


「変わらないなら、殺しませんし、捕まえません」


 俺の言葉に、アイとウルシャが反応する。


「……やはりハイエースなのか?」


「女にしてレ○プか?」


「しないから。そこから離れてくれませんかね?」


 こっちを怯えた目で見るのが変わらない。

 全然離れてくれなくて、辛い。


「ならどうする?」


「この争いを『神器』同士の争いということにすることはしないんですよね? さらには俺を排除するのは止めない、と」


 無言だが、それが肯定という意味だろう。


 ならば、俺が今できることは……


「……なら俺を排除する争いを始めるまでの、猶予時間をくれませんか?」


「なに?」


「そしてその時間をくれたキルケさんには、俺の『力』を貸しましょう」


「「「は?」」」


 キルケも、そしてアイもウルシャも、こいつ何言ってんだ? って顔をした。

 よしよし、俺の話を聞いているな。


 どう転んでも悪くなる一方なこの状況を、俺なりに転がしてみようか。


 それじゃ、一世一代の大博打だ!!


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