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52話 『神器』会談前

 天界の天使の長のひとりにして『神器』であるキルケ。

 天使の戦士を従えて、俺を排除しようとした者。


 それが、俺のハイエースが来た途端、無力化されている。


 今なら、逆にこっちがこいつを排除できるかもしれない?


「イセ、怖いこと考えてないか?」


「……いや」


「まあ殺されそうになったなら仕方ないよな。そうだろう? キルケ」


 キルケは、話すこともできずアイの方を睨んでいる。


「そう邪険にしないでくれ。いきなり襲ってきた非礼をわびて欲しいが、そちらも事情があるのはわかる。とりあえず話し合いの場を持たないか?」


 キルケは答えられない。

 アイは一方的にしゃべる。


「こちらには、今おぬしと天使の戦士たちを拘束できるだけの力がある。これはイセの『力』だ」


 キルケは、こちらを睨みつけた。

 焦りの色が伺える。


 また少しだけ、ざまみろと思えたので気が楽になった。


「今はアイがおぬしを傷つけないように頼んでいるから、無事で済んでいる。そしておぬしたちが傷つくことをアイは望んでいない。この気持ちを察してくれないか?」


「…………」


「話し合い、どうだろうか?」


 キルケは相変わらず答えられない。

 だが、拘束されながらも、こくりと少しうなずいた。


「よし。そうと決まれば、まずは……」


 アイはハイエースが入ってきた見るも無残に壊された入り口の方を見た。


「この状況を何とかしようか」


 その後は、アイが大活躍だった。


 夜中、突然礼拝堂で大きな破壊音がして、慌てて出てきた村人たち。

 教皇庁から来たという偉い聖職者に場所を貸した後だったので、村人たちは皆不安がっていた。


 そこに『神器』のアイ様が登場。

 村近くの公爵の別荘であった屋敷からやってきた。

 『神器』に関わる問題として、村人たちに何の問題もないことと説明した。


 でも礼拝堂とか壊してるし、天使を見かけたし、馬もなしに動く戦車も見た、という声があがった。

 とても、問題がないとは言えない状況があった。


 だがそこは魔法使いのアイ。

 魔法で精神操作し、礼拝堂付近で起こったことは問題ない、と信じさせた。

 安心して戻っていく村人たちを見て、疲れた顔をしているアイだが、アイなのにとてもよく頑張ったと思った。


 さらには、礼拝堂の入り口の大穴を隠す大きな布を借りることも出来た。

 村の祭で使うものらしい。

 これでひとまず礼拝堂で話せるくらいの環境は整えられた。


 その間も、俺はキルケたちを鬼に拘束させていた。

 何されるかわかったものじゃないので、口も塞いで、目も塞いでおいた。


 村人たちも、まさか天使様が、貸した礼拝堂で捕まっているとは夢にも思うまい。

 と思うと、なんだかこっちが犯罪者なような気分になってくる。

 同じ気分なのか、ウルシャも若干緊張顔だ。


 ちなみに、カウフタンはまだ絶賛気絶中。

 起こしてキルケに味方されると面倒なので、そのままにして後部座席のソファに寝てもらっている。


 そして、アイと俺のふたりで運転席と助手席に座って、窓を閉めて内緒話をする。

 ウルシャには、キルケたちが鬼の拘束を何とかしないか見張ってもらっている。


「キルケから、できる限り情報を引き出すぞ」


 いきなりアイは、これから行われる話し合いについて語りだした。


「やつは天使長で『神器』だ。自ら動き出したということは、大きな意図がある」


「それなら俺を世界を乱す者として排除しようとしてた」


「だろうな。この世界の法則を捻じ曲げる『力』を、あいつは望んでいない」


 あいつと言いながら、外にいるキルケを示した。


「ただし、天界の『力』以外はだ。あいつはアイ以外の魔法使いを排除した天使だ」


「え? 皆殺し?」


「いや。そうじゃない。魔法使いが使う『魔』法の法そのものを、天界の『力』で書き換えたんだ」


「書き換える? それってつまり、世界はこうやってこうできてるみたいなのを、作り変えた?」


「まあ、そう言ってもいい。『神』の使いである天使たちのいる天界は、そういう『力』がある」


「そんな『力』……それって『神』じゃないの?」


「そうじゃない。あくまで魔法使いたちが使う魔法の土台をぐちゃぐちゃにしただけだ。法則が崩れただけで、原型はある。手間もかかるし、確率も低くなるが、使えないことはない。だが、使えるのは私だけになってしまった」


 正直、アイの話す内容は、半分もわからない。

 でも……話しているアイから若干の怒りが感じられた。


「そこまでした天界なんだ。だからイセの示した『力』は、おそらくキルケは認めない」


「あ……それは、聞いてる。だから排除しようとしていた」


「これからの話し合いはアイとキルケ、『神器』同士の話し合いになるが、話の中心はイセ、おぬしだ」


 アイは真剣に俺を見つめながら訴える。


「だからイセ、気を抜くな。今は抑え込んでいるが、相手はキルケ。天使長のひとりにして『神器』だ」


 アイの忠告は、とてもありがたい。


 俺は改めて気を引き締める。

 アイは忠告をしながら、こうも伝えているのだ。


 魔法使いアイと、天使キルケの諍い、という問題だけじゃない。

 魔法の法則を書き換えるだけの『力』を持つ天界と、俺という存在との問題なのだ、と。


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