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50話 やってくる移動要塞

「なんだ? なんだこれは?」


 キルケは焦りをそのまま言葉にしている。


 ブロロロロロッ。

 この世界では独特な音の響きは、どんどん大きくなっていった。


 その音は近づくにつれ、建物と地面を微震させる。

 もう俺としては間違いなく来てると確信する。


 俺が拐かされて、絶体絶命の危機になり、『力』が反応したのか。

 乗り手である主人を守るため、今まで使っていた以上の力を発揮する。

 そういうやつか?


 よくある話だが、実際に接してみると、不安強いな。

 単純に喜べない。


 だいたい、自分でコントロールしてないのに動くって、不安しかないぞ。

 どうやって障害物を避けてるの?

 ここまでの道のりは?


 不安は尽きないが、今はこの俺を殺そうとしたキルケの意識が礼拝堂の外に向いているのは、チャンスだ。


 俺はカウフタンの方へと転がり、拘束された足のまま膝立ちになって、カウフタンを守るようにキルケを睨んだ。


「おい! この音はなんだっ!?」


「お前が恐れた、俺の『力』だ」


「なん、だと!?」


 来た!!

 なんだと、来た!!


 これが勝ちフラグか。

 俺は思わずニヤリと笑った。不敵な笑みになっているに違いない。

 内心の焦りを覆い隠せて、引きつった笑みには見えないに違いない。


 ブロロロロッ!!

 音はひときわ大きくなり、地響きもはっきりわかる。

 多分、この世界の建物は日本の建築法とか技術とかと比べると脆いから、こんなにビリビリ言わせているんだろうなぁとか思いつつ……焦る。


 この走ってくる勢いって……やっぱり……


 ブロロロロッ!!

 もう礼拝堂のすぐそこ、という音が響いた。


 俺は、やばい予感からとっさに動いた。

 礼拝堂の中央付近からカウフタンの体をすくい上げて放り投げて、さらに自分の身も投げるように横っ飛びした。


 その瞬間――


 バキバキッ!! ガシャンッ!!

 と、外へと続く扉付近が大きく壊れた。


 壁や扉などものともせず突き破って出てきた、もはや馴染み過ぎたフェイス。

 ハイエースの正面の姿。


 それが突っ込んできて、キーーッ!! とドラムブレーキの音を響かせ、礼拝堂の中央付近で止まった。


「――っ」


 ハイエースは止まった――顔面蒼白なキルケの目の前で。


 あ、これ見覚えがある。

 再放送の昔のドラマ。

 愛の告白途中で身投げしてトラックに轢かれそうになるが、ギリギリで平気というやつ。


 己の死なないアピールを、超豪運で示すという凄さ。

 インパクトは絶大だった。


 今、それを目の前で見て、心臓バクバクいってる。

 インパクトは絶大だった。

 き、キルケ……豪運!?


 焦る俺とキルケを前に、ハイエースの助手席の窓が開く。

 開いた窓からひょこっと顔を出すアイ。


「助けにきたぞっ!!」


「殺す気かっ!?」


 言われた瞬間、俺は今、頭に浮かんでいる、というかそれしか浮かんでいない言葉を叫んだ。


「ん? あれ?」


 言われたアイは、きょとんとしている。

 その不思議そうな顔のまま、アイはハイエースを降りて、俺に近づいてくる。


「助けに来たよ?」


「あ、ああ、ありがとう……うん、そうだな……」


 助けに来たんだよな。

 でも……今のは……俺、カウフタンを放り投げて横っ飛びしなければ、多分死んでた。

 キルケの目の前で、ハイエースの下敷きになってた。


 この世界に来て、最大のピンチだった。


「あ! カウフタンもいるな。良かった、無事で」


「ほんとに、無事でよかった」


 元いた世界でも、この世界でも交通事故で死亡って、ちょっと俺の命が運命に弄ばれ過ぎる。

 そうならなくてよかった。


「あ、そうか。ハイエース来てるなら……」


 俺は鬼たちを後部座席から出現させる。


 丁度今、ハイエースを前に、呆然としているキルケ。

 捕まえておくなら今だろう。


 俺はキルケと、何故か動かない天使の戦士たちを、鬼たちを使って羽交い締めにした。

 あっさりと形勢逆転。


 捕まっても、まだうんともすんとも言わないキルケ……よっぽど驚いたんだろうなぁ……


 そして俺は、アイに拘束を解いてもらって、それからまだ気絶中のカウフタンの拘束を解いた。


「ハイエース、呼ばなくても俺がピンチだと駆けつけてくるんだな……」


「何を言っているんだ? アイたちが乗ってきたんだぞ」


「え……」


「ほら、こいつで」


 と、アイが俺に見せるのは、俺の免許証だった。


「いや、だからこいつがあるからって運転は……」


 と言いながら、運転席を見ると、そこにはウルシャが座っていた。

 運転席で、疲れ切ったようにうなだれている。


「え? ウルシャさんが、運転してきたんですかっ!?」


 俺に反応したウルシャさんは顔をあげてうなずき、つぶやくように言った。


「……止まれて良かった」


 ウルシャさんは、げっそりと疲れ切った顔で、無理矢理笑顔を作った。


 まさかの無免許運転!?


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