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4話 人喰い鬼の分隊

大きな力を発揮する物は、それを扱う者もまたそれに見合うだけの力が必要……という話を聞いたことがある。


いきなり免許取り立ての人間が、映像でしか見たことがないようなモンスタートラックを運転して町中を走れるかというと、難しい。


大口径の銃をいきなり撃てと言われても、撃てるには撃てるが自分や味方の安全を考えて扱うことができるかというと怪しい。


名匠が作った高価な楽器を使って鳴らすことができる最高の音を出すのは、名奏者でないと無理だ。


名刀を素人が使ったとしても、あのくるっと丸めた畳表を綺麗に斬ることができるかというと、技術がないからそもそも切ることすら怪しい。


俺が得た『力』もまた、そんなタイプの物なんじゃないか、と思った。






「『人喰い(オーガ・)鬼の分隊(スレイバー)』……」


つぶやくと、鬼たちは並んでこっちを見ている。


鬼たちから解放されたアイは、俺のうしろに隠れてガタガタ震えていた。


「な、な、なんだこの怖いのは……」


「『人喰い(オーガ・)鬼の分隊(スレイバー)』って言って、俺の『力』みたい……多分」


ハイエースにくっついていた、人喰い鬼たち。


おそらく、あのネットスラング的に考えると……車内に連れ込んであれやこれやするための……


「す、す、すごい『力』だな……オーガス・レイパーか……」


「レイバー!! じゃなくて、切るところ違う! 『人喰い(オーガ・)鬼の分隊(スレイバー)』!」


「ひっ!?」


殺さないでっ、みたいな怯え方をされて焦る。


「ご、ごめんっ、そんな怖がらないでっ」


「ん……な、そ、そんな怖がってない、ぞ?」


めちゃめちゃ怖がっているアイ。


でも、その言い間違えはダメだ。


そこは断固として否定しておかないといかん。


でも、怯えきってる子をさらに怯えさせるのは良心の呵責的に耐えきれなかった。


「この鬼たちは……その……おぬしの『力』……でいいんだよな? そうだよな?」


「……多分。俺の命令を聞くっぽい」


そう言った後、鬼たちに向かって整列と言ってみたら並んだ。


前ならえと言ったら、前ならえした。


休めと言ったら休めの姿勢をとった。


車の回りを走れと言ったら、ゆっくりと走り出した。


ハイエースの回りをゆっくりと鬼たちが走り続けている。とてもシュールな光景だ。


「うん、命令聞く」


「ってことはさっきアイを襲ったのは……」


「違う。あれは……やつらの本能」


「本能!? すっごく怖くないか!?」


「同意。超怖い」


「同意じゃないよ! なんて『力』なんだよ!! はっ!? まさか元の世界で、あんなことをしてたから……」


「ないよ! 混乱してるんだっ! いきなりこんな『力』もらって混乱してるんだっ! そもそも『ハイエースする』なんて、都市伝説くらいにしか思ってないよ! でないと冗談でも言えないわっ!!!」


そうなのだ。『ハイエースする』は、ネットスラングなんだ。


二次創作で使われたりするレベルの、公式の許可とか取ってるわけないだろ的なものでしか使われないものなんだ。


「働いたら負け」クラスの戯言レベルのものとしか思っていない。


だから気軽にネタとして使って、ケラケラ笑ってられたわけで、それが現実として目の前にあると、混乱するしかない。


ハイエースの周りを真面目にジョギングしている人喰い鬼たちというシュールな光景が、俺の混乱を物語っている。


「むむ……」


「信じてくれ」


「……それは……うん。信じてる。襲われてるところ、止めてくれたし」


「ほんと、ごめん」


「いや、いい……」


いきなり襲われた側としては、そりゃ怖がるよな……


なのに、俺のことは恐れて引いたりしていない。そのことに、ほっとしている。


そしてしばらく、ハイエースの周りをぐるぐる回る光景を眺め続ける。


じっとしてると、車と鬼との魔力の流れみたいなものを意識でき始める。


ハイエースも鬼たちも、溢れそうなくらいの力がある。


異世界転生者が『力』を持つということを実感できる。


「……この『力』を俺は使いこなせないといけない、ということか」


俺のつぶやきに、アイが反応した。


「まさか、またアイに襲いかかるのかっ!?」


「違う!」


思いっきりあとずさるので、思いっきり否定した。


「わかった! そこまで疑うのなら約束する! 俺はこの『力』を悪いことには絶対に使わない!! 絶対にだ!!」


「…………すまん」


あとずさって、じわじわと引いていたアイが、近くまで戻ってきてくれた。


「この『力』をみんなの役に立つように使う。絶対にそうする」


「おう。……頼む」


アイはそう言ってぎこちなく笑って握手を求めてくる。


頼むと言ったそれは、彼女なりの責任感だろうか。


俺という存在を召喚してしまった者として、俺の『力』にも責任を感じているということだろうか。


「頼まれた」


俺はその小さな手をとった。


この時のアイの手の感触を忘れないようにしようと思った。


忘れないうちは、約束のことも忘れないだろう、と。


「それで……具体的にはどう使うつもりだ?」


「…………」


ハイエースという積載量の多いワゴン車。


言うことを聞く屈強な鬼たち。


それらを組み合わせ、掛け合わせてできること……ハイエースする……は置いといて。


「……引っ越しならお手の物だな」


友人んちの引っ越しの時に、この鬼たちがいればすごい楽だっただろう。


「どこに引っ越すんだ?」


「知らん」


そこでふと思いついた。


「ああ、そうだ……そこだ」


俺が指をさしたのは、ハイエースが通れない入り口だ。


「ここを鬼たちを使って壊そう」


我ながら、ナイスアイデアと手を叩いた。


それで鬼たちはジョギングを止めて、こっちへ来る。


「あの扉を壊して、ハイエースが通れるくらいの穴をあけろ。全力でだ」


鬼たちは、わかったと言う感じでうなずき、扉へ向かう。


彼らが向かうと同時に、ハイエースの後部扉が開いた。


びくっとなってアイとふたりでそっちを見ると、わらわらと鬼たちがまた出てきた。


7匹出てきて、先行した3匹についていく。合計10匹の鬼たち。


それが扉の前で壁とかを見た後、おもむろに扉を引っこ抜くように壊し、その周りの壁を素手で殴り壊し始めた。


合計10匹の人喰い鬼たちが、壁を殴って壊し続ける光景は……正直怖い。


アイも若干震えていた。


「ちゃんと制御を、お願いします」


「はい、わかりました」


丁寧にお願いされてしまった。


大きな力を発揮する物は、それを扱う者もまたそれに見合うだけの力が必要というのは本当みたいだ。


暴走させないようにしないといかん、と隣の幼女を見ながら思った。

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