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48話 この世界に来たもの

「アイが許さないっていうのはですね、『神器』同士の争いは禁じているんですよ。ただ我々の関係者同士の争いには別に制限が設けられてませんから、こうして部下につれてこさせたわけです」


 こちらがわからないであろうことを、丁寧に解説してくれるキルケ。

 この辺はアイとは段違いだ。


「つまり、代理戦争はOKと」


「そういうことになります」


「だからカウフマンを使って、アイの縄張りに手を出した」


 ……ってことか? と思って聞くと、キルケがにやりと笑う。

 そのとおりってことか、何をバカなってことなのか、わからない。

 ただ余裕があるっていうのはわかる。


 俺の『力』は、ハイエースがないと発揮されないとわかっている……?


「そこは勘違いですよ。カウフマンがあそこまでの強硬手段に出るとは思いませんでした。急かしすぎたのかもしれません」


「急かした? あなたが?」


「ええ。教皇庁による聖戦宣言がもうすぐありますよって話をしたら、動いたようです。よっぽど、エジン公爵を動かしたかったのでしょうね。しかし、そこまでしなくても、カウフマンなら掌握できたでしょうに。本当に惜しいことをしました。私も優秀な手駒を失ってしまいましたから、これは私の失態ですね」


 聖戦宣言のせいで、カウフマンが強硬手段に出た?

 急いでエジン公爵領を掌握する必要があった?

 なんでそこまでしないといけなかった?


 だから、アイとオフィリアに膝を屈して隊長代理につくことを認めた?


 そこまでしないといけない聖戦宣言ってなに?


「わかっていただけましたか?」


「わからないことだらけです」


「…………」


 笑顔が消え、無表情でこっちを見るキルケ。

 さっきまで余裕そうだったのに、そういうことでもない?


 俺の何を見定めようとしているのか、さっぱりわからない。


「この話はもういいですかね」


「いや、だから、わからないことだらけなので、もう少し細かい説明が欲しいです」


「時間引き伸ばしても、無意味ですよ。私とあなたとの時間はすぐ終わりますから」


 ぞくりとするほどの敵意が、俺に注がれる。


 のらりくらりと会話を引き伸ばすつもりだった。

 せっかくだし、アイたちから聞く以上の情報を引き出せたらいいなと思っていた。


 対抗策を考えるなり、カウフタンが起きるのを待つなり、ひょっとしたら助けが来るかもしれないし、ということでとにかく時間を稼ぎたかったが、どうやら無理らしい。


「それ、終わったら俺の命はない?」


「場合によっては」


 やばい、本気だ……


「私からの質問の返答次第です」


 キルケは微笑む。

 まったくの作り笑いではなく、彼にとっては楽しく興味深いことでもある、ということか?


「君は、何者ですか?」


「俺?」


 俺が何者か。

 なんだろう……召喚されたチート能力を持った戦士。

 ってことに、なっているのが、アイの話。


 だいたい今まで会った人には、そう認識されている。


「召喚された戦士……ですよね?」


「ええそうですね。でも違いますよね? 召喚される前はどちらに?」


 ああ、そういう話か。

 別に隠しておいたからって、それが切り札になるわけでもないから素直に応えておこう。


「歴史学科に所属の大学生でした」


「……それで?」


 やけに剣呑な表情に変わった。


 え? なに? そういうの聞いてない?


「えっと、大学の友人の引っ越しの手伝いをしようとしてたところで車に轢かれて……気づいたらアイに召喚されてました」


「…………質問の仕方を変えましょうか」


 ん? んん? あからさまに不機嫌になったぞ。

 何が聞きたい?


 俺のチート能力か?

 それは……まだ分かってないかもしれないから、自分から教えてしまうのはどうかと思う。


「君の力は、そのカウフマンの性別を変え、私の『力』を強制排除するほどのものだ」


 ちょっと待て。

 性別は変えたけど……キルケの『力』を強制排除?


「そんな『力』、あの『神器』アイにすらない。あの子の魔法はケタ違いに強力だが、天使の『力』は性質が全然違う。ある意味別次元の『力』というくらいの差がある」


 彼は、ゆっくりと歩いて近づいてくる。

 途中までついてきた天使の戦士を制止させ、ゆっくりとひとりで近づいてくる。


「もう一度聞こう」


 手を伸ばせば触れられる距離まで、キルケがやってきた。

 両手両足が拘束され、跪くような姿勢なので下からキルケを見上げる。


「君は何者だ? この世界に何をしに来た?」


 ……この世界に来た? 俺が?


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