47話 天使の長
目覚めると、そこは木でできた床の上だった。
少し砂が巻かれている感じの床なのは、土足厳禁じゃない室内か。
今、どういう状態なのかわからないので体を起こそうとしたが、手が動かない。
足も動かない。
口も紐で縛られていた。
そして転がって見えなかった反対側を見ると、そこには手足も口も縛られたカウフタンがいた。
「んんんんんっ!?」
言葉にならない声で、カウフタンに呼びかける。
が、目をつぶったまま起きない。
寝かされたか、気絶させられたか……
そういえば、俺、気絶させられた。
思い出していく、天使にさらわれたこと。
上空高く浮かびあがる自分の体。
空を飛んで移動するやつなんていないって、アイは言っていたのに、おもいっきりいた。
ああ、でも自動車のようなものですら、誰も見たことがないくらい珍しいものだったっけ。
きっとアイたちにとっても、羽根の生えた天使なんて、珍しいものだったに違いない。
そう考えると奇襲されたのも納得。
きっと、俺がエジン公爵の城下町へハイエースで奇襲したのと同じか。
カウフタン、二度も未知の相手に奇襲されて可哀想だな。
なんて思っていると、目が夜闇に慣れてきた。
横になって寝ている状態から、仰向けになる。
建物の内装を見て、教会とか礼拝所とかじゃないかと推察。
天使に教会って、もう俺をここに拉致した相手が誰なのか、思い当たった。
何度も名前だけは話題にあがっているアイと同じ『神器』のひとり。
「起きましたか」
声をかけられ、そっちの方へ目を向ける。
そこには、俺たちを襲った武装をした3人の天使と、武装をしていない祭服姿の男がいた。
その男は、柔和な笑みを浮かべて、外してやりなさいと指示をする。
指示をうけたのは、俺から見えない位置に立っていたであろう武装した天使だった。
突然、近くに寄ってきてギョッとしたが、喋れなくしていた猿ぐつわだけを取って、俺から離れた。
「これで話せますね」
「動けないけど」
「暴れられても困るので」
そりゃそうだ。
相手に抵抗できなくしてから拉致するような相手に対して、敵対行動を取らない奴はいない。
「って……俺、ハイエースされたのか……」
「はいえーす?」
「こっちの話です」
まさか、ハイエース能力を持つ俺が、逆にハイエースされるとは……
屈辱だ!! とは別に思わない。
むしろ、これ命の危険過ぎないか? と内心焦る。
「あなたのお名前は?」
「イセ、イセマコト」
何されるかわかったもんじゃないので、素直に応えた。
「イセ、あなたはアイによって召喚されたものですね? あ、隠さなくていいですよ。一応、魂の色や形でわかりますから。一応、ご本人が理解しているかどうかの確認です」
「アイからはそう聞いている」
「ふむ。意外とすんなり話してくれますね。反骨精神で抵抗されたらどうしようかと思っていたのですが、話ができるなら助かります」
そんな余裕めいたことを言って、笑みをさらに深くする。
端正なお顔で細身長身の美形聖職者という、いかにも悪かったり、元はいい人だけど悪落ちしたりしそうな雰囲気の人だった。
あ、人なのか?
「こちらから質問いいですか?」
「どうぞ」
「あなたは誰?」
「天使キルケ。天界の天使長のひとりで、地上で活動している『神器』のひとりです」
ついに出た『神器』の天使キルケ。
しかも、天界とか天使長とか、また知らない単語が出てきたぞ。
「ではこちらからも質問いいですか?」
「その前に、何故俺をハイエース……じゃなくて拉致したのか聞きたい」
「私があなたに質問するためです」
「そのために、あんな手荒な真似を?」
「アイが、許すはずないと思いまして」
『神器』同士って敵対してないんじゃないの?
っていうか、この状況を俺、ハイエースと鬼たち無しで、何とかしなきゃいけないのかっ!?
天使を名乗る黒幕っぽい優男の笑顔は、もはや恐怖しかない。




