46話 天使の戦士たち
最初は、大きな鳥かと思った。
それが数羽、まとまって降りてきたのかと思い警戒した。
だがすぐにそれが間違いだと気づいた。
「……て、天使?」
上空から降りてきたのは、背中に羽根を備えた戦士。
フルフェイスの兜をかぶり、カウフタンに変わる前のカウフマンが装備していた防具よりも重装の鎧を身に着けていた。
フル装備の姿というのが、こんなにも威圧的だとは思わなかった。
この世界に来てもお目にかかったことがないほど、まさに戦うための、殺意をこめたような姿だ。
その4人は、俺たちを囲うような位置に降り立っている。
彼らの敵意は、俺たちに向いていた。
スラッとウルシャが剣を抜く。
こちらの武器はそれだけ。
アイも俺も、それにカウフタンも武器は持っていない。
「ちっ、油断しすぎだ私は……」
カウフタンの小さな声が聞こえた。
その瞬間、4人の天使たちが一斉に動いた。
アイをかばうように立つウルシャに2人。
そしてカウフタンと俺に一人づつ、各個に攻めてきた。
ウルシャが天使ふたりに剣を閃かせて退かせているのが、視界の端に映った。
そっちに気を取られつつも、すぐに気にしていられなくなった。
天使の大きな手が迫り、俺の腕を掴んできたのだ。
その瞬間、体が硬直するほどの恐怖を感じた。
重装備の男が、危害を加える意思をもって迫ってくる、という恐怖を始めて知った。
俺もアイを守らなければならないのに、むしろ俺の方が一番対抗できていなかった。
「イセっ!!」
カウフタンが俺の方へ跳んできて、体ごと体当たりをするように俺と天使の間に割り込んできて、振り払ってくれた。
「カウフタン、ありがとう!」
「いや、こいつは……私の失態だ」
そう言い、また襲いかかってきそうな天使に向かって言う。
「何しに来た? まだ早いだろ!」
「…………」
カウフタンの言葉に、天使たちは反応したのか、一瞬ピクッと止まる。
だがそれだけだった。
俺を守るような位置に立つカウフタンへ、今度はふたりがかりで襲ってくる。
「舐めるなっ!」
掴みかかる腕をとって、関節技のような動きをするカウフタン。
だが、持っている腕の力が足りないのか、振り払うようにはねのけられ、カウフタンは投げ飛ばされて地面に叩きつけられた。
「ぐふっ!?」
「カウフタン!!」
叩きつけられて息が詰まり、苦しそうにしているカウフタン。
そこに駆け寄ろうとした俺を、待ってましたとばかりにもうひとりの天使が迎え撃つ。
簡単に腕を掴まれ、力まかせに引っ張られ、鎧の体に引き寄せられる。
まずい、このままだとあっさり殺される、という恐怖が一瞬頭を占める。
「ウルシャ!」
「敵襲だ!! アイ様を救え!!!」
アイのウルシャを気遣う悲痛な声。
そして状況を何とか打開しようとするウルシャの大音声。
ここでなんとかしなければ、アイもウルシャも殺される。
その想像が、天使たちへの恐怖に打ち勝った。
この劣勢な状況を何とかするには、俺が勝たなければだめだ。
こいつらを何とかするための力が、俺にはあった。
車庫から近くはないが、それほど遠くではない屋敷の庭に今いる。
ここから届くかどうかわからないが、やるしかない!!
「いでよ!! オークスレ――」
叫ぼうとした瞬間、天使によって羽交い締めにされ、口を手で塞がれる。
「むぐっ!?」
「イセ!!」
捕まる俺に気づいたアイが、こっちを見て悲痛な叫び声をあげた。
本当にこのままではやばい!
そう思ったが、さらなる絶望が俺の目の前に現れる。
カウフタンを投げ飛ばした天使が、俺の目の前にきて、無言で殴りつけてきた。
「っ!?」
これは胸を殴られたのか、それとも腹を殴られたのか。
何が何やらわからないまま、体に強い衝撃が走った。
視界が一瞬でぼやけ、意識がかき消えていく。
その間に、俺の体は宙に浮いた。
天使が、俺を捕まえたまま、飛んだのだ。
俺を抱えた天使は、飛びながら屋敷を離れていく。
アイ、空を飛ぶような移動手段はないって言ってたじゃないか。
と、クレームめいたことを思ったあたりで……
……意識が途絶えた。




