44話 転生者の怒り
カウフタンら衛兵隊が城下町へ戻る準備をしている間、俺はハイエースの車庫へ。
壊れたサイドミラーは、壊れたままだった。
「てっきり、直っているものかと思ったんだけどな」
ガソリンと同じで、マナを元に魔法の力で直っていると予想していた。
鬼たちが、致命傷らしき傷を負っても、しばらく経ってから召喚したら元通りになっていた。
ああいうものかと思っていたのだが……
「おぬしの自動車は、魔法や鬼とは違うものなのかもな」
「アイ……」
アイがひとりで車庫までやってきた。
「カウフタンやオフィリアの方はいいのか?」
「ああ、ここ3日ほどでだいたい済んでいるからな。そろそろ、おぬしの話をしなければと思っていたところだ」
「それは助かる。一応、これでも不安ではあったんだ」
そのひとことで、アイは察してくれた。
腹芸はできないけど、こういうところは気づいてくれるアイ。
「やめとけ、と言ったおぬしの『力』のことだな」
うなずいて肯定する。
カウフマンをカウフタンにした俺の『力』。
衛兵隊にAI機関が潰されるかもしれない緊急事態が去った今、俺としてはそれ以上のこのバクダンを何とかしたかった。
「まさか、鬼たちが捕まえる寸前に脱力させる魔法が、対象者の性別を変える魔法とは思わなかった」
「しかも、女は女のままだが、男だけ女に変える『力』とは……本当に、心当たりはないんだな?」
「ない。そもそもこのハイエースだって心当たりって代物じゃないんだ。いくらなんでもTSとかよくわからん。そういう魔法ってあるのか?」
「てぃーえすはよくわからんが、性を変える魔法なんて聞いたことがない。それこそ神話に出てくる神の力だ」
「なら、これって神の『力』なのか?」
「それもわからん。だがこれだけは言える。おそらくその力はアイが使っている魔法とは違う」
「魔法じゃない? でもガソリン代わりに使っているのがマナで……」
「アイたちは、根本から勘違いしているのかもしれない」
「勘違い?」
「そうだ。おぬしの『力』は……」
「ちょっと失礼」
「「っ!?」」
車庫で話していると、そこに入ってきたのは……カウフタンだった。
「聞き捨てならない話を聞いたので、勝手に入らせてもらった」
「なんだ? 盗み聞きとは趣味が悪いぞ」
「女はそのままだが、男は女に変える力だと? なら私はこのまま戻れないのか!?」
カウフタンは、どうやら自分に関わる話をドンピシャで聞いてしまったようだ。
これは隠し事はできなそうだ。
「……イセ、ど、どうしよう?」
アイが、はわわしながらコソコソ声で言ってくるが、俺は肩をすくめた。
「聞いてしまったんならしょうがない。俺がカウフタンに使った『力』は、まだまだ全然未知数だ」
「なんだと……おい、ふざけんな!!」
カウフタンは、フーッと猫が威嚇するかのような息遣いで近づいて、俺に掴みかかってくる。
掴まれるがままにする俺。
「元に戻せるんじゃないのか!!」
「わからん」
「っ!? 貴様――」
「離せ」
俺は容赦なくギロリと睨む。
「今、お前が元に戻れるか戻れないかは、俺とアイが握っているんだ。そこをわかってやっているのか?」
「……くそっ」
カウフタンは、俺の服を離し、憎々しげに睨んでくる。
それを正面から受けて睨み返す。
「おい、イセ……」
アイが、剣呑な雰囲気を察したのか、よせという感じで言ってくるが無理だ。
俺には我慢ならないことがあった。
「カウフタン。この名前、アイがつけてくれたよな?」
「ああ、そうだ。アイ様から頂いた。それがなんだ?」
「よかったな」
「っ!? きさ――」
「よかっただろ? 公爵閣下を殺した謀反人が、性別と名前を変えるだけで生きながらえたんだ」
「…………」
「それにだ。おまえはアイたちを殺そうとしたよな?」
俺は、ずっとそれが我慢ならなかった。
カウフタンがいくら能力があって、可愛くて、衛兵隊を抑えるのに欠かせなくて、今後のオフィリアの治世に必要な人材であったとしても、それが我慢ならなかった。
「俺からすれば、カウフタンはどこまでいっても危険人物だ。アイが許すって態度だから従っているまでだ」
「…………」
カウフタンは、もう俺を睨んではいない。
真剣にこっちを、目をそらすことなく見つめている。
自分の置かれている立場を考え、真摯に受け止めているのだ。
その態度から、確かにアイやオフィリアが許すにいたったのがわかる。
わかるが……
「アイやオフィリア様はもちろんだが……俺にも誠意を見せてみろ、カウフタン」
お前が俺やウルシャやクオンを殺そうとしたこと、それ以上にアイを殺そうとしたこと。
それに対する反省の態度を、示し続けなければ俺は、カウフタンを許せない。
「見せることができたら……元に戻してやる。必ずその方法を見つけ出してやる。それまでその格好でいろ」
「…………」
カウフタンは反応しない。
ただ、俺の言葉を聞いて、黙っている。
そして……カウフタンはゆっくりと跪いた。
オフィリアに向けてやった時のように、臣下の礼を取るかのように。
「わかった」
だが、敬語ではなかった。
「エジン公爵領のため、アイ様とオフィリア様のため、この身を捧げることを……異世界の戦士イセに誓おう」
「今だけの誓いはいらない。今後の行動だ」
「わかった。誓い通りに、これから示し続けよう」
そう言って立ち上がり、そして……ニヤリと笑った。
「……安心したぞ」
「は?」
「アイ様の命を奪おうとしたことを許せない……それがお前が私に向けてきた怒りだったか。ずいぶんと人の生き死にを大事にしている世界から、召喚されたようだ」
俺には、カウフタンの笑みが、言葉通り安心しているように見えた。
「戦士イセよ、我ら人間の希望である『神器』アイ様を頼む。天使キルケ様や他の『神器』は……一筋縄ではいかない。気をつけてくれ」
そう言って、カウフタンは俺とアイに礼をして、立ち去っていった。
その後姿を見送った後、慣れないことをしたからか、大きくため息をついた後、力がどっと抜けた。
「ふぅ……緊張した」
「イセ」
「ん?」
「そんなこと、考えていたのか」
「いや。ずっとモヤモヤしてたことを口に出してみたら……こうなった」
「……そっか」
アイはまるで俺の言ったこと、全て認めてくれるかのように頷いてくれた。




