43話 切り込み隊長
カウフタンが衛兵隊を掌握してから3日経った。
オフィリア公爵令嬢の後ろ盾を得たカウフタンは、まるで衛兵隊の詳細が分かっているかのように次から次へと指示を出し、その的確さに衛兵たちは彼女の実力を認めた。
確かに、カウフマン隊長以上の逸材である、と。
彼女の正体がそのカウフマンであることを知っている俺、アイ、ウルシャ、クオン、オフィリアは、その様子を見て口をつぐむ。
ここで何か口を出すとボロがでそうなので、無言で見送るのがベターだろう。
細かい指示を受けた衛兵隊は、だいたい100人くらいを残して、あとは全員城下町へ帰っていった。
公爵閣下がいなくなった混乱は、指示を受けた彼らが抑えてくれるとのこと。
カウフタンが少数の衛兵たちと残ったのは、オフィリアと共にエジン公爵領の今後について話しあうため。
細々とした政務の話をオフィリアとして、話をまとめ次第、急いで城下町へと戻り、政務を取り仕切り文官たちにカウフタンがオフィリアからの委任として政務の一部を託す、という段取りだ。
そしてこれは、カウフタンをカウフマンであることを知っている者たちだけでの内輪の話として行われた。
政務の話がまとまった頃合いに、オフィリアはカウフタンに質問を投げかけた。
「衛兵隊を掌握したあなたは、私を排除しないのですか?」
「後ろ盾を自ら捨てるなんてありえませんよ」
元々の雄々しいカウフマンの声でそう言えば説得力があったかもしれないが、可愛い声のカウフタンでは無理してしゃべってるようにしか聞こえず、俺はほっこりする。
「しかし、元々あなたは、皇家を支える公爵家のやり方に反し、教皇庁と足並みを揃えてこの帝国内に勢力を広げようとしたのでは?」
「そうなります。しかし今は……性急に変えることの方が危ういと考えます。オフィリア様の政務に対する姿勢と知り得ているものは、私にはとても得られるものではありませんでした。あやうくエジン公爵領をさらなる混乱に陥れるところでした……」
そう言い、カウフタンは頭をさげ、心底反省している態度をとっている。
そして顔をあげて皮肉げな笑みを浮かべる。
「それに、私が元に戻るにはアイ様に逆らえませんから」
「っ!?」
政務の話をボーッと聞き流し、退屈そうにしていたアイは、突然話を振られて驚く。
「あ、そう言えば……イセ、これって元には――フガッ」
俺とは思えぬ神速で、アイの口元を抑えた。
今、アイは「これって元には戻せるのか?」とか言いそうになったな!?
腹芸力皆無のアイに代わって、俺は応えた。
「カウフタンがオフィリア様を守って、エジン公爵領が恒久的平和になったら元に戻すことを考えてもいいと、アイと話してたんだ。うん」
スッとカウフタンの目が細められる。
「……おい、考えていなかったな?」
「ぎくっ」
「ぎくってなんだーっ!!」
カウフタン、何故か俺が話すとブチ切れるなぁ。
ぎゃーぎゃー言ってくるカウフタンだが、可愛いから許すという心境で受け流す。
「そういえばカウフタン殿、私からも聞きたいことがあったのだがいいだろうか?」
ウルシャがカウフタンへ話しかけてきた。
きっと、今カウフタンが気にしていることに、俺が触れたくない様子なのを察して、助け舟を出してくれたに違いない。
ありがとう、ウルシャさん!!
「なんでしょうか?」
「あの決闘の際、何故武器飛ばしを使えたのでしょうか?」
ウルシャさんが話しているのは、衛兵隊で一番強い剣士とカウフタンとの決闘の勝敗を決めた、あの最後の武器飛ばしの件だ。
「あれは、武器扱い際の握りの緩みを見抜いたり誘ったりしてできる技です。私があなたにやった時は、イセの『力』で握りが緩むのがわかっていたから出来た。だが、あのタイミングで何故仕掛けられたのか、わからない。彼の癖をそこまで見切っていたのでしょうか?」
「その話ですか。それは彼の剣はよく知っているので……と言いたいところですが、本当のところどうしてあの隙ができたのかはわからないんですよ。あの初太刀を武器を犠牲にしてでも避け、そのまま首に組み付くつもりでした」
「なるほどー。戦場組手ですか。流石歴戦の隊長殿、引き出しが多いっすな」
「隊長代理だ。だが組手を使ったところでただの奇襲だ。力不足で返されて負けていただろう。だがそこまでの力を見せれば、あいつらなら今の私の力を認めるというところまでなら行けると踏んだ。一時的でも指揮に入れば、多少時間をかけて掌握していけばいいと考えていた」
「なのに、切り込み隊長の彼は、大きな隙を晒した、ということですか」
「ああ。あれはまったくわからん。私のことを見て、ものすごく驚愕していた感じだった。何があったのか……」
「……なるほど、その話か」
この会話は、戦士同士だからわかる会話だなと思っていた。
将棋の棋士の感想戦みたいな感じかな? と思って聞いていたのだが、何が話題の中心なのかようやくわかった。
「ん? おまえ、わかるのか?」
「だいたい。まあ、いずれわかると思うよ」
意味深なことを言ってみたら、カウフタンが少し不機嫌になる。
そうか……あれに気づいたのは俺だけだったのか。
衛兵隊掌握の行方がどう転ぶかの瀬戸際だったから、仕方ないか。
「おまえにそういう余裕な態度を取られると心底ムカつくな……」
「ふっふっふ」
そう言われたら、もっとやりたくなる。
と思っていたところで、扉がノックされ、外にいた見張りが声をかけてきて、一人の衛兵を通してきた。
丁度、話題の中心になっていた切り込み隊長だ。
「隊長、今よろしいですか?」
「言い間違えるな。隊長代理だ」
「カウフタン隊長代理」
「いいぞ。なんだ?」
カウフタンが彼に発言の許可を与えると、彼は緊張した様子で少し黙る。
その緊迫感が伝わったのか、そこにいる皆が彼に注目した。
「隊長代理……いえ、カウフタンさん」
「お、おう」
「好きです! 惚れました! 結婚を前提に俺と付き合ってください!!」
「…………」
ぽかーんとするカウフタン。
ていうか、俺も含めてここにいる皆全員、ぽかーんとしている。
切り込み隊長が、カウフタンに惚れているのに気づいていた俺が、多分一番早くぽかーんから回復できた。
「そうそう、これがさっき話していた力が抜けた理由」
「……ん? それって……つまり彼がカウフタンと戦っている最中に、惚れてドッキーンして力が抜けたってことっすか?」
「そう」
「なっ!?」
カウフタンは青ざめる。
部下が決死の告白に来ているのに、青ざめるとは。
そこはキュンとして頬を染めるところだろー。
「な、何を言っているんだ! 私には妻と子供がいるんだぞ!」
「子供がいても構いません!! 惚れました!!」
「なっ!?」
流石切り込み隊長。すごいところに切り込んでいくぞ。
「バツイチでもいいみたいな感じだし、受けてやれば?」
「そんなことできるかーっ!!」
「俺は、カウフタンさんを射止めるまで、諦めません!!」
「諦めろーっ!!」
混乱している様子を見て、俺はカウフタンのためにも元に戻す方法を探さないといけないと思いながらも、切り込み隊長の勇気にも応えたいと悩みながら、ゆっくりと冷めたお茶を飲んだ。
「なに、くつろいでんだーっ!! 必ず元に戻してもらうぞっ!!」




