42話 衛兵隊掌握へ 決着
衛兵隊で1番強い剣士と、カウフタン自身の口から言われた男は、剣を構えて戦闘態勢をとる。
対して1回の剣撃で吹き飛ばされて盾も失ったカウフタンは、まだ肩で息を整えていた。
「どうした? 来ないのか?」
なのに何故か格上っぷりをアピールするカウフタン。
「というか、さっきの一撃、加減しただろ? 屈辱だぞこのやろうっ!!」
カウフタンが前に出て突き攻撃を繰り出すも、大男は器用にその剣を受け流す。
何度も何度も繰り出されるカウフタンの剣撃は、幅広の剣によって受け流され、弾かれ、止められる。
まるで剣の稽古相手でもしているかのように、男の姿勢は安定していた。
「剣が軽い」
「だろうなっ!!」
フェイントを織り交ぜた剣も、難なく弾かれて体勢を崩されるカウフタンに、柄を握った拳が飛んできた。
「ぐっ!?」
なんとか受け止めたカウフタンは、それでも後ろに飛ばされてたたらを踏む。
もう見るからに実力差が歴然。
「こんなものか?」
表情を変えずに聞いてくる男に、カウフタンは息を荒げながらフッと笑う。
「お前こそ、そんなものか?」
「可愛いからと、加減してくれる相手ばかりと思うな」
「ぬかせ」
男は再び中段に構えるが、そこから上段に切り替える。
一気に緊迫感が増した。
素人でもわかるほど、それが一撃の下に切り捨てるための構えだとわかるから。
そして衛兵隊のざわつきから、今のこの構えの方が、この男の本来の構えなのだと知ることができた。
「か、か、カウフタン……」
試合の審判役になってるアイが、わなわなとびくついている。
もうそれくらいやばい状況。
「勝負を決めにきたっすね」
「クオンから見て……これ大丈夫?」
「あのカウフタンの顔、何か考えあるようには見えますよ。でも普通に考えたら無理っす。そもそも体の強さがケタ違いっす。まさに子供と大人の戦いっすね」
「もし賭けだったら?」
「大穴狙いでカウフタンに全額っす。なんせ我々は、あのカウフタンが元は何者なのか、知ってるっすから」
嬉しそうに笑うクオン。
この女、多分この空間の中で、最も肝が据わっているんじゃなかろうか。
「あ、動きますよ」
クオンが言うが早いか、動くのが早いか。
カウフタンが相手の剣の間合いにスルッと入る。
それに当たり前のように気づいた男は、さらに一歩踏み込んで、剣を振り下ろした。
切っ先の方ではなく、剣の中程のあたりで敵対者を切り伏せるための剣撃。
その一撃の下にカウフタンがいる。
上からくることはわかっているとばかりに剣を上にかまえて受けるカウフタン。
だが、細身の剣は受けたところからぽっきりと折れる……というより斬られた。
これで終わりかに見えたカウフタンだが、そこからさらに半歩前に出て、かろうじて剣撃が体に当たるのを回避した。
当たれば必ず死ぬ一撃を、カウフタンは得物を失いながらも回避し、男との間合いを詰めた。
あともう少しで、肘打ちでも膝蹴りでも入りそうな距離。
そこでカウフタンは囁く。
「二撃目を考えぬ初撃の剣、本当にいい太刀筋だ」
「っ!?」
男が驚いたように見えた。
それはカウフタンが言った言葉にか、それともここまで近寄られたことにか。
「私の指揮下でもお前は切り込み隊長だ。頼んだぞ」
にこりと微笑むカウフタンに、男の顔が赤くなったのがわかった。
「ん? 隙あり!!」
カウフタンは、折れた剣の残った部分で男の剣を弾き飛ばした。
おおおっ、と衛兵隊も、俺たちも、一斉にどよめく。
「おっ、あれ、ウルシャさんがカウフマンに使った武器飛ばしの技っす。ここで使うっすかっ」
つまり、ウルシャさんの技を受けただけで、もう会得したとか?
そして俺たちが驚いている隙に、カウフタンは男の鼻先に向かって折れた剣をつきつける。
「…………」
男は声も出せず、ただカウフタンを見つめている。
ほんのり頬が赤い。
「一撃に賭ける剣は見事。だが、初撃の後のことも考えろ。次の動きが遅くなるのはお前の悪いクセだ」
「…………」
「だが切り込み隊長としては申し分ない。私がお前に最高の働きをさせてやる」
そう宣言するカウフタン。
それは、この決闘の勝利宣言に他ならなかった。
「アイ様、私の勝ちでよろしいか?」
「も、もちろんだ! カウンタンの勝ちだ!」
にやりと笑ってうなずくカウフタン。
それから皆に向かって叫びだす。
「これより衛兵隊は私の指揮下に入る! 戦士諸君安心しろ! お前たちには以前と同じ地位を約束する!!」
衛兵隊たちからのざわめきが収まっていく。
それはカウフタンが宣言した約束の取り付け先が、すぐそばにいるからだ。
「よろしいですね? オフィリア様……あ」
オフィリアは、気絶して使用人たちに介抱されていた。
後ろに出した鬼たちを、見ちゃったみたい。
「……まあ、後でいいか」
カウフタンは苦笑して、今度こそ衛兵隊の前へ出る。
もうすでに、指揮官の風格だった。
「戦士諸君。諸君らは強い。地上最強の衛兵隊だ。だからこそ強い者に率いられるべきだ」
全員に声が行き渡るように、衛兵たちの前を歩きながら話すカウフタン。
「強いもの、それは私だ」
カウフタンのその頼もしい自信の言葉を発する姿は、衛兵隊たちから見たらまるでカウフマン隊長の姿のように見えていただろう。
……実際、中身カウフマンだし。
「そう……私はつよーい!!!」
あ、そういやそれ、口癖だったっけ。
「「「「「隊長!! 隊長!! 隊長!!」」」」
衛兵隊たちの間から、隊長コールが起こる。
これで、一件落着?
「……可愛い」
衛兵隊を掌握する中、切り込み隊長が彼女を見て頬を染めてつぶやいた。
あれ? ひょっとして惚れられちゃった?
カウフタン、とことん受難だなと思いました。




