41話 衛兵隊掌握へ その3
俺への指示を使って鬼の指揮をとっているように見せることが上手くいき、アイが無邪気に喜んでいるのが功を奏し、カウフタンの指揮者としての株は急上昇中。
ここまではカウフタンの思惑通り、なのだろう。
でもだからって、それでカウフマンだった時のように、指揮ができるのか? 言うことを聞いてくれるのか?
「そして私は、諸君らよりも強い。強い者だけが、衛兵隊として公爵閣下をお守りすることができる!」
カウフタンは、そう言いながら剣を抜いた。
「戦士諸君。きみたちは強い、そうだな?」
衛兵隊の面々は誰も応えない。どう応えていいかわからないという感じだ。
「私は、ここに来ている誰よりも強い。それを証明してやろう」
いきなり強い宣言され、衛兵隊どころかそれを聞いたそこにいるみんなが困惑する。
だからこそ、そこにいる誰もが、カウフタンの行動に注目している。
カウフタンは、とことこと歩きだし、衛兵隊を少し見て回る。
そしてその中で一番体の大きな衛兵の前で止まった。
「おまえ、私の相手をせぬか?」
「は?」
「は? とは失礼な態度だな」
「…………」
「話は聞いていただろう? 私は隊長代理だ。権限はオフィリア様が保障されている」
直接話している体の大きな衛兵は、どう応えていいのかわからず、といった様子だった。
「だが、おまえ……おまえたちの気持ちはわかる。カウフマン隊長は常に衛兵隊は強くあらねばならないと」
カウフタンは、抜いた剣の切っ先をその男に向けた。
「私の強さは、おまえに証明してもらおう」
「…………」
「女子供相手に抜く剣ではないと? ならば衛兵隊の権限を主張するガキをひとり、そんな口を今後叩けなくするために剣を教えてやった、とするのはどうだ? これなら隊長の許可もいらんだろ」
「……見てわかる。お前はそれなりに剣が使えるな。だが力が足りない」
「そうそう。それでこそ相手にとって不足はない。おまえは衛兵隊で一番剣が立つだろう? いや……隊長が上だから、2番か」
「…………」
「私はオフィリア様が認めてくださった隊長代理だ。私を倒せばお前が一番だぞ」
「一番であることに興味はない。だが……強くなければ衛兵ではない」
そう言って、男は衛兵の礼をとった。
「受けて立つ」
「よしっ! これは正式な決闘だ! 立会人はここにいる全て! 私の勝利を見届けてもらうぞ!!」
決闘宣言と、勝利宣言をしたカウフタン。
その場の空気に飲まれる皆が、一斉に盛り上がる。
俺とクオンは見合わせて、交渉場から決闘場への変わった前へ行く。
その雰囲気は、ちょっとした見世物状態だ。
用意した剣と盾に不備がないかチェック中のカウフタンへ声をかけた。
「カウフタン、これでいいのか?」
「ああ。想定通りだ」
「あいつ、指名してたみたいだけど、見た目だけであまり強くないとか?」
「いや、衛兵隊で一番の剣士だ。強いぞ」
「大丈夫なの!?」
「任せろ。私の方が上だ」
にやりと笑うカウフタンに、不安そうな素振りはない。
上なのは、カウフマンだった頃じゃないのか?
そう疑問に思ったが、カウフタンはとても余裕そうだ。
「不安そうな顔をするな。私が負けて衛兵隊を抑えられなかったら、その時はお前があの戦車と鬼で殲滅すればいいだけの話だ。まあそんなことにはならんがな」
あっさりと言い切るカウフタンは、剣や盾の使い心地を確かめている。
これから生死が掛かっている戦いだというのに、平気そうだ。
これが戦士の覚悟か……
クオンが鬼の力試しをした時のように、審判役のような立ち位置にアイが立つ。
「では始めるぞ。お互い、命までは奪うなよ。とっちめれば終わりだ」
「わかりました」
「わかっている。さあ始めてください」
アイの言葉にそれぞれ同意し、始めの合図の前にお互いに剣を構えて、今にも飛び出しそうな体勢。
その空気を感じて、ざわついていた周りが息をひそめる。
「では、はっきよーい、のこった!!」
また相撲だ。今度こそ聞かないと。
と思って意識が別に飛んでいる瞬間、アイと衛兵が互いの間合いに走り込んで、ほぼ同時に剣撃が互いの体に向かう。
衛兵の剣の方が若干早く、カウフタンの剣は空振る。
一方衛兵の剣は盾で阻まれる。
だが盾で受けた剣撃の勢いは止まらず、カウフタンの小柄な体は吹き飛ばされ、さらに受けた盾が宙に舞った。
「くっ!?」
苦痛に歪むカウフタンの表情に対し、衛兵は平然と再び剣を構える。
よく見ると、その衛兵の剣は、他の衛兵よりもずっと大きい。
元々カウフマンが使っていたような幅広の剣だ。
今のカウフタンが使おうとしても重くて扱いきれなかったもの。
それが、あの大男の膂力で上から打ち下ろしてくる。
むしろ、よく盾だけで済んだといったところか。
「よく止めたな」
衛兵がそうつぶやくのが聞こえた。
そしてその表情は真剣そのもの。
女で子供で、と少し舐めてかかっていたという風だった。
次は本気で行く、と言わんばかりの殺気を放つ。
それに対して、吹き飛ばされた盾は、決闘場となった場所には落ちていない。
ギャラリー化している衛兵たちの中へ吹っ飛んでいった。
しかもあれは壊れていたはず。
今、カウフタンには、ウルシャが使っていたような細身の剣しかない。
勝てるかどうかどころか、ほんとに命が危ないんじゃ……
「カウフタン大丈夫か? まいった? まいったか? 止めてもいいだんぞ」
カウフタンは体勢を立て直し、剣を構える。
不敵に笑み浮かべるカウフタンの方が、衛兵よりも真剣じゃないように見える。
「止める? まさか。せっかく勝てる試合、みすみす捨てる馬鹿はいませんよ」
カウフタンはやる気だ。
そういう態度なら、もうこっちも開き直るしかない。
「カウフタン! がんばれ!!」
俺の応援の声を皮切りに、そこにいる皆が声をあげはじめた。
気持ちが盛り上がっていたのは、やっぱり俺だけじゃなかった。
「これ、賭けをやれば結構な額集まったっすね」
不謹慎なクオンに対して、俺はうなずくことしかできなかった。




