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3話 真なる力

アイが俺の召喚に使ったっぽい古城は、ものすっごい大昔は王城だったとか。


なので、人がいっぱい入れるようにと設計され、こんな広い体育館みたいな空間があったというわけらしい。


異世界からものすっごい力を手に入れようとしたアイは、大昔の王城という霊験あらたかっぽい場所のパワーを当てにして、召喚術を行った。


そして現れたのは俺という二十歳の学生。


アイは、俺という存在が召喚されたことを喜び、鋼鉄に覆われた戦車を操る俺に濡れた……というのは言い過ぎだが、ちびるほど喜んだのは事実っぽい。


ハイエースひとつで喜ぶ安い幼女という事実はさておき、元いた世界では当たり前だった自動車も、この世界では見たこともないすごい代物みたいだ。


そのことに大いにはしゃいでいたアイと、喜ばれたことにはしゃいでいた俺だが、あっさりと訪れた現実に顔面が蒼白になっていた。




「おいおい、どうすんだ? 入り口、狭すぎて通れないじゃん」


「むむむっ」


アイは降りて、車の大きさを確かめる。


軽トラよりもずっと大きいし、プリウスよりももっと大きいハイエースは、車庫入れも狭い道もペーパードライバーには大変だ。


友人ちのアパートの前の道って狭かったよなぁとげんなりした記憶を思い出す。


「軽トラならぎりぎり通れたかな」


そんな扉が1つあるだけの古城の大広間だった。


「……おぬしの力で、そのケイトラとやらにできる?」


「ハイエースに軽はない」


きっぱりと言った。ここは譲れないラインだと。


「ならどうするんだ?」


「それを俺が聞いている」


「アイはおぬしの能力なんて知らないんだぞ。わかるわけないじゃないか」


ちょっとだけ泣きそうな顔で言われて、心を占め始める罪悪感が辛い。


出せたんだから、しまうこともできるかもと、念じてみたがどうやら仕舞えないらしい。


仕舞ったり出せたりできたらとても便利だったのに、残念だった。


そういえば車持ちは、停められる駐車場を探すのに苦労するんだっけか。


車のオーナーになって初めてわかる苦労を、異世界で知る奇妙な境遇に、俺はなんとも言えない気分になった。


「他に出口はないのかな」


「あるが、王族が逃げる時用の隠し扉があるだけだ」


なら、この正面の入り口が一番大きいということか。


「アイの魔法で入り口を壊して大きくしたり、形を変えたりとかできない?」


ダメ元で聞いてみたが、


「アイは破壊魔法は使えない」


俺がきっぱりと言った時のように、はっきりと言った。


魔法を破壊に使うことに、抵抗があるのか?


「でも、この入り口を大きくするというのは確かにそうだな」


言いながら、アイは片手でサインを送るようでもあり、振り付けをしているようでもある動きをしながら、ぶつぶつと何かを唱えた。


見てすぐ魔法を使っているとわかる仕草をし、目には見えないが感じることができる力がアイの小さな手の中に収まっていく。


その手には一枚の葉っぱ。


葉を出しただけか? と思ったのもつかの間、入り口から飛んできた小さな鳥が、葉を咥えて引き返していった。


「おおぉ……」


感嘆の声が漏れるほど、見事に魔法っぽい魔法だった。


「仲間に連絡を入れた。すぐに様子を見に来てくれるだろう。この扉を大きくするのに人手も時間もかかるかもしれないが、なんとかなるだろう」


あてがあるようでホッとした。


「よかった。しかし、ああやって魔法で連絡を取るのか」


「ふふんっ、便利だろ?」


「あ、ああ」


ドヤッと得意げになった幼女は可愛い。


だが俺は現代日本から転生してきた身だから、もっと便利な携帯とかスマホとか知っているんだぜと思うが、口にしない。


人当たりのいい性格だから、こういう時に波風たてないのだ。


などと考えていた時、ふと気づいた。


さっき見た、魔法を構成する力の流れ。


あれに似た感じが、俺のハイエースからも感じる。


「ん? これはなんだ?」


ハイエースに近づくと、アイも一緒についてきた。


「どうした? 通る方法でもわかったのか?」


「いや、そうじゃなくて……こいつにはまだ力がある、みたいだ」


「鋼鉄の戦車にさらなる力!? なんだ? どういう力なんだ? まさか、土煙がぼわっと巻き起こるくらいの破壊的な力じゃないだろうな!?」


「……多分、違う」


また多分って言ったからか、アイは少しあとずさる。


怖がっているが、まあ平気だろう。


「こいつはただの乗用車だからな。そういうのじゃない」


そう言いつつ、俺はまたさらなる力の発現に意識を向ける。


自分の体の中から、ハイエースへと力が流れ込んでいくのを感じる。


アイが魔法を使った時の力と同じような、この世界にある魔法を発現させるための力。


それがハイエースを通して形になっていく。


その形の名が俺の頭の中に思い浮かぶ。


この名を唱えれば、『力』が目の前に現れる。そう確信し、俺はその名を口にした。


「現われよ!! 『人喰い(オーガ・)鬼の分隊(スレイバー)』!!


その言葉と同時に、俺もアイも触っていないのに開くハイエースの後部扉。そこから魔法の光があふれる。


「おおおっ! すごい魔法の力を感じるぞ!?」


俺も感じる。そして嫌な予感が大きく膨れ上がる。


その光を突き破るように、野獣のような気配を纏った、力強い筋骨隆々の人型の怪物が現れる。


人と呼ぶにはあまりにも太い腕や足、それに胸板等々、全身が筋肉で、頭部の髪の間から骨のような突起が見えるが、それは角だ。


見てすぐわかる。これは鬼だ。


その鬼たちがわらわらと3匹ほど出てきて、呆然とする俺の前をのっしのっしと通り過ぎる。


そしてアイの目の前へ。


「わわっ! これ、おぬしの力か? こんな力、見たことないぞ。アイの召喚術でもこんな力のある鬼たちを呼び出すなんて無……ん? んん? なんだジロジロ見て……」


鬼たちは、アイを見るなりまず口を押さえた。


「んっ!? んんんっ!?」


それから体を抱えあげて、そのまま回れ右し、ハイエースの方へ戻る。


一匹はあたりを警戒するようにし、一匹は先にハイエースの中に入り、抱えて持ってきているアイを受け取る。


その後、外にいた二匹が慣れた動作でハイエースの中へと入っていき、扉を閉め――


「ストップ!! 待て!! 止まれ!! やめろーっ!!!」


慌てて閉めかけの後部扉を開けると、広い車内で身動きとれないくらい押さえつけられていたアイが、びっくり眼で鬼たちを見つめていた。


思い出す、あのネットスラング。


「お前ら今……ハイエース、したの?」


鬼たちは無言だったが、俺には彼らの心の声が聞こえた気がした。


まだ途中だよ、と。


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