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38話 究極の選択

 クオンが偵察へ向かった後、俺はアイたちのところへ合流した。

 一緒に防衛の仕方の指示をしているカウフタンは、アイへの助言者というポジションを得つつあった。


 何、あの可愛い子!? アイ様の親戚? みたいなノリも無きにしもあらずだったが。


「可愛いって得だな」


「貴様の口から聞く言葉で、私はイラッとしなかった時がないぞ」


 そして俺は、嫌われている。

 怒った顔が可愛いのは、ちょっとしたご褒美になってしまうのである意味不憫だ。


「それでお前の、あの鬼たちは防衛には使えないのか?」


「出した方がいいか?」


「当たり前だ。どれくらい出しておけるんだ? あれはアイ様の魔法のようなものだろ?」


 そういう聞かれ方をされたことがなかったので驚いた。


「試したことはないけど、出し続けて疲れたりMPが減っていくとかいうのはなさそう」


「エムピー? よくわからんが、できるならやってもらおう」


「というか、そう言われてみると、どれくらいのことができるのか、まだわからん」


「はぁ、お前がいい加減だからなのか、それとも魔法とはそういうものなのか……よくわからんものを、よく平気で使えるな」


「カウフタンの炎の剣だって、よくわからないんじゃ? 使いこなせてないって感じのこと言ってたような」


「よく覚えているな。まああれは……ん?」


 カウフタンが俺との話は終わったとばかりに、正面の方を見る。

 そっちには馬を走らせながらやってくるクオンがいた。


 クオンはアイとウルシャの方へと向かい、大声で報告した。


「衛兵隊、すでにこちらに進軍してるっす! あと2時間もあればここまでやってきまっす!!」


 AI機関の皆がざわつく。


「アイの魔法全然効いてないぞ!?」


「自分で言ってたじゃん、そこに待機したい気分になるだけって」


 城下町でも、町の人は大通りに出てこなくなったけど、衛兵たちはたくさん出てきてたしなぁ。


「私の指示を優先したんだろう」


 事もなげにいうのはカウフタン。

 いかにも俺の指揮力サイコーって感じでドヤってる。


「どうする? どうする?」


「進軍途中で奇襲もいいですが、ここの練度でその戦い方は無駄でしょう。どうせなら防衛そのものはしやすい屋敷の近くに陣取らせましょう」


「それで大丈夫なのか?」


「戦に絶対大丈夫はありません。あとは……今のこの私次第ですかね」


 皮肉げな笑顔をつくるカウフタン。

 はたして突然出てきたカウフマンの妹の言うことを聞くのか。


 正直、うさんくさい。


「あのアイ様、カウフタン殿、それについては私も進言したいことがあります」


 皆が言い出したウルシャの方を見る。


「カウフマン殿はどうしたのか、と衛兵隊からしたら当然の疑問として質問してくるのではないでしょうか」


「あっ!?」


 あからさまに、そういえばそうだったな反応をしたのはアイだけだった。


「考えてなかったのは、アイ様と戦士殿だけみたいっすね」


 俺も驚き顔になってたみたい。

 ここはわかっていたんだよアピールするために、俺から解決案を出してみよう。


「名誉の戦死は? 死体がないからだめ?」


 カウフタンに睨まれながら言うと、ウルシャとクオンが、うーんって顔をした。


「余計に恨まれないっすかね?」


「それはありそうだ。なら負傷で動けないから代わりに」


「怪我をした私に会わせろと言われたら終わりだろう」


「アイに、カウフタンがカウフマンに見えるように魔法で」


「思いが強い者に、アイの魔法は通じにくい」


 だから衛兵隊をあまり足止めできなかったんだっけ。


 と、そこでアイがポンと手を叩いた。名案があるっぽい。


「わかったぞ。カウフマンは行方不明にする」


「それで通じるの?」


「教皇庁にいる『神器』の天使キルケに連れて行かれて、現在行方不明ということにしよう」


 また出てきた天使キルケ。

 そんな説得力あるの? という感じで皆の顔を見るがピンときてない様子。


「それ、理由として通る?」


「そこを魔法で騙す。天使キルケは実在するが、一般的には伝説レベルだ。そこを魔法でごまかす」


「天使が勇者を連れていく……伝承にはいくつかそういう話はありますが……」


「それをアイの口から言うのだ。『神器』であるアイがな」


「なるほどです」


 アイの言葉にウルシャとクオンが、うんうんとうなずいている。

 こちらの伝説とか伝承的には、それでアリなのかナシなのか、俺には判断できない。


「アイ様の話は、あながち嘘とも言い切れないので、通じるかもしれませんね」


 カウフタンが言うと、アイが頷いた。


「キルケの『力』を借り続ければ、いずれそうなっていただろう」


 それにカウフタンも不承不承にうなずいた。

 どういうこと? と思っていたらアイが説明してくれた。


「あの炎の剣は天使の裁きの剣だ。本来天使でなければ使えないもの。それに選ばれたカウフマンは、そのまま天使になっていたかもしれない、ということだ」


 カウフタンは、アイの説明に対して神妙に頷いた。


「人のためになるならば、それでも構わないとは思っていました」


 仕方のない自己犠牲、ということなのか、苦笑いでカウフタンは応えた。

 この可愛い苦笑を見せるカウフタンが天使になるのは……それはそれでいいのかもしれないが、人じゃなくなるのは嫌だな。


「つまりあの時、カウフタンは天使になるか、女になるかの二択を選択を迫られていたのか……究極の選択だな。女で良かった?」


「いいわけないだろっ!?」


 カウフタンがマジギレした。

 やっぱり怒った顔が可愛い。


「怒るたびにする、そのヘラッとした笑顔、心底むかつくわっ!!」


 ごめん。でもついしてしまうんだ。


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