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36話 衛兵隊長代理

「カウフマンの妹、カウフタン……ふざけているのですか?」


 カウフマン、もといカウフタンは、少し圧を飛ばすような怒りの視線をアイに向ける。

 本気で怒ってる。


「いや。至極真面目な話だ」


 どこが? と俺は思い、カウフタンもイライラ度が急上昇に見える。

 でも椅子に座った状態で、クオンが押さえているので襲いかかろうとしても無理だろう。


「アイたちにとって今、早急になんとかしないと行けないのは衛兵隊だ。ここを潰されては敵わないからな」


 カウフタンはそれを聞いて、アイの意図に気づいたのか力を抜いた。


「おぬしという危険は、今は去った。だが衛兵隊は別だ。今のあれは、指揮者を失って暴走する可能性がある武力。それがこっちに向かってくるのだから、何とかしないといけない」


「そういうことか。カウフマンがいないから……妹のカウフタンが代わりに抑える役になる」


 アイは俺の気づきに頷いた。

 そして、アイは不機嫌そうなカウフタンを見てフッと笑う。


「その服、似合ってるぞ」


「ぐ……」


「とても、あのカウフマンとは思えん。雰囲気は残しているが別人だ」


「でしょうね」


「だから、妹だ」


「アイ様、問題点があります」


「なんだ?」


「私に妹はいません」


「お前が、妹だ」


 アイに断言されて、無言で見つめ返すカウフタン。

 こいつ、何言ってんだ? って顔だ。


「はいはい! アイ様、名案があるっす!」


 カウフタンの顔は、「おまえの言うことが名案であるはずないだろっ!」って顔で、クオンを振り返っている。


「カウフマンの親が、両親を失った親戚の子を養子にして育てていて、カウフマンから『この子は戦士としての才能がある」と言われていた、とかいうのはどうっすかね?」


「採用!」


 流石間者。とっさの言い訳を作り出すのが上手い……上手い?


「というわけだカウフタン。そういうことにしておけ」


 カウフタンは、はぁと呆れたため息を吐いた。

 なんかそういう仕草も、今の容姿でやると背伸びした生意気娘に見えて可愛い。


「処分でしたよね。なら私に拒否権はないのでしょうね」


「イセが提案していたカウフウーマンでもいいぞ」


 ぎろっと音が鳴りそうなくらいの鋭い視線がこっちに飛んできた。

 今、それを拾うのか、アイよ。

 俺、もう取り返しがつかないほど嫌われている気がするのだが。


「私は別にそれでもいいのだがな。カウフウーマンでは不憫と思ったのでカウフタンになった」


「わかりました! やればいいんでしょ、やれば」


 投げやりに言いつつも涙目のカウフタンが可愛い。

 みんなそう思っているのがわかる、ほっこり感が食堂に満たされる。


「なるほど。つまるところ女カウフマンであるカウフウーマンは、カウフタンになったということだな」


「貴様、何を言っているのかわかっているのかっ!」


「俺も、何を言っているかわからない」


 異世界ってスゲーな。


 それからカウフタンの見張りをクオンに交代したウルシャが起きてきた。

 昨日の戦い後にしては短い時間だったので仮眠で終わらせたのだろう。


 そして、ウルシャを交えて、AI機関の幹部たちが一堂に会し、今後の方針について語り合う場が設けられた。


 そこには、エジン公爵令嬢オフィリアもいた。

 今までさんざん吠えていた可愛い猛犬だったカウフタンも、神妙な面持ちでそこにいる。


 カウフタンにとっての本当の処分がここで決まることをひしひしと感じている。

 アイが話したことは、あくまでAI機関としての方針であり作戦だ。

 だが、エジン公爵領の現時点でのトップは、オフィリアだ。


 その後の処分について、今は保留になろうが、オフィリアの決定が、その後のカウフタンの身の振り方にかかってくる。

 オフィリアの判断や、彼女に対するカウフタンの態度によっては、アイが考えた衛兵隊を妹カウフタンが抑えるという作戦が使えないかもしれない。

 アイたちも、緊張している様子が見て取れた。


「カウフタン、皆に迷惑はかけてませんか? 静かにしてますか?」


「……断言できるほどではありません。何度も暴れかけました」


 正直に応えるカウフタン。


「あまり迷惑をかけないように」


「……はい」


「ふふ、やっぱりその服、今のあなたが着ると本当に似合ってますね」


「……こ、このようなお召し物をご用意いただき、ありがとうございます」


「綺麗な女の子には、綺麗な服を用意してあげたくなるものですから」


「くっ……」


 綺麗な女の子と言われて屈辱を感じている様子のカウフタン。

 それがまた可愛らしくて、ほっこりする。


「ほんと可愛らしい。あなた、本当にカウフマンなのですかね? とてもそうは見えなくて……」


「本当にカウフマンです、オフィリア様。あなたにとっては……謀反人の衛兵隊長です」


「『元』衛兵隊長ですね、カウフタン」


 ほっこりしていた空気が、ピシッと緊迫する。

 やっぱり為政者って、こういう時の迫力あるなぁ……


 カウフタンも、さらに緊張を増した様子でうつむく。


「アイ様からあなたの処分については聞きました。兄の代わりに衛兵隊を抑える妹カウフタン。私があなたの指揮権の保障をしましょう」


「っ!?」


「やってくれますね?」


「もし、断ったらどうなりますか?」


「異世界の戦士様の、あの恐ろしい鬼たちの力でもって、衛兵隊を全滅させるしかないでしょうね」


 そこまでできるかわからないが、AI機関を守るためにやるしかないだろう。

 俺は覚悟をもって、こちらを見るオフィリアに頷いて応えた。


「……やはり私に、選択する権利はないのですね」


「ありますよ。今すぐに、あなたは全てを諦め、自害するという選択が」


「それこそありえない。私はどんな状況でも諦めなかったらか一時、隊長になれのです」


 カウフタンはスッと椅子から立ち上がり、オフィリアに向かって膝をついて頭を下げた。


「本来は処罰されてもおかしくない身。なのに助けていただき、さらにお役目までいただき、感謝の念に耐えません。私は、オフィリア様の軍門に下りましょう」


「あなたの奮闘に期待します、カウフタン」


「微力を尽くします」


「あと、落ち着いたら、あなたの服をもっと用意しましょう」


「……はい?」


「可愛い子には可愛い服を。私のモットーです」


 オフィリアの目が、カウフタンをターゲッティングしている。

 あれは……可愛いお人形の着せ替えを楽しみたい目だ。多分。


「オフィリアはしつこいぞ。果たして彼女の期待に応えきれるかな? ちなみにアイは耐えきったぞ」


 食らったことがありそうなアイは、耐えきったと胸を張る。


 それを聞いて、がくりと頭を垂れるカウフタン。

 それから俺の方を涙目で睨む。


(異世界の戦士! お前だけは絶対に許さないっ!!)


 って目で訴えかけてくる。

 怒った顔が、また可愛いなと思いながら、出されたお茶に口をつけた。


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