35話 義妹
ハイエースを転がして、屋敷に戻ってきた。
皆を降ろし、車庫入れをする。
明かりもない夜の車庫入れなのに、あっさり決まった。
上手くいった車庫入れにドヤッとする俺だが、誰も反応してくれない。
車社会ではないこの世界では通じないドヤ顔だった。
そんなことより皆憔悴しきっていて、その様子を見たら俺もドット疲れが出てきた。
「じゃー、みんな、それぞれ休んでくれ。アイも寝る」
「防衛の者たちに、近づいてくる衛兵隊に警戒を怠らないようにと伝えておきます」
「カウフマン殿はどうするっすか?」
おにゃのこ化した彼女は、今クオンが背負っている。
「メイドたちに任せて、まずは寝よう。みんな疲れてるよな」
クオンと俺は、強くうなずき、アイもそうだろうそうだろうとうなずく。
「では、カウフマンが目を覚ますまで、私が見張っていましょう。クオン、休んだ後、私と見張りを交代してくれ」
「しょうちっす……ふあぁぁあぁ、あ、失礼しましたっ」
「いや、クオンが一番疲れているだろう。この後のこともあるから充分な休養とはいかないが、今は休んでくれ」
「お心遣い、感謝っす」
ウルシャとクオンは、まずカウフマンを監禁する場所の用意と、メイドたちと共に向かった。
それを見届けた後、アイはふあぁぁと大きなあくびをした。
「すっごい疲れた……」
「おつかれ。魔法もそうだが、カウフマンとの交渉も大変だったよな。あの圧、すごかった」
「そうなのだ……はぁ……イセもだいぶ憔悴しているようだな」
「うん、まぁ……」
「男を女の子に変える『力』だからな。人の理を根本から変えかねない、まさに『魔』法だ」
「…………」
「扱いに注意してくれ。できる限り使わない方がいい。周りも大変だが……おそらくおぬしの身に何かある」
「何かって?」
「わからん。それが『魔』だ。魔法というと、まるで法則性があるように聞こえるが、そこに確実性はない。だから制御も難しい」
再現性のある科学とは違うということか。
どういうタイミングで暴走するのかもわからない。
ひょっとしたら、すでに暴走気味だったりするかもしれない。
と考えて不安になっていると、アイはふっと微笑んだ。
「大丈夫だ。ここに魔法のエキスパートであるアイがいる。もしまた何か掴んだら報告してくれ。カウフマンと交渉しに行く前に相談してくれた時のようにな。一緒に考えよう」
「ああ、頼む」
アイと別れて、俺は自分の部屋で寝る。
ベッドの上に寝転んだら、即寝てしまった。
その後、一瞬で目が覚めたかと思ったら、すでに日が登って昼間になっていた。
ものすごく熟睡できたようだ。
俺が寝ている間にメイドが用意してくれていた服に着替えて、朝食へ向かう。
廊下から食堂へ向かう途中で、食堂にはすでに人がいる気配があった。
アイやクオンはすでに起きているのかもしれない。
俺はおはようございますと挨拶しながら食堂に入った。
そこには……昨日の夜中に現れたばかりの、かつて圧のある偉丈夫だった美人の女の子がいる。
「あ……カウフマン、さん」
「……おまえか」
応えながら、ごはんを食べている。
彼女の目の前の料理は、結構な量だがそれでも大丈夫そうなくらいの勢いで食べている。
昨日の戦いで消耗したエネルギーを回復するためには、それくらい食べないといけないのだろうか。
それとも、性転換での消耗を食べることで回復しているのだろうか。
「……はむはむ……はむはむ」
そして無言でこっちをジロと睨みながら、ずっと食べている。
でも頬張りながら睨んだ顔も可愛くて、アイが着ているのと同じデザイナーでも作ったかのような服を着て……多分着せられているからか、余計に可愛い。
「何を突っ立っている」
ここはどうするべきか。
昨日の敵だったが、一応同じテーブルで食事ってことは……あまり険悪にならない方がいいよな。
「……ごはんいただきます」
彼女の向かいに座って食事を始めた。
その間も、ずっとこっちを睨んでいるので気が休まらないし、緊張感で食べるものの味もしなくなる。
圧はやっぱりすごいみたいだ。
「えっと、なんでしょう?」
「…………」
じっと睨んでいるのは、多分怒っているから。
まあ、おにゃのこ化した相手に怒るのは当然か。
ここはひとつ、こっちは別にそんな敵対してませんよ、これ以上は特に何もしませんよ、仲良くしましょうよアピールでもするか……
「……カウフマンさん、そのかわいい服、お似合いですね」
「このやろーっ!!」
「はいストップ」
手にしたフォークでも投げようとしたのか、跳びかかって刺そうとしたのか、立ち上がりかけたところで、どこからともなくすっとんで来たクオンに取り押さえられた。
捕まってもジタバタしているカウフマンさんが、かわいい。
「おのれおのれおのれーっ! こんな姿にしおってーっ!!」
クオンに取り押さえられながら、涙をぼろぼろと流し始めた。
なにこれ、かわいい……という思いを抑えきれず、泣き出す女の子にあたふたする俺。
「あ、戦士殿は食べててください。こちらはお任せを。よしよし、いい子いい子っす」
クオンはそんなカウフマンの頭を撫でながら、なんとなくデレッとしている。
……わかる。
俺も同じ立場だったらそうする。
背丈は、クオンより若干高いし、顔立ちは大人びてはいるものの、強気だけどどこか憎めない愛らしさを、カウフマンは醸し出している。
その様子を見ながら食べるごはんが、少し美味しかった。
「……何この子、かわいいっす」
「おのれー」
クオンとカウフマンが、いちゃいちゃ(?)している様子を眺めていると、今度は廊下を誰かが走ってくる音が聞こえる。
なんとなく察することができる。アイだ。
「決めたぞ! おっ、起きてきたかイセ。おはよう」
バンっと入ってきてこっちを見る。
「おはよう。何を決めたんだ?」
「カウフマンの処遇だ」
アイが入ってきて暴れるのを止めたカウフマン。
クオンも取り押さえるのをやめて、アイの動向を見る。
「……私の処遇、ですか」
「そうだ」
「私は謀反を起こした者。それを捕虜としては厚遇している……やはり処刑ですか」
「それはない」
アイはニヤリと、違うそんなものではない、もっといいものだ、と言いたげな顔を見せている。
「では、どのような……」
「お前の処遇は……カウフマンの妹、カウフタンとする!」
「……はい?」
「どうだ?」
「どうと言われましても……」
「なるほど。カウフマンの妹、カウフタン……可愛いっす」
「だろ?」
「「意味がわからない」」
カウフマン、もといカウフタンと言うことがかぶった。
彼女の方は、かぶったことでまたこっちを睨んできて、それからガクッと肩を落とす。
「わ、私は、どうなってしまうのだ……」
「捕虜って大変だな、カウフタン」
「この大変さを、そこらの捕虜と一緒にするなっ!!」
小気味よくつっこむカウフタンの株は、俺の中で急上昇だった。




