34話 凱旋
「カウフウーマンより、カウフゥーマンの方が良かったかな?」
「「「……はぁ」」」
アイとウルシャとクオンは、俺を一瞥もせずため息をついて、相談を始めた。
む、無視しなくたっていいじゃない。
俺はこの面白いと思って言ったのに受けなかった時の寂しさこそ、皆と分かち合いたいんだ!
でも話は進む。
「とりあえす、どうするんすか?」
「ひとまず……」
ウルシャは上着を脱いで、彼女にかけてやった。
ちょっと短いからか、お胸とおしりは同時には隠せない感じ。
「他にかけるものは、ないな」
アイはワンピースみたいな服だし、ウルシャは制服の上着っぽいのの下はブラウスだし、クオンは忍者だし。
ここは鬼たちを召喚して、腰布を集めてそれをかけてやればいいかな。
……と思ったけど、もっと白い目で見られそうだから止めた。
「俺の上着で……」
脱いで上半身裸になって、上にかけてやった。
これで一応、胸と尻は両方隠せた。
「下まで脱いで気絶中に襲いかかったら、全身にある全ての関節を脱臼させるっすよ」
「怖い怖い」
「マジっすよ」
「…………」
マジ顔でジッと睨むクオン、今まで見た中で一番怖い。
それから、皆で沈黙が続く。
ここはどうするのか言い出すのはアイだろう。
なんてったって『神器』でリーダーだ。
「なあ、イセ。これどうすんだ?」
おっと、俺が聞かれた。
「どうって……どうすればいいんだ?」
「これ、貞操どころの話じゃないぞ」
「ああ、うん、それはすごいわかる」
まさかのTS。トランスセクシャル。
対象者を脱力させるなんて生易しい『力』じゃなかった。
なんでこんな能力を? と考えてすぐ行き当たる。
「あ、そうか……」
これもハイエースか?
同人ネタで何でもハイエースしちゃうから、同じ同人ネタで何でもおにゃの子化しちゃうってやつか?
いくらなんでもアクロバット過ぎるだろ……
「この状況を何とかする方法でも思いついたのか?」
「いや……俺はこんなどうしようもない『力』が、本当に怖いと思ったんだ」
「怖いな。男にされなくて、ほんとに良かった……」
ウルシャがマジ顔で恐れおののいている。
「もうレ○プどころの話じゃない。性的に犯すという次元を遥かに越えている」
「最低っすね」
い、いたたまれないっ!!
「これ、なんとかならんのか?」
「わからない。また『力』使って……みる? ちょっと怖いけど」
「やめとけ。魔法は元々結果が不安定なものだし、おぬしの『力』は未知数過ぎる。性を変えるなんて伝説の魔法どころか、もはや『神』の領域だ」
「あ、そういえばありましたね。神話の時代にどちらの性も持っていたという神様の話が」
「その『力』というわけっすかね?」
俺の方を見る3人だが、俺はまったくわからないので肩をすくめた。
ていうか、そんな大層なものじゃない、どっちかというと倒錯的趣味系の何かだと思う。
「ま、イセの『力』の分析は後だ。それよりも今はカウフマンだな」
かわいい裸の女の子がハイエースの床に倒れている。
服をかけただけで、まだ誰も触れていない。
触れて大丈夫? って気分に誰もがなっている。
「しかし……かわいいっすね」
「うん。美人さんだ」
「これで犯されたら見るに耐えなかった」
うんうんと俺も一緒にうなずく。
お前がやりそうになってたんだぞ、という目で皆に見られるが無視する。
「ひとまず後部座席を用意するんで、えっと……彼女を抱き上げておいてくれませんか?」
ウルシャが了解して軽々と抱き上げる。
ちゃんと息をしているようで、ホッとしている。
「えっと彼女は、こちらで手厚く保護する、でいいな」
「いいと思うっす……でもさっきから彼女って呼ぶの、なんか違和感ありますね」
「「わかるわかる」」
俺もアイもそうだが、カウフマンを彼女と言うことに若干の抵抗を感じる。
さっきまで偉丈夫だったカウフマンが、華奢で美人で素っ裸な女の子になっている混乱は、呼び方もまた混乱させる。
そんな会話をしながら後部座席を用意し、ウルシャに彼女を寝かせてもらった。
「アイ様。衛兵隊どうするっすか? カウフマンが言ってた屋敷に攻めてくるっていう話。あれ本当っすよ」
「む、まずいな」
言いながら、今度はカウフマンが戦っていたあたりを見る。
炎の剣からの火や熱で、火事にはなっていないものの、黒焦げの箇所もある。
そこに、例の炎の剣になっていた羽根があった。
きっとあれは天使の羽根、なんだろう。
それをアイは拾ってじろじろといろんな方向から見て、多分安全を確認しているんだと思うが、大丈夫そうだったのか、ポケットにしまった。
「よし、魔法を使うぞ」
アイはまた呪文を唱えだす。
結構長い呪文と、魔力の膨れ上がり方からして、城下町でかけた通りに出てこないようにする魔法に似ていた。
アイの詠唱が終わり、魔力が森のある方向へ飛んでいく。
そっちには衛兵隊の野営地があった。
「隊長が戻るまで待機する気分にさせる魔法をかけた。だがいつまで保つかわからん。所詮気分だからな。隊長が戻らなくておかしいぞっていう疑問が強くなれば、カウフマンの指示どおりに動くだろう」
つまり、AI機関を潰しにかかってくると。
「では、戻ってからまた対策ですね。彼女のこともありますし」
「そうだな」
衛兵隊の対策もそうだが、何もよりもまずこっちのカウフマンの方が気になるみんな。
俺も、ぶっちゃけ、この『力』をどうしていいか途方に暮れているので、せめて今のカウフマンにどう影響を与えているのか、知りたい。
「んじゃ、戻ろう」
「うん」
アイの返事に合わせて、皆がハイエースに乗り込む。
後部座席に寝かせた少女カウフマンのそばに、ウルシャとクオン。
助手席にアイが乗った。
そして、サイドブレーキを倒してギアをDに入れ、ブレーキを離し、アクセルを踏む。
軽快に走り出すハイエースに、調子の悪いところなど何もなかった。
「……アイ、これって勝ったんだよな」
「ああ、勝ちだな。大将を討ち取り、捕虜にした上で凱旋だからな」
「被害はサイドミラーだけ。大勝利だ」
「うん」
俺とアイの会話に、後ろのふたりは入ってこない。
勝ったものの、問題がむしろ増えた気がするから、なんだかモヤモヤするからだろうか。
そのモヤモヤの原因が、今、運転席にいる。
「勝利とは虚しいものだ」
「それはおぬしが変なことばかりするからだ」
「はっきり言わないでっ!」




