33話 第三の『力』?
「いくぞーっ!」
アクセルを踏もうとした瞬間、アイがどんどんと助手席側の扉を叩いた。
そして扉を開けて乗りこんでくる。
「アイも行く。この戦いは、アイの戦いなんだ」
これでただ突っ込んで、炎の剣に斬られるわけにはいかなくなった。
ウルシャに頼まれたアイの命、俺が預かっているのだから。
「いくぞアイ」
「うん!!」
アクセルを踏んで、三人が戦う場所へ突っ込む。
そして彼らの直前で急ブレーキを踏み、ハイエースの後輪を横へ滑らせる。
俺は叫ぶ。
転生してから何度も使い、アイたちに恐れられ怒られ、ドン引きされた俺の『力』を発現させる。
「行けっ! 『人喰い鬼の分隊!!」
後部座席がスライドし、中から現れる異形の鬼たち。
現れた2体が、猛然と走る。
鬼たちが向かうのは、あの衛兵隊長カウフマン。
女でなければこの力、発揮できないかもしれないと、心配したがそんなことはなかった。
ウルシャやオフィリア、クオンを捕らえた時と同じように、躊躇のない動きだった。
ただ現れたのが2匹。
鬼1匹では捕まえられない、ということか。
そしてここからが、アイが見つけた俺の使いこなしてなかった『力』。
定めたターゲットから、捕まえる寸前に脱力させる謎能力。
「あいつをかっさらえっ!!」
叫んだ瞬間、俺の体から一直線に魔力が放出し、ウルシャとクオンを相手に優勢に戦うカウフマンへと向かう。
それが当たったと感じた瞬間――
「うっ!?」
電気ショックを受けたように、びくっと跳ねてカウフマンの動きが一瞬止まった。
その刹那の時を、ウルシャが見逃すはずがない。
「ここだっ!!」
閃いた長剣は、カウフマンの炎の剣、その刀身の根本をひっかけ、力が抜けたほんの一時を利用し、弾き飛ばした。
「しまったっ!? うっ! うぐっ!?」
炎の剣を失ったカウフマンに、迫り捕まえる鬼二匹。
「う、うわぁぁぁ!?」
断末魔の叫びのような、森に響き渡る声と共に、鬼たちはカウフマンの光る体をハイエースへと運ぶ。
まるで吸い取られるようにカウフマンは、ハイエースの後部座席へ。
……ん? 体、光ってる?
「ぐああぁぁあぁぁ!?」
捕まったカウフマンから、魔法の光が溢れ出す。
まさかこれは……
「おい。この光ってるのって、炎の剣をいきなり手放したから、天使の力が暴走したとか……ない?」
「そんなバカな。天使の『力』は魔法とは全然違うものだ。これはおぬしの『力』だ」
「え? そ、そうなの?」
アイと俺が、驚いている間にも、鬼気迫る鬼たちが光るカウフマンを取り押さえて、千切るように鎧などの武具や、ベルトや服を剥いで行く。
あ、やっぱりそこまでやっちゃう?
「お、おい、そろそろ止めろ。これ以上辱めるな」
「でも、武装くらいはとっておかないと。切り札まだ残ってたら大変だし」
「う、そ、そうだな……しかし、カウフマンには妻と子供が……」
命まで奪おうとしていた大将の貞操を気にするアイの方が、そのキルケってやつよりもよっぽど天使だな。
そして、服まで千切れて鬼が捨てたのを見て、俺は止めた。
「鬼たちよ、やめろ」
ぴたり、と鬼たちの動きが止まる。
カウフマンからあふれる光で、ご本人の姿は見えないが、破かれた服や、壊された鎧の残骸から、もう真っ裸のはず。
それを屈強な筋骨隆々な鬼たちが、取り押さえている。
見るに耐えない光景だ。
「これはひどい」
アイの一言に、コクコクと頷いた。
少しだけ、そのひどいが俺に向けられているニュアンスがあった気がするのだが、今はそのような些細な問題に気を取られるわけにはいかない。
「……貞操奪われてたらどうしよう」
「責任とるんだ」
「どうやって!?」
俺は鬼を消して、車から降りて、後部座席の扉の前へ回る。
アイも降りてきて、ウルシャとクオンもやってきた。
「あ、鬼を出しておいた方がいい?」
「もし襲いかかってきたら、僕の格闘術で止めてみせるっす」
頼もしい言葉を聞いて、俺は後部座席を開けた。
そこには倒れている人影がひとつ。
まだ光を発していて、だんだんと光量が弱まっていく。
そして――
「「「「……んん?」」」」
ハイエースの広々とした後部の空間に、倒れている……女の子がいた。
年の頃は、多分17歳くらい? 高校生くらいの頃合い。
素っ裸で、気を失っている。
そして四人とも、それが「誰?」と疑問にも思わなかった。
彼女から発している雰囲気から、その女性が何者なのか……いや、何者だったのかを察することができた。
さっきまで苦戦していた凄腕の厳つい戦士の男はそこにはいない。
代わりにすっぽんぽんの女の子がいる。
もう明白だろう。
「おい、イセ……これは? どういうことだ?」
「えっと……」
アイとウルシャとクオンが、こっちを見ている。
どこか責めるような目で、こっちを見ている。
やはり俺が責められるようなことをしてしまった……のか?
「えっと……カウフマンが、カウフウーマンになっちゃった?」
「「「…………」」」
上手いことボケたのに、誰もいいリアクションしてくれなかった。
むしろドン引きされた。
俺だってそうだよ!!
まさか、女の子するなんて思ってもみなかったよっ!!




