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278話 作戦会議とツァルク参戦

 結局、夜中は徹夜でアイの魔術の準備に付き合った。

 寝てない。

 寝なくていい体ではあるが、それでもげっそりした気分になる。


 そんな削られたメンタルで、夜明け近い頃合いに濃いメンツを打ち合わせ。

 エジン公爵軍を率いる指揮官の面々が集う部屋で、俺とアイは注目されている。


 主にカウフタンを中心とした、衛兵隊の面々。

 そこにはツァルクとタツコも揃っている。


 もちろんアイの護衛にウルシャもいる。


 アイは見るからに疲れが溜まっていますって感じの悪い顔色だが、目だけはギラギラしている。

 徹夜作業明けのハイテンション状態を維持しているようだ。


「カウフタン、ここの兵たちを全員、城壁の外に出せないか? 城壁の前にざーって並べて」


 何考えてんの? やってどうすんだ? って呆れ顔のカウフタン。

 呆れ顔も可愛い。

 部屋の扉近くに陣取っている切り込み隊長セディも、ガン見して癒やし分を補給している。


「無理なのか?」


「無理ではないですが、こちらの被害は相当なものになるでしょう。できればやりたくありません。アイ様の幻を見せる魔法でなんとかなりませんか?」


「ふむ……なんとかできるかできないかと問われると可能だが……アイにそこまでの余裕はない」


 カウフタンは眉根を寄せる。

 苦々しそうな表情も可愛くて魅せられる。

 セディがまた、今日も惚れ直しているのか、頬を紅潮させている。

 可愛いってずるいよなぁ。


「今日の開戦で、アイは『神器』として『神』に至る宣言をしなければならない」


 この言葉は、カウフタンらエジン公爵陣営全員の緊張を促した。


「これは、現『神』に仕える教皇の命令を大義名分とする彼らに対する宣戦布告であると同時に、アイからエジン公爵に仕える皆に対して大義を与えることになる」


 そのことは、カウフタンらエジン公爵軍首脳陣、全員がわかっていたようだ。

 緊張と共に高揚も見受けられる。


「本来なら、お前たち軍だけでなく、壁の内側にいる全員に見せたかったのだがな、そこまでの規模の大魔法となると、さすがに今のアイには無理だ」


「だから、余裕がないということですか……しかし、全軍となると……」


 悩み始めたカウフタンの前で、じっと見据えて黙るアイ。

 エジン公爵軍の実質的な総大将は彼女だ。

 彼らが戦う理由であるアイの提案を飲むか飲まないかは、カウフタンにとっても重要になる。

 戦術的不利を、アイの覚悟だけに託していいものでもない。


 そんな重い判断を委ねられたカウフタンの顔もまた可愛い。

 セディも幸せを噛み締めているようだ。


 そこに、トンと足音をひとつ立てて皆の注目をあつめるツァルクが声をかける。


「悩む必要はない」


 漂い始めた緊張を緩和する彼の声に、皆は集中する。


「『神器』の魔法がどれほどの規模になるのか、効果はどんなものなのか、計り知れない。その点は俺は一応知ってはいるが、まあ規格外だ……それに全軍が触れる機会なら、触れておいた方がいい」


 ツァルクは開いて手から、手のひらに乗るくらいの小さな竜を出してみせた。

 『真力』と名付けられた『竜』の力。

 その力を具現化したもの。


「ほら。こういうのにある程度慣れておかないと、指揮もとれなくなる。これはむしろいい機会だ。アイの魔法は、俺の竜騎士の力程度ではないぞ」


「……なるほど」


 納得しかけるカウフタンに、ツァルクは追い打ちをかける。


「アイもその大魔法で相手の軍に攻撃しようっていうんじゃないんだろ?」


「もちろんだ。アイに攻撃の意思はない」


「なら大丈夫だ。さ、覚悟を決めるんだ」


「……」


 カウフタンが少し落ち着いた。

 どうやら覚悟が出来たようだ。


「そうだ、覚悟だ」


 アイがそれだっ、て感じで食いついた。


「エジン公爵軍の覚悟をこれで見るんだ。兵と共に指揮を取るもの……その幹部たちカウフタンたち……みんながどこまで覚悟ができているのか、これで試す」


 むふーっと我が意を得たりという感じで言い切った。

 だが、それに対して、カウフタンがムスッとして反論を始めた。


「覚悟というのなら断る」


「えっ!?


「それこそ、公爵閣下の命令を持ってきてもらおう。兵を動かすだけの話ではないものには軍の長として乗れませ。そんな度胸試しのようなものは戦場に必要ない」


「ええぇぇ……」


「違いますか?」


「……」


 キョロキョロと周りを見るアイだが、味方がいない。

 言い出しっぺのツァルクも、少し生暖かい目でアイを見ている。


 それ、お前が言っちゃダメなやつだ、と言ってるみたいな。


「いや、でも……その……」


 カウフタンに睨まれ、おろおろするアイ。

 うーむ、どうしたものか……


「じゃ、提案いいかい?」


 ツァルクが手をあげて言う。


「もし、アイの魔法が上手くいかず、兵が危なくなったら俺が助ける」


「どのように?」


「壁の内側に逃がす時間を稼ぐ」


「どうやって?」


「先日の俺のやったことあるだろ? 竜の咆哮。あれは篝火を消して、陣幕を強く揺らす程度だったが、今度は人を吹き飛ばすほどのものにする」


 ツァルクが軽く言ってみせたことに、カウフタンは目を見開いた。


「俺ひとりでも、あちらの全軍相手に渡り合えるつもりだ。はったり含めてな。だが、すでにはったりは見せた。少しは対応してくるだろう。『竜』の力、使えるやつもいるみたいだし。だから、保って1時間だな」


 カウフタンは、ツァルクの言に食らいつく。


「それだけあれば十分。むしろその力をほんの少しでも借りられれば、連合軍の撃退も……いや違うな……。ツァルク殿、相手は教皇の討伐軍です。あなたはいいのですか?」


 彼は初代教皇であり、教皇の名に『ツァルク』は受け継がれているほどの人物。

 であるなら、ツァルクからの攻撃は、連合軍にとって意味は大きい。

 だからこそ、その意志を問うカウフタン。


「竜騎士として、味方になりうる存在を傷つけるのは避けたいが……避けられない時は戦うさ」


 それだけ聞くと、カウフタンはフーッとため息を大きくついた。


「……奇策か。好かんのだがな」


「クーデターに一度失敗してるからかな……」


 ぼそっと言ったのに、カウフタンには聞こえていたのかすごい睨まれた。

 しかし俺を無視して、アイに向き直る。


「失礼しましたアイ様。城外に兵を布陣しましょう」


「う、うむ!」


 アイはホッとして、胸をなでおろした。


 こうしてエジン公爵軍に、最後の魔法使いアイの他に、竜騎士ツァルクが戦列に加わった。


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