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271話 戦争終結の切り札

 エジン公爵領の城下町は、『神器』アイの帰還に沸いていた。

 歓迎の荒波にもまれるヌイーズ卿の護衛たちと、駆けつけてくれた衛兵隊の面々。

 彼らが俺たちの進む道を引き開いてくれなければ、徐行すらできない。

 かといって邪険にはできないし、むしろみんな声をかけると喜んで道を空けてくれた。


 最初に来た時は、町全体が敵対していたようなものだった。

 城下町を守る衛兵隊は皆、敵対者だった。


 変われば変わるものだなと、思う。

 それと同時に、少し感動を覚えている自分がいることにも気づいた。


 俺は元の世界で、伊勢誠本人ではないと知った。

 イセマコトは、今運転しているレンタカーのハイエースを元に生まれた存在。


 つまりこの世界が俺の世界。

 元の世界と思っていた場所は本体が生まれた場所ではあるものの、育ったのはこの世界。


 俺にとってはここは故郷だ。

 だからこそ、俺が最初に訪れたこの町は、故郷といってもいいかもしれない。

 その故郷に熱烈な歓迎を受けている。

 この感動は、そういうものだろう。


「戻ってこられて良かった」


 そうつぶやくと、助手席のアイがこっちを見て優しく微笑んだ。


「早くオフィリアに会いたいな」


「そうだな」


 オフィリア嬢御本人にそこまでの愛着はないが、自分の主人がずっと世話になっている人だ。

 会いたくないわけがない。

 会えたら、アイを守ってよく戻ってきたと褒めてくれるに違いない。


 そんなことを考えていたら、公爵の屋敷が見えてきた。

 その屋敷から向かってくる一団が見えた。


 付き従っている衛兵も、彼らが守っている集団の高貴そうな服装のメンツも、若干見覚えがある。

 エジン公爵の側近たちだ。

 その中心にいるのは間違いなく、オフィリア嬢。

 現在のエジン公爵閣下。


「オフィリア!」


 出ていこうとするアイを止めずにドアを開いて導くウルシャ。

 同時に俺はブレーキを柔らかく踏み、車を停める。


 あとは期待通りにことは進行した。


 オフィリアとアイが互いに駆け寄って抱きしめ合う。

 見ていた人たちが、感動の再会に沸くと、町全体へその歓声が派生していく。


 俺たちが城門を抜けて受けた歓迎以上のものが、彼女たちを中心に巻き起こった。


「帰ってきたぞ、オフィリア」


「はい! よくぞご無事で、アイ様」


「心配かけたな」


「それはもう。でも信じておりました」


 オフィリアの言葉は嘘偽りないのだろう。

 そう言った後、さらにぼろぼろと涙を流していた。


 城下町にいる人々は、この少女ふたりの再会を歓迎したいと寄ってくる。

 その群衆をよせつけまいと頑張る衛兵隊のみんなも、感動の涙を流しそうになっていた。


 その騒ぎの中、俺はたしかに耳にした。


「アイ様が帰還された! これで勝てるぞ!!」


 誰かがそう言い、そうだと同意され、復唱されて波及していく。


 そこで俺は、はたと冷静になってしまった。


「はて、それはどうだろうか……あの軍勢だろう……?」


 そうつぶやくと、後部座席にいるツァルクが指でつんつんとつついてきた。


「そういうのは黙っておく」


 小声で注意されてしまった。

 余計なことを言って、聞かれでもして、それがこの騒ぎの中で広まったらそれはそれで大変なことになるだろうから。

 ここはたしかに黙っておくのがベターだろう。


『戦争ならどうとでもなる』


 同じく後部座席にいたタツコが念話で話しかけてきた。

 ツァルクにも同じように話しているのだろう、彼もタツコに視線を移した。


 どういうことだ? と質問しようとしたら、タツコの話は続いていた。


『問題はむしろ、『神』になる方法の方だな』


 そっちも問題なのは、それはそうだ。

 だが、今は直近のこのエジン公爵家の問題だ。


 アイの根拠地とも言えるエジン公爵がヤバくなるのは避けないと、『神』を納得させる方法探しという課題を解くことに時間を費やせない。


「どうとでもなると言うが、どうするといいんだ?」


 俺はタツコが気にしていることよりも、先にどうとでもなる根拠が聞きたいと彼女の思考に割って入った。


「ツァルクにまかせておけばいい」


「え? 俺?」


 タツコの言葉に、言われた本人が首をかしげた。

 このふたり、意思疎通ができていない。


「おぬしがこちらの将に、戦況を聞けばいい」


 タツコがツァルクにそう言う。

 何言っているのか、俺にはわからないが、ツァルクは気づいたようだ。


「なるほど。まあ助けてもらったわけだしな」


「何? どういうこと? 教えて」


「ここの将軍から話を聞いてからじゃないとまだわからないが、この規模の戦なら多分なんとかなるだろう」


 ずいぶんとあっさりとした返答だった。

 まるで自分ならこの戦を終わらせることは容易いと言いたげな感じ。


「イセくん、君の主人の許可を貰えるのなら手を貸そう。少しでも借りは返したいしな」


 手を貸すというのは、ツァルクが手伝うということか?

 と疑問が浮かんだ瞬間に解消した。


「まずはここの領主、エジン公爵閣下に俺を紹介してくれないか?」


 紹介するには、正体を明かす必要がある。

 俺とアイは、この男をこう紹介するだろう。


 伝説の『竜騎士』にして初代教皇ツァルク1世ご本人と。


 そういえば、今回の公爵討伐軍は、教皇が発起したんだっけか。

 この戦争は、案外早く解決する問題かもしれない。


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