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268話 戦場を駆ける者たち

 だんだんと土煙砂埃が晴れてくる中で、重武装の大勢が戦っている最中。

 その中に、俺は不時着したらしい。

 攻撃魔法か何かと勘違いされたかもしれない。


 だから皆、戦う手を止めてこちらを警戒して見ている。

 嫌でも視線が集まっているのがわかる。


 そんな中、兵士のひとりが支え持つ軍旗に気づいた。

 見覚えがあるし、この世界に来て一番よく見ている紋章かもしれない。


 エジン公爵の紋章に、剣のような紋章も混じったデザイン。

 あれはエジン公爵の衛兵隊の紋章、のはず。


「衛兵隊はいったい何と戦っているんだ? どこの兵たちだ?」


 ウルシャはアイを背中に隠れさせつつ、疑問を口にする。

 俺には答えられないので、誰かわからないかなーと見回すと、こういう荒事で一番便りになりそうなケアニスが答えた。


「あの辺にいるのは、コンウォル辺境伯の騎士ですね」


「え? 何故? どこに?」


「見えますか? あの騎士」


「はい……何故、コンウォル辺境伯が攻めてきている……」


 見て気づいたのかウルシャはうなずいている。


 俺もよく見てみる。

 ケアニスが指差している騎士は、鎧の上にコートをかぶっている。

 陣羽織のようなもの? サーコートっていうの?

 白っぽい布地に赤い線が何本か入っている。

 そういえば、魔境城塞を超える前にかち合った連中が着ていたような気がする。

 似たようなデザインが多いのでちょっと自信ないが、あんな感じだったような気がする。


 衛兵隊のコートは白地に黒の線と隊の軍旗にある紋章だ。

 なるほど、そういうところで見分けるのね。

 でも着てないやつも結構見えるけど……


「あの辺の集団は、上着でわからんけど、どっち?」


「頭につけてるだろ? あいつは首と肩、あれはマントだな」


 ツァルクが教えてくれた。

 だいぶ汚れているが、白地に赤い線に見えなくもないな。


「サーコートを用意できるのは少ないですから、傭兵でしょうね」


「傭兵……そういえば魔境城塞に駐留する傭兵ってサミュエル自治領からの支援って話だったな」


 そうつぶやくと、ケアニスとウルシャとアイ、それに鬼王もこっちを見てハッとしている。


「ってことは、今あの城塞は手薄か……へぇ」


 鬼王はさっきから嬉しそうな顔をしていたけど、さらに笑みを深めた。

 とても、怖い笑顔だ。


 魔境城塞は攻めてくる亜人たちと戦い続けていたところだったっけか……

 亜人の王としては喜ぶところ、かね。


「城塞の兵のかなりを割いてエジン公爵領へ? アイたちと会った後すぐに?」


 アイの疑問は、ここにいる皆の疑問だ。

 あ、人間の事情知らないタツコと、千年前の知識のままのツァルクは蚊帳の外だ。


「おかしい。あの後、即進軍したとしても、2日3日でたどり着ける距離じゃない」


 そんなことはない、俺のハイエースならって思うけど、こっちの方が非常識だ。


「うちの戦士たちなら行けるけど、まあこの人数は無理だよな。だが実際にこの通り攻めてきてるわけで、どんな方法を使ったのか気になるよな……ちょっと聞いてくるか」


 鬼王がつかつかと歩き出した。

 どこへと聞くまでもなく、兵がたくさんいる真っ只中だ。


 十数歩進み、秒で剛術を発動して加速し、走り出したらもう兵たちが戦っている中へと突っ込んで行った。

 そしてひとり素手で捕まえ、なにやら脅している。


「ほんとに聞いてる。自由だな」


「本陣の場所でも聞いているんでしょう。的確ですね。いきなり現れた亜人に嘘やゴマカシができる人は稀でしょうし」


 ケアニスは真力を発動し、ふわりと浮かび上がる。


「私がついて行きましょう。魔境城塞の人たちとは面識もありますから聞けるだけ聞いてきます」


 文字通り、飛んで鬼王を追いかけるケアニス。

 堕天使もとても自由だ。


「狭いところでジッとしてたから、動きたいんだろう。あいつらアイたちと違って車から出てないからな」


 剛術と真力で駆けるふたりが、リードから解き放たれた犬みたいに、ちょっとだけ見えた。


「アイ様、イセたちがいるとはいえここは危険です。まずは離れましょう」


「そうしよう。城下町に入ろうか。家が近くにあってよかった」


「そうだな。ならアイ、オフィリア様に帰ってきたことを伝えたら?」


 アイはポンと手を叩いて、それから札を出して呪文を唱え、魔法で作り上げた小鳥を飛ばした。

 鬼王やケアニスの術の発動と比べるとあまりにも遅い。


 だが『力』の使い方に気づいた俺から見て、それは破格の速さだった。

 剛術は亜人の特殊な体をベースに、ケアニスの真力は特殊な装置をベースに力を引き出し、術を通して効果を発揮している。

 アイの魔法は、『魔法』という元本を術のためにゼロから作り上げるところから始めている。


 この魔法への理解と、術式を展開する思考と喉と舌と指先の器用さとスピードとが、極まっている。


 もしアイに、鬼王やケアニスと同じベースを手に入れることができたら……


 という考えに思いを馳せそうになったところで、ここが戦場のど真ん中であることに気付かされることが起こる。


 軍馬にまたがり駆けながら、兵を叱咤激励する者がいて、戦場に大音声を響きわたらせていた。


「『神器』アイ様のご帰還だ!! 勝てるぞ!! アイ様のご帰還だ!!」


 今いるところからだと微かに聞こえる程度で、戦場を駆ける姿は人影レベルの小ささだが、その声ははっきり聞こえた。


「この声って……カウフタン?」


 馬を駆る小さな人影は、女の子になったカウフマン。

 今は、衛兵隊長代理のカウフタンだ。


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