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267話 不時着

 『世界』に吸い込まれていく感覚が、徐々に落下していくという感覚に変わっていく。

 落下ダメージを減らすためにも、俺自身が使えるエネルギーを逆噴射でもするように地面へと叩きつける。


 大きく舞う砂埃というか、砂煙というか、それだけでも暴風以上の衝撃波が周辺に撒き散らされる。

 クレーターとか出来かねない勢いだったので、そっちの衝撃も出来る限り周辺に行かないように空の方へ逃がす。


 ん、なんか俺、自分の力をコントロールするのに慣れてきている?

 そんな感想が頭をよぎりつつも、アイたちの命の掛かったこの着地に集中する。


 最後の着地で体勢を崩さないように、車体のタイヤを地面にじわじわと接地。

 どこも壊れることなく、車内に衝撃を与えてアイたちを天井にぶつけるようなこともせず、無事に着地した。


「……ふぃぃぃぃぃ」


 緊張から開放され、俺は大きく息を吐いた。

 あー、ハンドルを握る手に汗が。


「みんな大丈夫?」


 助手席のアイとウルシャを見て、それから裏に乗っているタツコとツァルク、ケアニスと鬼王を確認した。

 全員俺の声を聞いて、ホッとしたようにうなずく。


 アイとウルシャは違うが、うしろの4人はそれぞれ真力と剛術の使い手という超人たちだ。

 そいつらが、普通に焦っていた状態から開放されたって顔をしている。


 やっぱし、他の世界からこの世界に来るっていうのは、相当な負荷がかかるんだな。


「イセさんは大丈夫ですか?」


 ケアニスが聞いてくるので、大丈夫と言ってサムズアップした。

 ちょっと手が震えているのがわかった。


「おつかれさまです」


 最初に俺をねぎらってくれたのがケアニスというのは、ちょっと複雑な気分だ。


「アイツ、逃げたんだな。逃したのか?」


 タツコが車内を軽く見回した後、俺を軽く睨む。


 アイツとは、この世界の『神』のことだろう。

 帰る直前に拉致して車内で拘束していたのだが、姿が見えなくて、軽く不機嫌な様子だ。


「逃げられた。ここに到着する直前」


 車内から跳んで、あっちの世界に帰ろうとしてたのを邪魔をした。

 だから多分、この世界にいる。


「俺たちみたいに、どこかに不時着していると思う」


「死んでないよな」


 鬼王が残念そうに、というよりつまらないことになってないだろうな、という調子で言うが、ケアニスが半笑いで答えた。


「それで死んでたら苦労しないでしょう」


「だなぁ」


 二ノ神先輩は、この世界のどこかにいる。

 力を使うのを抑え込めたとはいえ、この世界の『神』としての力はまだ使える。

 『派遣』の術に干渉してみせたわけだから、これからもまたお騒がせなことをしでかすだろう。


「それでイセくん、ここはどこだ?」


 ツァルクが窓から外を眺めている。

 着地時の土煙がもうもうとしてて、よくわからない。


「鬼王のいた廃城のそばではないはずですよ。あのトラックを目印に引っ張られての世界まで来たんですが、それを先輩に邪魔されて『派遣』の術ではなく、ただの勢い任せの不時着になっちゃっいましたから」


「何言ってるか、さっぱりわからん」


 どう説明したらいいやら。

 俺もまだ上手く自分の力や、ここに来るまでに見たこの『世界』のこととか、上手く言語化できない。


「星や山の位置で場所わかるかな? 外、出てみようか。今度はタツコたちも出られるでしょ?」


 車体を通して感じられる皮膚感覚は、天使や元『竜』や亜人たちでも大丈夫な環境と捉えている。

 なのでうなずくと、まずタツコとツァルクが降りて、その後に鬼王とケアニスが続いた。


「俺たちも行こう」


 アイとウルシャに告げると、ふたりともうなずいて助手席側から降りた。


 地面に立つと、若干違和感とズレがある。

 ずっと座っていた後で立ち上がると感じる、体感的な違和感。

 でもそれも数秒で馴染んでくる。


 立っている状態が普通と、体が対応してくれている。


「うんぁーーっ! 体が固ぇ。狭いところにジッとしすぎた」


 鬼王が大きな体を伸ばし、両腕をひろげてからストレッチを始めた。

 皆、似たようなものだ。


 周囲を見回しながら体をほぐしていると、人の気配を感じた。

 土埃が舞う中には、何人もの人たちがいる。


 何人もって数じゃない。数十人規模?


「あれ? ここって……人、多すぎじゃね? 町か?」


 それはみんな気づいているようで、アイも周りをキョロキョロし始めた。


 ケアニスは上空を見上げ、鬼王は手を額にかざしながら遠くを見ている。

 それぞれ場所を確認し、鬼王は多分身体強化の剛術で視力を強化して周りを見ているようだ。

 これならすぐに場所がわかるだろう。

 そう思っていたら、最初にウルシャが気づいた。


「アイ様、あれを!」


 ウルシャが指で示したのは、水平よりも少し斜め上。

 土埃が少し晴れて見えてきたのは、城郭の一角?


「え? ええっ!? 城下町だ!」


「城下町って、エジン公爵領の?」


 見覚えのある城塞が、だんだんと見えてくる。

 オフィリア様を救出しに行った時に見たし、キルケに襲われてケアニスに助けられた時にも見たし、ナノスにトラックで襲われた時も今のように少し離れたところから、エジン公爵領の城下町を見た。


 そして、その土埃が晴れた中で、立ちすくみながらこっちを見ている大量の人間たち。

 全員、鎧や剣や縦、槍等で武装をしている。


「あー、この楽しい感じは間違いない」


 鬼王がちょっと獣じみた笑みを浮かべて嬉しそうな声を出した。


「ここは、戦場だ」


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