266話 『世界』を外から眺めて
衝撃が襲ってきて、意識が真っ白になる感覚。
『俺』が運転手だった伊勢誠と一緒にトラックに跳ねられた時と似ていた。
体が衝突によって揺さぶられ、閃光のような衝撃が五感全てに襲いかかる。
まさに不意打ちの事故だ。
不意の事故なんて、生きていればありうることだ。
俺は『俺』という意識を持つ前からそれを身を以て体験している。
問題はそこではない。
どこでその事故が起こったのか、ということだ。
『俺』がいた元の世界と、『俺』が生まれた元々の世界でのことではない。
その世界と世界の狭間で起こった事故だ。
それって、危ないのでは?
このままこの狭間に取り残されるのでは?
それはまずい。なんとかせねば。
事故はすでに起こっているから、もうどうしようもない。
問題は事故後の処理だ。
事故の衝撃は俺自身だけではなく、乗っている人たちにも大いに及ぶ。
車体で衝撃をある程度防ぐことはできても、そもそも身体の耐久力が違いすぎる。
だから彼らへの衝撃をまず減らさなければならない。
幸い、事故直後でも対応できるだけの意識は残っていた。
アイとウルシャさんはきっちりと守って衝撃を完全吸収。
人外の力を持つ他のメンバーは、衝撃半減くらいで大丈夫だろう。
その時の車内の確認時に気づいた。
先輩は、事故の衝撃で車外に吹っ飛んでいった。
まあ一応『神』だし、その程度では死なない……と信じたい。
流石に死んだら、ちょっと寝覚めが悪い。
それにこの事故って起こしたの、多分先輩だろうし。
この程度、自分で何とかするだろう。
車外の様子を把握して、先輩を探したらこれからたどり着く『世界』が見えた。
俺が生まれた世界。
アイたちが暮らしている世界だ。
世界を外から見ることができている。
宇宙から地球を見た人間たちは、こういう感動だろうか。
その質量の異様な大きさに圧倒される。
でかい。でかすぎる。
でかすぎてとても手に負えない。
こんなものをよく守ろうとか、優しくしようとか思えるよな。
そういう人間は器がでかいのか、よく見えてないのか、どっちだろうか。
そのでかい世界が、端っこから崩れかけている。
『神』が用意した崩壊寸前の場。
鬼王ら亜人たちがいる土地を思い出した。
世界のあちこちにああいう場所が存在する。
「先輩が、諦めた理由か……」
その崩れかけた世界へと、俺の体は猛烈な勢いで引っ張られている。
これはあのナノスが使っているトラックの力ではない。
『派遣』の術は『世界』の力を利用している。
今、このボロボロの『世界』に、『派遣』の負荷がかかっている。
多かれ少なかれ、人の営みとは世界に負荷をかけるものではあるが、危ないことをしているんだな。
そして俺が使っている力っていうのは……
引っ張られる力が、近づけば近づくほど強くなる。
引力というやつか?
これってつまり……落下しているってことなんじゃないの?
つまり地上に到着と同時に、さっきの衝撃と同じかそれ以上のがやってくる。
車内にいる連中のためにも、この衝撃を和らげないといかん。




