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259話 『神』との会合終了と、これからの『神器』たち

 『神』に直接交渉することで、他の『神器』たちより先んじたはずのアイ。

 だが先輩が持つ『神』の力を手に入れるための試練は、アイのみではなく他の『神器』たちにも与えられることになった。


「やっぱり、まずい条件になった?」


 アイのみに与えられた試練ならば、それこそ魔法を研究して極めるように条件を揃えていくこともできた。

 アイだけでは条件を揃えられなくても、元の世界に戻って皆の力を借り、時には『竜』攻略やこの世界へ行くために協力しあった時のように、他の『神器』たちの力も借りることができた、かもしれない。


 だが『神器』同士の競争で、邪魔しあってもよいとなると話は違ってくる。

 協力しあうことはあっても、どこで出し抜くかの問題が出てくる。


 この話し合いが持たれる前までは、出し抜いたからといって、他の『神器』を排除したからといって、『神』になれるわけではなかったし、排除によって有利になるかどうかも怪しかった。


 それが今回のアイの交渉で、『神』に至る条件がはっきりしたのだ。


 『神』の力を得れば、世界を維持できることを、具体的に示す。

 そして、それができる者たち同士で、競争しあう。


 これは今現在まで生き残っている『神器』による『神』の座争奪戦になった、ということだ。


「アイだけだったら簡単だった。競争となると難易度はあがったな」


 不機嫌そうに言うアイのそれを聞いて先輩は、嬉しそうにする。

 溜飲が下がる気分にでもなっているのかもしれない。

 人が困っているのを見て、ちょっとした憂さ晴らしをするところ、先輩っぽいなぁと思う。


「この条件……ソロンたちはどう出てくるか……うーむ……」


 スマホからこちらの話を聞いているケアニス、鬼王、タツコ。

 それにそのスマホの持ち主である志賀飛鳥。

 『神器』である彼らは、この条件に対してどう出てくるのか。


 っていうか、この条件って『神器』になった時にちゃんと示しておくべきでは?

 なんのために『神器』に選んだのかわからないじゃないか。


「なぁ『神』よ。こういうのって最初から言っておかないと混乱するだろ?」


 おっと、疑問に思ったが余計なことかもしれないので言わないでおこうと考えたが、ツァルクが突貫した。

 この余計な忖度をしないところ、嫌いじゃない。


「『神器』を選んでいた頃は、あの時の条件や環境でやっていける人たちに譲るつもりだったんだ。でも時間と共に状況は変わったんだ」


 そこまで言って、先輩はアイを見据える。


「自分ではどうしていいかわからなくなった。だがここにアイが来て自分にできないことをやってのけると言った。だから力を譲る決心がついたんだ。あとは譲る条件をアイたちが示してくれればいい」


 それを聞いたアイは、もやもやしていた気持ちを払うように自分の顔をぱしぱしと叩いた。


「わかった。つまりこれでようやくスタートラインだ。『神器』としてやるべきことが示された。ならばあとはやるだけだな」


 アイの切り替えの良さに、重い雰囲気になりかけていたものが晴れた。


「師匠は協力してくれるよな?」


 そしていきなり『神器』同士の交渉が始まった。


「構わない」


 アイと同い年くらいの少女になったシガースこと志賀飛鳥は、ソシャゲをやっていた手を止めた。


「私にとって他の『神器』より組みやすい。出し抜かれる心配もないし。こちらの世界から協力できることは協力しよう」


 アイと志賀飛鳥は握手しあう。

 『竜』との戦いあたりでの仲違いが今ここで終わった、と考えていいのかな?


「ケアニス、ソロン、タツコ。聞いてるだろ? あとで話そう。いいな?」


 アイは志賀飛鳥の持つスマホに向かって声をかけ、それから俺に視線を向けてくる。


「んじゃ、帰ろうか」


 食事も終わったし、話すことも話したから帰るか、日常的なノリを見せたアイの姿勢に、俺は何故かホッとした。


「ああ、そうしよう。あ、でも俺、帰る方法わからないけど」


「もちろん用意しているよ」


 志賀飛鳥が応える。


「また、トラックと正面衝突?」


 俺の経験的には、向こうの世界に飛ばされた時の事故と、ナノスのトラックに生身ではねられた時と、ここに来るために正面からぶつけられた時と、3回あった。

 3回経験しても、ちょっと衝撃的過ぎてまったく慣れないからドキドキだ。


「いや。今度は跳ね飛ばされるんじゃなくて、引っ張られる」


「どういうこと?」


「その辺は体験してみればわかるよ。それよりもさ、キミはそれでいいの?」


 志賀飛鳥と話していたのに、先輩が割って入ってきた。


「何が『それ』なの?」


 この人が、また何か言い出してきた。

 俺にとって『それ』とは何か?

 『それ』がいいとか悪いとかあるのか?


 すべてがわからなくて、気持ちがざわつく。


「そっちに行ってもいいのかい?」


 ざついた理由がわかった。

 この人は、俺の存在そのものに対して、なんらかの決断を唐突に強いてきたんだ。


 そっちとは、俺が元いた世界。

 今の俺が、イセとして生まれた世界。

 アイたちが暮らす、滅びかけた世界。


 行ってもいいのかということは……


「こっちに残れるということ?」


 我が意を得たりという感じで、余裕の笑みを先輩が見せた。


「当たり前じゃないか。今現在、キミはここにいるんだから」


 俺がここにいるのはわかる。

 だが俺がここにいるのは、俺が記憶を一部コピーした伊勢誠の体を操っているからいるに過ぎない。


 なぜなら俺は、あっちの世界に『派遣』されたあのレンタカーなのだから。


「伊勢くんの体をそのまま操り続ければいい。体の方は駐車場でも借りて置いておけばいいんじゃない?」


 俺は自分の疑問を口に出していない。

 だが先輩は、俺が考えていることがわかったようだ。


 ここに残る手段を、明確に示してきたのがその証拠だ。


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