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25話 間者クオン

 昨日、城下町のカウフマンに動きがあった知らせを受けた。

 エジン公爵領城下町から、AI機関のある屋敷まで、通常の旅程なら2~3日くらいの距離がある。

 大部隊で行軍しながらとなると、3日はかかるだろうとウルシャは踏んでいた。


 進軍する衛兵隊を避けながら、間者のクオンはこちらに合流する。

 早くて衛兵隊がやってくる1日前にたどり着くだろう。


「本来なら、もっと早くに来て欲しいけどな。向こうの戦力の詳細をクオンなら調べているだろうし」


 アイはそう言うが、ハイエースが便利に速いだけなのだ。

 人の足や馬の足では、そこらが限界。

 この辺、通信が発達した元の世界が懐かしい。


 ついでに言うなら、もっと魔法的に便利なものはないのだろうか?


「瞬間移動みたいな魔法はないの? 立ち寄ったところに飛べる的な」


「おぬしは想像力豊かだな。大昔の大魔法使いなら使えたと聞く。そこまでできたら『神』になれるかもしれないな」


 と、アイは言う。

 なかなかままならない異世界転生だ。

 もっとも、もしそんなのあったら、俺の『力』の価値は半減だからそれでいいのかな?


 しかし、ルーラくらいで『神』になれるのか……ずいぶんとしょぼい?

 といっても、元の世界もそんなのなかったのを考えると、そんなもんかとひとまず結論づけた。


「よし。それじゃイセ。ハイエースに乗せるんだ」


「ん、ドライブか。行こうか。ウルシャもくる?」


「もちろんだ。アイ様とお前の護衛だからな」


 というわけで、今日は一日ドライブと洒落込んだ。

 その間に、俺の『力』をどう使ったらいいかを考えてみたりしたが、特に思いつくこともなかった。

 鬼たちに掘る道具持たせて塹壕でも作ってみたらと思いついたのは、その日の夜中だったので明日の朝にでも話そうと思った。


 そして次の日。

 塹壕掘りのアイデアを出そうとしたその時、変化がおこった。


 へとへとになった馬と人が、屋敷へ滑り込むようにやってきたのだ。


「アイ様ーっ! 貴方様のクオンが戻ってきたでやんすーっ!!」


 屋敷に飛び込むやいなや、倒れ突っ伏しながらも叫ぶ女の子。

 それを聞いて、執務室を跳び出して迎えに出るアイ。


「クオン! 戻ったか!!」


「はぁはぁはぁ……ぜぇぜぇぜぇ……も、どりました……」


「水だ! 誰か水をーっ! クオンが今にも死にそうだ!」


 ついに現れた間者クオン。

 汗だくでボロボロ状態な上、地面に倒れたので土まみれになってる女の子は、皆の同情をひく。


 背は、女性にしては長身のウルシャよりだいぶ低く、見た目幼女のアイより少し高いくらい。

 そして顔立ちからして子供だろうという感じだが、おっぱいは大きい?

 あれか? ロリ巨乳ってやつか? それとも童顔なだけで大人の女性か?

 アイが18歳って話があるから、判断に迷うところだ。

 それにクオンの腕や足がむき出しになっている上着とズボンから察するに……忍者?


 と、クオンとアイの様子を見てると、ウルシャがクオンを抱っこして連れていく。


「よく戻ってきてくれた。ゆっくり休めと言いたいところだが、聞きたいことが山程ある。休憩しながら話してもらうぞ」


「わかってまっす。僕は間者っすから。人でなしな扱いなんてへっちゃらっす」


 人聞きの悪いことを疲れ切った笑顔で口にするクオンに、苦笑するウルシャ。


「ウルシャ。クオンを風呂に入れてやってくれ。怪我してたら治療も」


「わかっております」


「いえいえっ、そんな僕のことなんて気にせずに、掴んできた情報をですねっ! ってあれ? ウルシャさん? 僕をどちらへ? あれ……? アイ様から離れていくぅぅ……」


 クオンの言い分は無視されて、予定調和という感じで運んでいくウルシャ。

 ウルシャと同じような苦笑を浮かべているアイが、俺に言ってくる。


「イセ。あれがクオンだ」


「クノイチか」


「くのいち?」


「なんでもない。ちなみに彼女は18歳?」


「お、よくわかったな。アイと同い年だ」


 どうやら見た目ロリ巨乳だったようだ。


「なるほど。そういうことか」


「今ので、何かわかったのか?」


「いや、全然」


 それから、クオンが話せる準備が整ってから、執務室へ。

 いるのは、俺、アイ、ウルシャ、そしてクオンだ。


「連絡が遅れて申し訳なく存じまっす」


「むしろ早かった。さあクオン、報告を」


「カウフマン率いる衛兵隊の精鋭3000は、あと2日もあればこちらにたどり着きまっす。精鋭ですから、ぶっちゃけここの防衛設備と戦力では蹂躙されて全滅すること間違いなしっす」


「う、うん」


 いきなり歯に衣着せぬもの言いに、アイが引いている。


「それに、カウフマンはアイ様にめっちゃ怒ってるっす。いきなり公爵令嬢を奪われて、あんなの聞いてないよーって感じで。それに関しては僕もびっくりで、カウフマンの怒りから逃れるのに必死でしたっす」


「ん? 聞いてないって?」


「言ってないっすから」


「話が見えない。カウフマンは何を聞いてない?」


「アイ様が召喚した戦士様のお力が、あんな風なものだとは聞いてないって話っす」


「え? え? 誰からか、アイの情報をカウフマンが聞いてたのか?」


「はい! 僕が教えたんす!」


「「「何してんの!?」」」


「え?」


「なんで驚いてるんだ!?」


「あ、ああ、それですか。えっとですね。僕は城下町で情報収集するために、二重スパイみたいな立場をやってまして」


「二重スパイ……」


「こっちの情報を向こうに伝えて、そのかわりに城下町で動き回れる状況をですね、作ってました」


 こいつ……いきなり自分の裏切りを当たり前のように語りだしたぞ……


「それじゃ、カウフマンが自ら指揮をとって、バリスタを用意してたのって……」


「多分それ、僕が伝えた情報で動いたからっす」


 アイとウルシャが唖然とする。

 そしてふたりして、大きなため息をついた。


「おい、クオン」


「なんすか?」


「アホ」


「なっ!? いきなり、アホとか! 褒めてくれると思ったのにっ!? だってアイ様が異世界の戦士を召喚することに成功して城下町に急行しているとか伝えたら、カウフマンが慌てて動くから、色々ボロ出しそうだなって思ってですねっ、い、痛いっ、ウルシャさん、そ、そこ痛いっすっ」


 涙目になるクオンの頭に、ウルシャが拳をグリグリしている。


「な? 残念だろ?」


「あ、うん」


 昨日、残念な子って言ってた意味が、よくわかった。


「でもでも、この情報を伝えた混乱があったから、カウフマンの命令伝達手段を利用できましてっ、門を開けることに成功したんすっ! カウフマンの召喚戦士の『力』対策だって、だいたい把握してきましたよっ!」


「「「すごいな、おい!!」」」


 二重スパイはひどいが、それもこちらが有利になるように情報を流しているという感じか。


「危ない橋、渡ってるな」


「ああ。いろんな方向に残念なんだ。危なっかしくてな。ここまで働かなくていいってことまでやってしまうから、こうやって暴走気味にもなる。困ったやつだ」


 アイがそう言いながら苦笑している。


「カウフマンの情報は、よくやった。まあ結果オーライだな」


「ありがとうございまっす! お褒めに預かり恐悦至極っす」


 褒めてない感じだったけど、クオンはアイの言葉を受けて嬉しいって顔をしている。

 本当に残念な子なんだな……


「ところで、疲れているところ済まないが、このイセにクオンの力を見せてやってほしい」


「僕の力というと、一子相伝の格闘術のことっすか! 了解っす、やってやりますよっ! 僕の絶技を受けたら、1週間は使い物にならなくなりますよー」


 指を鳴らしながら、俺に近づいてくるので、アイの後ろに隠れた。


「こちらの戦力をなくす気かっ!? 試しでいいんだよっ」


「でも、見せるなら実際に使うところを……ウルシャさんを1週間置物にしたらアイ様を守る人がいなくなっちゃいますし……」


 ウルシャを前にしてそこまで言うほどなのか……


「そういうことなら、うちの鬼でもいける?」


「鬼って、バリスタの矢でも死ななかったっていうあれ? 人型なら多分」


「マジか……なら……」


「「却下だっ!!」」


 今度はウルシャからも一緒に、待ったがかかった。


「いくら、クオンでもあれはだめだ」


「これ以上、被害女性を増やしたくない」


「そ、そこまでっすか……どんだけの『力』なんすか……」


「あー、そういうことなら、鬼たちに防御に徹してもらって、そこにクオンの格闘術というのをかけてもらうっていうのはどうだろう?」


 そう提案してみたら、アイとウルシャもOKを出した。


「物足りないっすけど、それでいいっすよ」


 クオンは柔軟体操しながら、余裕ぶった様子でそんなことを言った。


 残念なクノイチの忍法、見せてもらおう。


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