256話 サービス終了のお知らせ?
先輩は言った。
世界に限界が近く、閉ざすことになる、と。
この感じ覚えがある。
いや、これは伊勢誠の記憶か。
先輩は、言いにくいことを言う時はこちらにとって都合の悪い時を避ける。
例えばメシを食う前とかにはそういう話はしなかった。
若干重い話題は、味覚に作用するってことを知っているからだ。
そりゃ深刻な話だ。
場末の中華屋で話すような内容じゃない。
もっと『天界』とか帝都の宮殿とか教皇庁とかの、豪華な円卓がありそうな議場で話すような内容じゃなかろうか。
アイやツァルクにとっては奇跡のような力でやってきた『神』の世界かもしれないが。
俺からすると緊張感に欠ける。
「限界が来て閉ざすことになると言ったな? それは『神』が閉ざすということだな」
「そうだよ」
先輩の肯定に、アイは勢いそのままにさらに問う。
「まるで自分の意思ではなく、仕方なく閉ざすというふうに聞こえるがそうこうことか?」
「相変わらず、鋭いね……そうだよ」
少しだけ、先輩がホッとしたようなため息をついた。
「一度作られたものには限界がくる。自分が作った時には伸びしろしかなかった世界だが、だいぶ経ったがためにヘタってしまったんだ」
先輩は、今つかっているテーブルの机の上の傷や汚れを指で撫でる。
「君たちは見ただろ。ソロンたちがいた世界を」
「亜人たちの世界か」
「人が暮らせるギリギリの状態だ。それも亜人たちのような体になってようやくだ。あれがもっとずっと広がっていく。あの世界のすべてがああなっていき、最終的には崩壊する。だからそうなる前に閉ざすことになる」
俺とアイ、ツァルクとウルシャが黙って聞いている中で、シガースこと志賀飛鳥だけがスマホをポチポチして、ソシャゲを楽しみ中。
俺は、先輩の話を聞きながら、サービス終了になったソシャゲのことを一瞬思い出した。
これも、俺ではなく伊勢誠の記憶だが。
「あの土地で暮らしている皆はどうなる?」
「それは……」
先輩が少し言いよどんだところで、アイは言葉を続ける。
「『神』がなんとかするんだろ?」
「……」
「その『神』とはお前じゃない」
アイは下から挑むようににらみ、言う。
「『神』を辞めたお前ではなく、『神器』から『神』となったものがあの世界を引き継ぎ、『神』になってあの世界を終わらせる。それがお前の考えだな」
ずっと先輩に集まっていた視線を、今度はアイが引き受けた。
「いやまあそうなんだが……まいったな。そのへん、ちゃんと説明しようと思ってたんだ」
言い訳や言い逃れと判断したのか、アイはさらに語る。
「なぜ『神器』という存在をわざわざ選んだのか。『神』を引き継げるものが、われわれの世界にいるかどうかのチェックのためだ」
「なぜそう思った?」
そんなアイにつられるように、先輩もまた鋭く問う。
「『神器』に選ばれた者の殆どは『神器』同士で争いをして勝ったものが『神』になれると思っていたからだ。だが戦えという話にはならなかった。そのへんに気づいている者たちばかり、未だに生き残っている」
俺の知っている『神器』たち。
キルケを除いて、みな殺意もなく、一緒に俺に乗ってここに来た者ばかりだ。
「みんな協力して治めようって気はない。が、むやみに争い疲弊する必要はない。そんな消極的な理由だろうがな。悪くなっていく現状を探るための共闘といったところだろう」
「アイは、察しが良すぎる。異常だよ」
アイに対して、先輩もまたうっすらと笑みを浮かべている。
余裕そうに見える。
だが、そうでもない。
今、ちょっと焦っている。
どうしようか、どう言おうか、考えているような先輩だ。
「その、押し付けようっていうんじゃないんだ。これには考えがあってね」
「わかっている『神』よ」
アイはまたもや、先輩の語りをぴしゃりと止める。
「われらの世界の『神』にしてこの世界の凡人よ。アイにその力を譲れ。そうすれば、あの世界……お前に代わって治めてみせよう」
『神器』同士の戦いを避けていたアイは、まるで『神』には戦いを仕掛けているように見えた。
「『神』に代わって、アイが世界を消さずにすむ方法を探し出してやる」




