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245話 巻き込まれ事故

 この世界から外へ突き飛ばすとは、どういうことか。


 俺にもたらされた『力』に思いを馳せる。

 ハイエースできるハイエースであったり、男や『竜』を女の子に変える力であったり。

 こんなのが、俺自身には現実的な力として身についている。


 では、この世界から外へ突き飛ばす能力というのは、どういうことか。


 目の前にあるナノスのトラックが、俺の中で存在感を増していく。

 このトラックって、ハイエースと衝突事故を起こしたあのトラックだよな?


 それを確認できる客観的証拠はない。

 ないのだが……


「だが戦車の力は不完全なものだ。そのことはわかっているな、ソロン」


 アイは、鬼王の言葉を受けて話を続ける。


「わかっている。ナノスちゃんはこいつを扱うことに今でも四苦八苦だからな」


 言われてナノスが、何ばらしてんだよって目で鬼王を睨んだ。


「こいつは召喚術と似た魔法のようなものが仕掛けられている。だからアイちゃんには理解できると思ってたんだが、俺の予想以上だったようだな」


 鬼王の褒め言葉に、アイは反応すらしない。


「魔法はもともと不完全な代物。世界にとって都合の悪いものであり、世界を不安定にする要素の代物、でいいんだよな?」


 鬼王の確認に、アイは沈黙した。


「だから、『神』すらいないこの世界で『魔法』を操ることのできる者がどんだけ特別なのかわかるってもんだ」


「何が言いたい?」


「『魔』を御する法を、今この世界で最も知るのがアイちゃんだと言いたいんだ」


 訝しげに見るアイに、鬼王は笑顔で応えた。


「今や、アイちゃんが最も『神』に近い。わかっていただろ? 俺は、今しがたようやく確信したよ。道中に調べた? その力はどうだ? ケアニスちゃん、お前はできるか?」


 突然振られたケアニスは、険しい顔で首を横に振る。


「無理ですね。『真力』の仕組みを理解するのに、何年とかかりましたから」


「だってさアイちゃん。だからさ、キミの把握している領域、それは『神』の領域とも言えるものなんだ。それをたった1日とかからず解析してみせた。そして……イセを理解したキミはわかるはずだ」


 突然、名を呼ばれて思わずびくっとしてしまった。

 皆の注意が、アイや鬼王からこっちに向いた。


「ナノスちゃんの戦車の力……『派遣』の力を発揮する方法がわかるんだろ?」


「いったい何の話をしている? アイから何を引きだしたいんだ」


「本当に気づいていないのか。それともとぼけているのか。ならば口にしよう」


 鬼王は、さっきまでの笑みを引っ込めて、真面目な表情を作って言った。


「ここにある戦車を使い、あっちの世界に行くぞ」


「行って何をする?」


「『神』を追いかけるんだよ」


「正気かソロン。そこまでするのか」


 アイから驚きと共に速攻でその言葉が出てきた。


「狂ってるだろうよ。だがお膳立ては出来ている。『神』もこのことは想定の範囲内だろう。でなければ……」


 そう言う鬼王は、俺を睨む。

 背筋が凍った。


 その視線を受け止めると、彼の言いたいことがよくわかる。


 でなければ、アイの元に俺が召喚されるはずがないって、言いたいんだと。


「…………」


 俺と鬼王を見て、アイは沈黙し、考え込む。

 あるいは、話したくないから口をつぐんでいるのか。


 だから沈黙はしばらく続いた。

 鬼王は言いたいことを言って、その後どうなるかはアイに委ねられたようだ。


 果たしてアイは鬼王の言い分にうなずくのか、拒否するのか。


「アイ、いいか?」


 俺は俺で、さっきの話と関係していることを聞きたかった。


「あっちの世界って、俺のいた世界のこと、だよな」


 沈黙を通すアイ。

 それは肯定と受け取れた。


「本当に戻れるのか?」


「戻るんじゃない。行くんだ。攻め込むんだ」


 アイは怒りを抑えるように言った。


 少し、めまいを覚えた。


 嫌なことを思い出す。

 それは自分がこの世界に転生するきっかけとなったあの事故。


 ブレーキどころかアクセルが踏まれた状態で目の前に突っ込んできたトラック。


 おそらく。

 元いた世界に行くには、あの事故のような衝撃が必要だ。

 アイのひと言は、そのことを告げているように聞こえた。


 ほんと俺、最初っから巻き込まれてたんだな。


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