244話 本来の本題へ
感動の再会は、伝説の主によって告白タイムへと変化されそうになった。
だが、本来のこの場の主である鬼王から待ったの物言いが入ることで、変化は一時中断する。
その物言いに対して、強く抗議する者がいた。
本来の目的を忘れ、刹那的な享楽に身を委ねそうになっているアイだ。
「付き合ってくれとかそういう話が出てくる場じゃないだろう」
止めた理由は正論だった。
「……そ、そうだな」
的を射た意見に気づいたアイは、目をそらしつつ認めた。
よってここでの告白は、ふたりの関係性にはまったく関与していない第三者によって保留となった。
「そういうのは止めろ」
「お、おう」
鬼王の言い分を、ツァルクは聞き入れた。
というか、自分のやらかしたことを、思いっきり恥じている様子だった。
そのツァルクを、じーっと見つめているのが問題のタツコ。
バツが悪そうにするツァルク。
「……なんだよ。恥ずかしいじゃないか」
「確かに、そういう場合ではないな」
「くっ」
ツァルクが勇者になった元凶から、追い打ちをかけられる姿はとても可哀想だ。
空気読まなかったから仕方ないが、伝説の人だというのにさんざんだ。
思えば目覚めてから、この人にいいことってないな。
「ツァルク。続きは落ち着いたらな」
その言葉を聞いたツァルクが、タツコを見て目を丸くする。
見たこともない、ほんのりと頬を染めたタツコが、今度は目をそらした。
驚きから、照れにやけ顔になりそうになるのを堪えている。
それがはっきりとわかるくらい、ツァルクの反応はわかりやすかった。
「わかった」
これは……うまくいっている!?
「おおぉ、いいじゃないか」
正論に押されて黙っていたアイが、若干目の輝きを取り戻している。
このままそっちに流されないで欲しいところ。
そして、そこにさらにこの場の第三者にして、完全に蚊帳の外にいた人の声が聞こえた。
「いったい何があったのですか?」
今しがた、目覚めたばかりのウルシャだ。
彼女のひと言に、その場にいる皆が振り返り、そしてここで行うはずだったことを思い出す。
さて、どう説明しようか。
「伝説の竜騎士と元『竜』が、お付き合いをするかもしれないんだ」
「違う」
アイが説明をし、鬼王が否定した。
鬼王は頭をガシガシとかき乱しつつ、力強く指をさす。
その先には、ナノスを持ち主とするあのトラックがある。
「こいつがどういう仕掛けなのか、アイちゃんが調べるためだろ」
「お、おう。そうだ」
「どうなってんだ、お前たちは。どこまでのんびりしているんだ」
同意の気持ちを込めて、俺はうなずいてしまった。
俺たちはエジン公爵領の安全のためであり、鬼王は手にいれた力を探るために、この亜人領にきている。
帝国と亜人との戦いになるかもしれない火種をともしつつ、この場にいる。
だというのに、のんびりしていると言われても、これは仕方ないことだった。
「そんな調べはすでについているぞ」
その、のんびりしている派閥の主流格ともいえるアイが、あっさりと口にした。
そうだ、そうだった。
確かにそう言っていた。
「なんだと?」
「道中、調べといた。確認のためにイセのハイエースも調べる必要があっただけだ」
こういうところが、天才と言われる所以なのだろう。
傍で見てて危なかっしさのある天才だ。
「そっちの戦車はすでにわかるぞ。というかソロン、おぬしもわかっているはずだ」
「では聞こうか。ナノスの戦車の力はなんだ?」
「その戦車が持っている力は……『派遣』の力だ」
……ハケン?
なんか元の世界的には、若干良い意味として使われないスラング的な……
なんだ? また『ハイエース』的なものなのか?
「どうだ、ソロン」
「ああ、まったくそのとおりだ」
俺のちょっと白けそうな気分を置き去りにして、鬼王は言った。
「こいつは、召喚術の逆の力を持つ。この世界から外へ突き飛ばす力だ」
 




