242話 一千年ぶりの再会
白い空間を、ハイエースが進む。
先が見えているのに見えてないような気分になる、真っ白な空間が続く。
アクセルをゆるくし、エンジンブレーキをじわじわとかけて遅くしていく。
「これ、どこまで行くと出られるの?」
ツァルクが軽く聞いてきたが、答えられない。
さて、どうやって出ればいいのか。
「お前が出たいと思えば、出られるはずだ」
アイの明確な指示が来た。
「イセの戦車、ハイエースを出した時と同じだ」
「それが、よくわからないんだが」
「もうわかるわからないという問題じゃない。そう考えてそう感じろ。アイからはそうとしか言えん」
お手上げと投げられた。
そうか、アイは何か考えこんでいるというより、不機嫌なだけかもしれないな。
ひとまず考えられることから考えてみようか。
アイが俺にウソをついているようには思えない。
だって、ここは俺の精神が色濃く作用している空間だ。
俺の精神の中に入ってきているアイが、どう感じているかなんて察するのは簡単だ。
だからウソをついているわけでもないし、強い言葉で納得させようとしているようにも見えない。
ってことは、まさにアイの見立てたことを、そのまま口にしているに過ぎないということだ。
そこまで考えると、俺はアイに言われた通りに、そう考えられた。
「おっ! なんか見えてきた」
白い空間の先に白くないところが現れた。
あれは、ここの外だ。
アイが俺の精神世界に入ってくる前にいた、鬼王の廃城だ。
そう考えると、白い空間はたちまち後方へと追いやられ、ハイエースは廃城の中へと走り出た。
当然、廃城の中なんて空間は体育館くらいしかなく、時速20キロ以上で走る車は廃城の出入り口をくぐって外へ出た。
出た瞬間、目の前には停車しているトラックの後ろ姿。
トラックのそばには、思い思いに過ごしていた鬼王たちがいた。
皆、こっちを見て驚いている。
てか、鬼王とナノスは明らかに警戒している。
あ、そうか。ハイエースで俺たちが逃げると思ったのか。
俺は慌ててブレーキを踏んで止まった。
「びっくりした。イセ、あんなスピードで外に出るな」
「ごめんごめん。急に外に出られる感覚をつかめたからさ」
つかめて出ると同時に、アイの感情を直接感じ取ることができなくなった。
「おおっ、ここが外の世界か!? そうなのか!?」
ツァルクの感情も感じ取れないはずだったが、見てはっきりわかる。
窓から外を見て、シートベルトを不器用にはずして、ドアを開けて外に出ていく。
見るからにおっさんなのに、はしゃぎっぷりが微笑ましい。
「おっ、あれ? ここって……」
ツァルクはそこにいる鬼王たちには目もくれず、周囲を見渡す。
「ここは『世界』の端っこか? かなり荒れてるな。感じ取れる『力』もかなり薄い」
そんなことを言った後、ハイエースに戻ってきて言う。
「彼女を起こそうか。起こすために外に出てきたんだろ?」
「ああ、そうだな。おい、ウルシャ。起きろ」
アイはウルシャのそばに寄って、魔法も使わずゆっさゆっさと肩を揺らした。
「んっ、んんっ」
可愛い声を出して、身をよじるウルシャ。
俺の精神世界の時のような一切反応のない状態とは違い、生きている反応だった。
「どうやら起きそうだな。良かった」
ツァルクも同じ気持ちだったようで、ふたりで一緒にホッとする。
「おーいウルシャ。起きろー。寝顔を見られているぞ」
見られて気恥ずかしい思いをさせるのもアレなので、俺とツァルクはアイにまかせてそっぽを向く。
すると気づいた。
鬼王たちがこっちを見ている。
鬼王とナノスは、少し訝しげに警戒している。
ケアニスは、明らかに驚いた顔。
そして……タツコは呆然と見ている。
俺たちを見ているのではない。
正確には、ツァルクを見ている。
「……誰?」
鬼王が、ハイエースから降りてきた俺に聞いてきたが、俺が答えるより早くケアニスが言った。
「『伝説の竜騎士』ですよ」
そう口にした時、タツコが動いた。
恐る恐るといった様子で、ツァルクの方へと歩いていく。
「ん? あれ? チェインの気配が……」
そう言うツァルクは、自然とタツコと目があった。
タツコの足は止まった。
そうか、これはふたりの再会か。




