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241話 何でも生み出せる力

 真っ裸だったツァルクの服問題は、俺のパンツを作る異能で解決された。

 そして次の直近の問題はウルシャだ。


 気絶しているウルシャの前にしゃがんで、肩をゆさゆさしても起きない。

 その様子を見ていたツァルクも来て、今度は頬をかるく触ってみている。


「ぺちぺちやっても起きないな」


「ほんとだ」


 男ふたりで気絶中の美女をペチペチやる構図はどうかと思ったので、そっとアイの方を見てみた。


 アイは、どこか宙を見つめながら、ぶつぶつと口元が動いていた。

 考え中のようだ。


「なんで起きないんだ? これ生きてるし、何か怪我をしている様子もないぞ」


「さあ」


 その訳がわかりそうなのはアイと思い、またアイの方を見る。


「おーい、ウルシャを起こす方法はないのか?」


 考え事をしているアイのそばに行き、目の前で手を振ってみるとようやく反応した。


「イセ」


「どうした?」


「ここまで来て、何の自覚もないっていうのが、アイには正直わからん。どうなっているんだ?」


「……?」


 ウルシャのことは気にしておらず、もっぱら俺に対して何やら不満そうなことを言ってきた。


「自覚がないことを、俺が自覚できるわけないだろう」


「それもそうなんだが」


 さらに不愉快にさせたように見えた。

 それからまた、思索の海に沈んでいったのか、腕を組んで上の方を仰ぎ見ながら、うーんと唸るようにしているアイ。


「何を悩んでいるのやら」


「キミのせいじゃないの?」


「俺、だと思う。まあそうだろうな」


「心当たりは?」


「たくさんある」


 俺を召喚してから、アイの状況は大いに変化した。

 それに関しては、召喚したアイが原因だとは思うが、当事者として何も感じないわけではない。


 ひとえに、俺の力がいびつでありながら『神』の領域で、それを俺がまったく理解できず自覚もできず、上手くも使えてないからだ。

 なんとかしたいとは思うが、何とかするための取っ掛かりがない。


「うーん」


「キミまで考え込まないでくれよ」


 ツァルクは苦笑して、身体に巻きつけた布のズレを直した。


「なあ、そろそろ外に出してくれないか? 外なら服、あるだろう?」


 そう言われてハッとなった。

 そうだった、ここって……


「ここって、キミの…イセだっけ? イセの世界なんだろ?」


 結構広々としてて、白っぽくて遠くの方が霞んでて……俺たち以外誰もいない。


「俺の世界……何もないな」


 そうつぶやくと、なんだか妙に寂しくなった。

 そんな俺を、呆れたように見るツァルク。


「何もないのはイセが何も用意してないからだろ?」


「用意してない?」


「ああ。逆に言うと、今から何でも用意できる世界、なんじゃないか?」


 それを聞いて、ピンときたというか、思い浮かんだ。

 空っぽだからこそ、いろいろ入れることができる、みたいな考え方だ。


 何を入れるか、というよりこの場合は、ツァルクの言う通り……俺が何かを用意するということか。


「俺が用意できるもの……何でも?」


「じゃないの? その力は『神』に連なるものなんだから」


「何でも……」


 何を用意するか。

 俺が思い浮かんだものは、結構はっきりしていた。


「……え? まさか」


 くっきりと思い浮かんだのは、少し経年劣化してくすんだホワイトになった車体。

 長方形の形にタイヤを4つつけただけみたいなシンプルな形。

 頑丈で扱いやすく、業務車両として各方面で活躍しているあの車。


 それが俺たちのすぐそばに、光り輝きながら現れ、まるで前からそこにあったかのように馴染んだ。


「……何これ?」


 最もな疑問を発するツァルクを前に、俺はガクッと膝から崩れ落ちた。


「何でもって思い浮かべて、出てきたのがこれか」


 俺の『力』の源ともいえる『至高なる(エース・オブ)鋼鉄の移動要塞(・ハイエース)』。

 元の世界でも、この世界でも、とても便利な乗用車。


「何これ? 馬車?」


「ハイエース」


 そう口にすると、諦めもつくというもの。

 少なくともパンツを召喚するよりは、ずっとマシだ。


「どうやら俺は、こいつとは腐れ縁みたいになっちゃってるようだ」


「はぁ」


 よくわかってないツァルクを前に、俺は動き出す。

 まずは……


「ツァルク。ウルシャの足の方持って。俺、頭の方を持つから。中に入れよう」


「何言ってんの。女の子ひとりくらい抱えろよ」


 そう言われて、素直に抱えてみた。

 思ったよりもずっと軽い。


 俺はウルシャを後部座席に座らせ、シートベルトをつけて固定させた。


「見た目の印象より中は広いんだな。子牛くらいは載せられそうだ」


「ここ。こうやると椅子になるから。こっちに座ってくれ」


「お。これふかふかじゃないか」


 椅子の座り心地を楽しんでいる姿を見てると、こちらも嬉しくなってくる。

 俺はツァルクにシートベルトの付け方を教える。


「で、これでどうするんだ? 馬か象でも召喚するのか?」


「まあ見ててくれ」


 そして俺は、こっちを呆然として見ているアイに声をかける。


「アイ、そろそろ外に出よう。こいつで」


「……」


 俺の呼びかけに、アイは大した反応をしない。

 まだ、必死に考えているのはわかる。


「それともここでまだすることがある?」


「……いや。イセの中に入っても、気づけなかった時点でここでやれることはない」


 アイは、はぁと諦めたようにため息を吐いた。


「ソロンたちには、現段階で話せることでも話そう」


 そういえば、ナノスのトラックの分析のためと称して、俺はアイとふたりきりになったんだっけ。

 そこにウルシャと、目覚めたツァルクが来たら、驚くだろうなぁ。


 特にタツコが。


「よし、それじゃ行くか」


 アイが助手席に乗り、俺は運転席へ。

 久しぶりの運転って気分だが、やはりナノスのトラックよりこっちの方が体に馴染む。


「それじゃ出発」


 キーを回してエンジンをかけ、アクセルを踏む。


「おおおっ!? 動いた!?」


 ツァルクが驚く。

 こういう初々しい反応は、久しぶりに見たな。


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