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240話 竜騎士の復活

 床に落ちたトランクスを拾って、スマキ状のツァルクの上に置く。


「これがお前の力だ」


 なんてことをするんだって顔をしたツァルクを見ながら、そんなアイの台詞を聞いた。


「パンツを作る力……」


「違う。お前が想像したものを作る力だ」


「そう、なのか……?」


 思い浮かべただけでトランクスが出来た。

 よし、ならブラだって。


 と想像した瞬間、ポンッ、とブラが宙にあらわれて、床に落ちる。


「できたブラジャー。……たぶん。こういう形だったはず」


 ブラって確かこんな形してた。

 洗い物の中に入ってたくらいしか知らないから、ぼんやりしてる。

 なんか胸の形になったパットがあるやつ。

 多分、こんな感じ。

 ……彼女、いなかったし、よくわかんない。


「何故、女ものの下着をつくるんだ?」


「おいおい! それはなんだ! もっといい服をくれよ」


 最もな疑問であり、注文だった。


「だな。トランクスにブラの男とか、変態チックで見たくない」


 よし、もっといい服を出そう。

 俺は手を掲げて、そこに服が出てくるのを想像した。


「……あれ? 出せない」


「マジか!?」


「なんでだ? あれ? シャツとかパンツとか出てこない? あれ?」


「パンツはもういいよ!」


「そっちのパンツじゃなくて、ユニクロとかGAPとかにあるやつだよ! 知らない?」


「知らないよ!」


「ああいう感じの、よく着るやつ。なんて伝えればいいんだ? 説明するのむずかしいな!」


「お前が着ている服はどうだ? イメージしやすいだろう? アイのでもいいぞ」


「キミが着てるのを俺が着るの? なんかどんどん悪化してない?」


 俺とアイが、俺の力について考察と検証をしているのに、ツァルクの余計なツッコミのせいで混沌としてくる気がする。

 気のせいかもしれないけど。


 気がそれてしまう俺と違い、アイはブレない。


「イセの想像力の欠如が原因か、それとも力の使い方が分かってないことで発動条件を満たしていないのか……」


「多分前者だな。俺、服にはほんと興味なかったからテキトーだったし」


 服屋いって、その場にあるのをテキトーに選んで、みたいな。

 広告のモデルや有名人が着てる写真や、店にいる似たような体型の人を見て、あれの色違いでも探してみようか、みたいな決め方をしていた。

 もう少し、ファッションに気を使う人間だったら良かったのに。


 そんなことを考えている俺を、アイが不思議そうに見ている。


「なに?」


「そこまで己の力を把握できないってありうることなのか? 生まれたての赤ん坊みたいな把握力だな」


「……こっちに転生したって意味では、1歳にも満たないけど」


 アイは首をかしげる。

 それが理由になるのか? っていう。


「だいたい。俺の力は、なんでハイエースの形をしてんだっていう話だし」


 服の想像も追いつかなくてブラのようなものを作ってしまった。

 なら、車のような複雑な形をしたものを、俺が想像で作り出せたと?


「イセの過去はわからん。アイは召喚術を使っただけだしな。だが、イセとハイエースという戦車には、何か特別な関係性があったということじゃないか?」


「断言できる。ない」


 俺とハイエースなんて、そんな想像力たくましくなるほどの関係性あったか?

 レンタルしただけだ。

 実家にハイエースがあったこともない。


 何故、レンタカーが俺の力なわけ?

 っていう堂々巡りの疑問というか、不満がまた再浮上する。


「それは、この世界の『神』っていうのに直接聞かないとわからないんじゃないか?」


 ふと思いついたことを口にする。

 それくらいしかないと、ふいに思った。


 それを聞いて、アイがギョッとなっている。


「……簡単に言ってくれるな」


 簡単、じゃないんだろうな。

 『神』って名前が出てきただけで、あの『神器』たちの心がざわめくくらいだから。


「……ここまで来てもたどり着かないか……イセの元の記憶というのは思いの外、強固のようだな」


 アイのつぶやきは、俺に対しての言葉ではない。

 自らに対して口にしたような独り言。


 だから、少し気になった。


「まあいい。イセの力については一応伝えることができた。ひとまずそっちは置いてツァルクを開放しよう」


「そうだな。パンツはあるし、開放してあげよう」


「マジか。そんなに俺を辱めたいの?」


 そんなわけがない。

 俺はアイに背中を向けてもらい、ツァルクの拘束を解いた。

 フルチンは恥ずかしいだろうから、さっさとパンツを履いてもらう。


 何故かブラもつけようとしてたけど、やめてもらった。

 これは時々男もつけるという話をまことしやかに聞いたことがあるが今はその時じゃない、と伝えて納得してもらった。


「じゃあ、これでいいか……」


 しょんぼりしながら身体に撒いていた布を、手足が自由にできるように巻きつけているツァルク。

 髪もぼさぼさだし、その姿はどう見ても服の確保もできていない家のない人みたいだった。


 一応、初代教皇であり伝説の竜騎士の復活の瞬間なのだが、とても侘しい。


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