23話 もうひとつの『力』
会議をしている間に、ハイエースを置ける屋根付きの場所を用意してもらった。
ついに車庫までゲットしたハイエースも、ご満悦な様子。この辺はなんとなくそんな気分になっただけで、ハイエースに意思があるかどうかはわからない。
なにせ魔素で動く魔法のハイエースだから、意思くらい持ってもおかしくない。
と、それはともかく、俺の方も不思議な『力』を自覚する。
用意してもらった車庫は、ぎりぎりだった。
人の乗り降りで、扉を大開きにできないくらい。
それでも、俺は楽々に車庫入れできた。免許取得から1年は経っているいて、まったく運転してなかったのにこの腕前。
もうこの辺も、俺に備わった『力』と見ていいだろう。
それから、アイらと一緒に食事をした後、自分用の客室に案内され、すぐに寝た。
今日一日でえらい疲れた。
このまま寝て起きたら、病院のベッドの上かもしれない。
などと少しだけ考えたが、そんなことなかった。
起きたらまだ夜明け前で、月明かりに照らされた湖面が窓から見えた。
「……絶景だな」
どこかへ旅行にでも行かなければ一生見ることのできない光景が広がっている。
雲ひとつない夜空に浮かぶ、大きな月と、月光で輝く湖面。
写真や映像でしか表現できなさそうな光景に目を奪われる。
だが、それもすぐに別のことに気を取られた。
「あれは……」
屋敷の庭のようなところで、兵士が数名、訓練をしていた。
熱心に剣を振って、打ち込んでいる。
絶景よりも、ずっとそっちの光景の方が、その後は気になっていた。
気になったので、俺は屋敷の中を見回ってみることにした。
見回って、声をかけられたり、かけたりして、朝日もあがってきて、また絶景に目を奪われ、その後に部屋に戻ったあたりで、ウルシャがやってきた。
「朝からどこへ行ってたんだ?」
「屋敷の中、見回っていた」
「言ってくれれば、案内したぞ」
「仕事があるかと思って」
話しながら、ウルシャに案内された先は、食堂だった。
そこではアイが先にいて、朝食をとっていた。
「お。イセ、おはよう」
「おはよう。お腹減ってたから丁度良かった」
ウルシャとアイに促されて席につき、朝食を済ます。
やっぱり調味料とか質素だけど、量はやけに多い。
きっと俺が、召喚された者だから特別に用意してくれているのかもしれない。
「イセ、食べながらでいいから聞いてくれ」
言いながら、アイも食べていた。
言われた通り、食べながら聞く姿勢をとる。
「結論としてだが、衛兵隊とはアイとウルシャとおぬしとで戦う」
「わかった」
「ずいぶん即答だな」
「むしろそうした方がいいって提案しようと思ってたところだった」
「その理由は?」
俺はアイとウルシャ以外に、ここにいる人たちを見た。
給仕たちや、アイの身の回りの世話をするメイドっぽい人たちと、結構いる。
そっちを見るが、アイは続けていいというふうに示してきた。
「彼らをあいつらと戦わせるなんて、無謀すぎる。あいつらは大将の指揮下なら鬼とでもまともに戦えるやつらだ。ここの連中にそういう戦い方ができるなんて思えない」
と、それが俺が屋敷内を見てまわった感想だった。
いい意味で牧歌的で、皆が協力しあって、寄り添って生きている。
アイという人柄によって集まっているのが明白で、厳しい戦闘を生き延びるために集まっている集団じゃない。
「正直、ここで守るよりも、うって出た方がマシだ」
「アイも同意見だな」
「即答だ」
「うん。でも攻めるところがない。今は」
「今?」
「そうだ。こちらが打って出て、効果がある目標……それが出てくるタイミングがある」
目標と言われ、今までの話からして導き出される答えは……1つしかない。
「隊長のカウフマン本人が、出てくるタイミングのこと?」
「彼を討てば、逆転できる」
「そんな簡単に?」
「だって、こっちにはオフィリアがいる。隊長さえ討てば衛兵たちはこっちの言うことを聞くはずだ」
その辺の理屈はわかる。
だが、そのために……ここが戦場になる。
そのことにアイが気づいてないわけじゃない。
気づいていながら、昨日あんな激を飛ばすような真似をした。
何故?
「彼を討つための秘策があるのか?」
「あるぞ」
「マジで? そんなのあるの?」
「おぬしだよ!?」
「っ!?」
「なんでびっくりするんだよ! イセの悪魔の『力』があるじゃないか!」
くっそ、アイになんかすごい作戦があるのかと思ったら全然考えてなかっただと!?
あといつの間にか「悪魔の力」になってるよ?
「まだ動くんだろ? ならいける」
「あれで、なんか戦争みたいになる相手と戦えんの?」
今度はもっと対策してくるはずだし、逆に対策してこないとしたら、そうなってもいいような布陣でやってくるだろう。
だいたいこっちにとって有利なのって……あ。
「こちらが有利なのはスピードと積載力。だからハイエースにオフィリアさん乗せて逃げればいい」
「却下」
アイが真剣にこっちを睨む。それですぐわかった。
このAI機関のほとんどが、カウフマンの手に渡ることになるからだ。
そしてそれを取り戻す手は、今の所ない。
「おぬしに、戦ってもらいたい。無理か?」
そう言われて、少し退く。
だけど……
「戦える。この前それはわかった。でも、勝算がなさすぎる戦いは無理だ。そこまでの覚悟、俺にはできない」
あのアイが戦うという宣言をした時、AI機関の皆は自ら従った。
日が出る前から訓練していた兵士たちや、戦場になることを想定して準備をしているここの人たちを見た。
心地よいくらいの覚悟だと感じた。
「おぬしにまだ『力』があるとしたら……どうだ?」
「え? 何? もう俺の能力がパワーアップするの? 早すぎない?」
「そうじゃなくて。まだ使いこなしていない『力』があるんじゃないかって話だ」
「使いこなしていない力って……なんだ?」
「あるだろ?」
しばらく考え込む。
それって、もしかして……
「……レ○プ未遂だと目覚めない力とか?」
「さ、最低だなっ!!」
アイが言い出したことじゃないか!!




