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238話 騙された善人

「ふはっ!? はぁはぁ、ぜぇぜぇ……死ぬかと思った。助かったありがとう」」


 全身布にくるまれたパッケージ状態の男は、必死に息を整えながら俺たちに軽く感謝をした。

 それから自分で布をはずそうとしたが、うまく解けずにいるので俺が首くらいまでは剥がしてやった。


「イセ。何故、顔だけなんだ?」


「このひと、自由にして大丈夫なの? 暴れたりしない?」


 今まで出てきた人たち、結構な割合で自分の前だと暴れるタイプばかりだったので警戒している。

 そんな俺に対して、ツァルクはちょっと反応した。


「暴れないから、全部ほどいてくれないか?」


「…………」


「何故、黙るんだ? あ、ひょっとして俺、なんか悪いことして捕まってる?」


「いや、むしろいいことしてた……はず」


「はず?」


 『真力』っていう天使が使う術の大元に組み込まれていたわけだから。

 天使たちにとっては、いいことのはず。

 でも……


「この場合は、迷惑こうむったのアイからのご意見どうぞ」


「そこでアイに振るのか」


「迷惑? 俺、何したの?」


 なんか疲れ切ったような顔で、上から見ているアイを伺う。

 悪いことしたなら謝るよ? 的な弱気態度だ。


「直接的にはツァルクに何かされたわけじゃない。ただお前が天使たちに力を与えたせいで、大切な『魔法』を壊されたり、イセを誘拐されたり大変だった」


「…………」


 ツァルクはアイを見て、俺を見て、それから首をかしげた。


「天使? 魔法?」


 そこから説明しなきゃいけないのか。

 アイもその辺に気付いたのか、質問を始める。


「お前、自分が何者かわかるか?」


「ツァルクだ。傭兵だった」


「竜騎士になる前は傭兵だったのか」


「そう呼ばれるようになったのは、チェインと共にするようになってからだな。チェインってのは『竜』のことだ」


「初代教皇とも呼ばれていたが、その辺は?」


「……何それ?」


 びっくりまなこで、アイを見る。

 そして俺の方を見て、こいつ何言ってるの? って顔を見せてくる。

 ブラフかましているようには見えない。


「記憶に抜けがあるんじゃないか? 久しぶりに目覚めたわけだし」


「久しぶり? あれ? 俺、こんなところで寝てたんだっけ? ん? 寝る前って俺、何してたっけ?」


 聞かれても、俺もアイも答えられない。

 あ、アイなら行けるか?


「よし、記憶読もうか。魔法で」


 気軽に本人の前で言うアイ。

 拷問や尋問の類のように聞こえるんじゃないか?


 その辺を考えてやろうよと忠告する暇もなく、アイは呪文を唱えて積層式魔法陣を展開させはじめた。


「うお!? なんだそれ!? え? 『神』様? チェインの関係者?」


「神じゃないけど、一応そのチェインの関係者にはなるかな」


 呪文に忙しいアイに代わって、俺が返事をするとツァルクはホッとした顔をした。


「そっか。なら大丈夫か」


 何が大丈夫なのか。

 それは『竜』に対する信頼か。

 タツコ、信頼されていたのか?


 お互いに信頼していた可能性はある。

 タツコは、ツァルクの体の無事を優先していたからな。


 って考えているうちに、魔法陣がツァルクの頭の上くらいでくるくると回り、魔力が彼に干渉しているのがわかる。


「お、おおお。頭の中に何か入ってくるぞ。なんだこれ。『竜』の力とは違うな。『神』様の力か?」


「魔法だ。ツァルクは魔力の流れを感じることができるんだな。当然か。『竜』の力を使えるんだからな」


「……なんかいろいろ思い出してきたぞ。これすごいな、便利だな。今度使い方を教えてくれ」


「そう言って『竜』に近づいたんだな、お前」


 苦笑するアイに対して、ツァルクが嬉しそうにうなずく。

 すっごい落ち着いているな。

 頭の中を覗かれているのに、抵抗がないのか?

 どっちかというと、覗いているアイの方に少なからず抵抗感が見えるぞ。


 と思ったら、アイは魔法を解いた。


「どうだった?」


「こいつ、とんでもない」


「え?」


「何? 俺、何かやらかしてた?」


 アイは首を横に振って否定する。


「いや。信じられないほどの善人だ」


「はっはっはっは、チェインにも言われたな」


 破顔一笑って感じで豪快に笑うツァルク。


 笑っているのは彼だけで、アイはクソマジメな顔を崩していない。

 そして、ふいに頭の中に声が聞こえた。


『イセ』


 いきなり頭の中に呼びかけられて、びっくりする。

 タツコ? いやこの感じはアイだ。

 今、隣でツァルクを見つめているアイだ。


 タツコと同じことできたのか?


『タツコが使っているのを見て真似てみた。真力じゃなくて魔法だがな』


 他の術法を、自分が使う術法に置き換えて使ったのか。

 こういうところが天才って呼ばれる所以なんだろうな。


『ツァルクは魔素の流れが見える。こっそり話してるといずれバレるだろう。だから簡潔に伝えるぞ』


 アイが慌てて、一方的に言ってきた。


『こいつ、『神』に騙されて『天界』の装置に組み込まれてた』


 そして、アイの怒りも一緒に伝わってきた。


『世界を救うために、人柱になれと『神』に言われて、自らなったようだ』


 アイを怒らせるほどのことをされた男は、包まれた布をほどこうともぞもぞしている。


「んー解けない。力が出ない。どうなってんだ? てか、ここってどこ?」


 ツァルクは素直に疑問を伝えてくる。

 黙ったままでアイが答えないので、俺が教えた。


「えっと、俺の車の中、のはず」


「車?」


 そこから説明するのか。

 めんどくさいが、『神』への怒り心頭状態で考え中のアイに代わって、俺があーだこーだと説明をした。

 異世界から召喚されて、人や物を取り込む自動車を操り、ツァルクも取り込んでいるということを出来る限り簡潔に話した。


 話を聞いた彼は、興味深げにうなずきながら、ふと手を打った。


「なるほど。ってことはつまり君は『神』様の関係者か」


 それを聞いたアイは、自らの思考の海に沈んでいたのに、一瞬でツァルクに聞く耳を持った。


「『神』の関係者とは、どういう意味だ?」


 アイの疑問は、今まで自分の頭の中を占めていた『神』への怒りと共に吐き出された。


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