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235話 異質な存在

「イセのせい? どういうことだ?」


 訝しげにこっちを見るアイに、俺は苦笑した。


 アイは、俺がこうしてここにいる状態しか知らない。


 アイたちが戦車と呼ぶハイエースを召喚し、馬よりも高速で走りまわり、亜人とは違う鬼たちを使って車に無理矢理連れ込み、連れ込めない相手なら連れ込めるように姿を変えさせる者。

 それが俺だ。

 意味がわからない。

 俺は元々、そんなやつじゃない。


 俺は、ここにいる前にいた世界がある。

 そっちでは、俺の周りにはよくいる平々凡々な大学生だった。


 そんな俺にとっては、この世界は異世界。

 この世界は突然降って湧いたようなところだ。


 突然の転生。

 そして謎の異能力。


 そんな状態になる前があった。

 だから、今この世界の状態について、わかることがある。


 この世界そのものについては、誰よりも詳しくない。

 だが、アイたちと共に過ごすことで、いろんなトラブルに巻き込まれたことで、見えてきたことがある。


 この世界には、この世界の争いがあった。

 そこに俺は、割って入ってしまったのだ。


 突然入ってきたイレギュラー。

 俺は予測不能の異質な存在だった。

 そして、争いあっている彼らにとって、知らない力を持っていた。


 彼らにとっては、その力ゆえに特別な存在に映った。

 そんな風に見られているのが俺であり、そう見られることも自覚せざるを得なかった。


 彼らの争いというのは、神になるためのバトルロイヤルか。

 少なくとも俺はそう認識している。


 『神器』に選ばれた者同士が相争っていて。

 それぞれが、それぞれの望みがあって。

 それでいて、それぞれ背負っているものがあったりする。


 アイは、エジン公爵領とか、この世界の人間たちの主流派じゃない連中。

 シガさんは、この世界の主流となりつつある通商連合っていう経済的な連中。

 鬼王は亜人のみなさん。こんな土地で暮らしてるみなさん。

 キルケは天界。教皇庁。いや、神の意思?

 でもケニアスからしたら違う?


 まあそれぞれにとって大切なものがあって、そのために戦っている。


 それが、俺の出現で変わった。


 俺のこの力は、彼らの争いを終わらせ、望みを叶える可能性がある。

 『神器』が求めている『神』に関する力かもしれない。

 その形がハイエースっていうのもどうかと思うが。

 それでも、この世界のいわばバグのようなもの。

 セキュリティホールのようなもの。


 アイは、俺という存在のせいで、『神器』の争いの真っ只中に入ることになった。

 それまでは他の『神器』たちに脅威にならず、天使キルケの力を借りたエジン公爵領の衛兵隊長カウフマンに追い込まれていたような立場だった。

 『神器』同士の戦いにすら、ならなかったのがアイだ。


 そんなアイが、今や『神器』同士の争いの中心にいる。

 それは、間違いなく俺のせいだ。


「俺がいたから、アイは今、亜人領にまで誘拐されることになった」


「は? 何を言ってる? それは違うぞ。むしろアイがいたから、イセまでここに来るはめになったんだ」


「……元を正せばそれはそうか」


 でも、俺はその元のおかげで、この世界にいるんだ。

 いることができるようになったんだ。


 アイが召喚してくれなければ、今ごろ俺は……


「アイ、俺の力を調べてくれ」


 はっきりと言った。


「そしてこの力を解き明かしてくれ」


「……いい、のか?」


 何を気にしているのか、アイは戸惑うように再度聞いてきた。


「いいよ。俺の交換条件は、解き明かした内容を俺に教えてくれることだ」


「…………」


 アイは驚いて、少し目をそらした。

 何故かはわからない。


「その説明をされて、理解できるかどうかわからない。アイの使う魔法とか、正直わからんから」


 ハイエースの力も感覚的に使ってるから、この力の正体もわからない。

 ひょっとしたら、この世界にほころびを生むものかもしれない。

 キルケが言うように、世界にとって不都合な力かもしれない。


「わからんと思うけど、教えてくれ。でないと俺は……」


 アイには言えない言葉がある。

 俺はこの世界に、居ていいのか? という疑問。

 動けば動くほど、狙われるこれは、最終的に巡り巡って、アイにとって邪魔になるのでは? という疑い。


 この疑問に対して、俺なりの答えを出したい。


「俺は……なんだ?」


「……いや、俺はアイの力になりたい」


「イセ……」


「そのために召喚したんだろ? 俺もこっちで生活してもうその気になってきてる。せっかくだからアイの望む世界になるように、協力したい」


 アイは俺の言葉を聞いて、ほんの少しだけ微笑んだ。


「ありがとう。もう力になってる」


 アイはそう口にして、改めて柔らかく微笑んだ。

 疑問ではなく、気持ちを伝えて良かった、と思えた。


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