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233話 長い付き合いのふたり?

「おい、おきろ」


 アイっぽい声と共に体をゆさゆさとされ、目が覚めた。

 熟睡した後の、すっきりパッチリと目が冴えるあの感覚で起きた。


「おはよう、アイ」


 寝起きの乾いた喉のイガイガ感と共に声を出す。


「? 何を言ったのかわからん。おはようもう朝だぞ。食事の用意もできている」


「おう」


 俺はむくりと上半身を起こし、そのまま立ち上がった。

 着ているのは、亜人たちが着ている簡素な服。

 エジン公爵領でもらったり借りたりした服と比べると、服と呼べない布って感じ。


 そうだ、ここは亜人領だ。


「目、覚めてるか?」


「ばっちり」


 むしろ、心地いいくらい。

 久しぶりにぐっすり眠れた気がする。


 あれか、長距離運転で疲れ過ぎて眠れなかったけど、寝に入れたら熟睡できて疲れが吹っ飛んだ感じか。

 伸びをしてみたが、寝起きの体の固さもない。


 こっちの世界に来てから、移動の多い生活をしていたせいで、枕が変わっても平気な心と体を手に入れられたようだ。


「いたって健康だ」


「それは良かった」


 そう言うアイは、少し浮かない顔をしていた。


「どうしたの?」


 アイはそっと近づいて、俺にのみ聞こえる声でつぶやく。


「ふたりきりになったら、話したいことがある」


 え、ふたりきり?

 このタイミングで、色っぽい話がくる?

 段取り、飛ばしすぎじゃね?


 という想像を一瞬してしまったのは、モテなかった昔の人生ゆえだろうか。

 今は周りに気立ての良い女の子いっぱいの人生だと言うのに。


 ……モテてはいないか。


「わかった」


 俺も小声で返事をして、アイと共に朝食を食べに行った。


 亜人たちが用意してくれた朝食は意外にも美味しかった。

 鬼王の側近をしていると、人間と過ごすこともあるようで、勝手がわかっているらしい。


 彼が気ままに動いていられるのは、ここにいる側近の亜人たちのおかげかもしれない。

 みんながみんな、あの暴れん坊のナノスと同じタイプじゃなくてよかった。


 そして朝食を済ませた後、俺は鬼王の指示で古城の中で一番の広さを持つ広間へとトラックを転がした。


 広間の丁度真ん中あたりに停車させ、エンジンはそのままにして降りる。

 すると鬼王は荷台の方の扉を開けた。


 そこには、ナノスとケアニスが寝っ転がっている。

 魔法で眠らされているふたりは、道中の揺れのせいで端っこで固まっていた。

 それを、鬼王は楽しそうに笑い、ひとまずまともに仰向けに寝かせてやる。


「さて、本題の前に、まずはふたりを起こしてくれ、アイちゃん」


 アイは心底面倒そうにため息をつく。


「ソロン、ちゃんと抑えるんだぞ。暴れさせるな」


 鬼王は肩をすくめる。


「もうわかっていると思うけど、俺は仲間には寛容なんだ。暴れたいやつには暴れさせる。だがアイちゃんたちには危害は加えさせない。それでいいだろ」


「……わかった。それでいい」


 亜人は暴れる生き物だという意味と受け取ったのか、諦めたアイはぶつぶつと呪文を唱え始める。

 外からの魔素を集めるアイ。

 普段よりも薄い魔力を、ゆっくりゆっくりとかき集めるように、優しく丁寧に魔法を作り上げていく。


「魔法陣は見えないがこの魔力の流れ、尋常じゃないな……天才の技だ」


 鬼王は本当に感嘆としているのか、アイの魔法の構築を注視して目を離すまいとしていた。


 作り上げた魔法を発動させ、寝ているナノスとケアニスに魔力が注がれる。

 そこに発現する魔法現象。


 ナノスとケアニスを覆うかのように存在した魔法が、アイによって解かれて粉々になって散っていく。


 そして跡形もなくなった魔法。

 魔法がなくなったことで、そこら一帯だけ濃厚だった魔素は拡散していく。


 辺りの濃度と変わらなくなった頃、ナノスとケアニスが身動ぎした。

 そして、ふたりともほぼ同時に目がうっすらと開く。


 ナノスとケアニスは、お互いに目が合っている状態だ。

 それぞれ眠らされたタイミングは違う。

 それがいきなり目の前にいたら、どうなるのか?


 そういえばケアニスはナノスにご執心なんだっけ。

 道中にそんな話で盛り上がっていた。

 そのことを思い出し、アイとタツコを見ると、案の定興味の持ち方がそっちに寄っているように見ている。

 アイはわかるが、タツコは意外と感情が顔に出る。


 思いあっている、あるいはケアニス側の片思いっぽいふたりの関係。

 そのふたりが、目覚めたら目の前にいる。


 さて、どうなるのか……


「……てめぇか」


 むくりと先に起きたのはナノス、次いでケアニス。

 腰を起こして立ち上がり、ナノスは体に違和感でもあるのか手をグーパーしたり、足を浮かして膝から下をぶらぶらさせたり、準備運動みたいな動作をし始めた。

 それをじっと見ているケアニス。


「……何もされていないようですね、ナノス」


「お前じゃあるまいし、しないだろ」


「じゃあ、無事ですね」


「当たり前だ。そんな簡単にやられるか」


 目をそらしつつ、ぼそっと口にするナノス。

 それを見て、心底ホッとしたように無防備な表情をつくるケアニス。


 なんだこの空気。


 見ようによっては、ケアニスの心配に対してナノスが寝顔を見られて照れているように見える。

 見た目の、年相応の女の子みたいな感じ。

 今までの手に負えない暴れん坊とはうって変わっている。


 黙ってふたりの様子を眺めていたのは、1分にも満たない時間だ。

 だけど、なんとなくこのふたりの関係を察してしまった。

 いや、俺にそんなお察し能力あったっけか、と思い、本当に当たっているかどうかわからないと結論付けたところで、タツコがぼそりと口にした。


「まるで、長い付き合いで、適度に冷めた恋人同士みたいなふたりだな」


「それだ」


 タツコが無表情ながら少しギラついた目で言い、アイが言いたかったのはそれだと言いたげに目を見開く。

 ……俺のお察し能力は、これくらいは当たっていたようだ。


 タツコとアイのやりとりを聞いて、ナノスとケアニスは嫌なところを見られたという風に、若干不機嫌気味に目を反らしていた。


「それで、あなたたたちは、こんなところで何をしているんですか?」


 ケアニスは見ていた俺たちに問いかけてくる。

 話題を変えようとしたのか。

 いや、元々の本題に戻してくれただけか。

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