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231話 緊張感のないメンツ

 古城を前にした荒野で、タツコはじっとしている。

 魔力を感知できる俺やアイにはわかる。

 タツコは、自らの力を使って魔法的な変化を起こそうとしている。


 周囲に僅か砂塵が舞い、微かな風がおこる。

 だがそこまでで、大した変化はない。


 その状態が1分以上続いただろうか、なんとなく違和感があった。

 うっすらと見える魔素の流れが、それこそ風で流れる砂のように微かに重くゆるゆるとしている。


 それを感じたのは俺やアイだけでなく、当然タツコも気づいたみたいで力を使うのを止めた。


「そういえばここは、我の力も使いにくいんだったな」


「みたいだな。厄介だ」


 そう不機嫌そうに答えたのはアイ。


「真力を使うと、俺たちにも影響ありそうだな」


 アイはうなずいた。


 タツコの使う力は、天使たちが使っていた、そしてケアニスが現役で使っている『真力』の源流だ。

 この地上にいるあらゆる生き物から、少しづつ力を譲り受けて自らの力に変える術だ。


 亜人領は帝国領に比べて極端に生き物が少ない。

 だから今ここにいる俺やアイからも生き物としての力を吸い取っていた。


 タツコが力を使った時の違和感は、それを俺が感じ取ったからだった。


「タツコ、その力は使わないでくれ。湯の用意もさせよう」


 鬼王は、タツコに力を使わせない代わりの交換条件を出した。

 タツコは、微かに微笑んで乗った。


「いいだろう」


 タツコの周りにいる生き物は何も俺やタツコだけではない。

 この地で暮らす亜人たちもそうだ。

 鬼王は王として、彼らに気を使ったのだろう。


 ということで、俺やアイが湯加減の指示を出しつつ、風呂にありつけた。

 タツコの好奇心のおかげだ。


 用意された湯で旅の汚れと疲れを落とし、鬼王に仕える亜人たちの用意した食事にありついた。

 食事は味付けは薄いが、思った以上に食べられるものだった。


 鬼王曰く、『神器』であるアイ向けであり、客人向けの食事を用意していたそうだ。

 捕虜扱いをしようと思っていたが、タツコはともかく俺とアイでは亜人の食事は無理だろうと考慮してのこと。

 一応、気遣ってくれたらしい。

 まあ、これからトラックの分析もあるので、アイのことを無碍に扱うことはできないというのもあるだろうけど。


 疲れもあって、アイにしては遠慮なくパクパク食べていたところに、鬼王が告げた。


「食事が終わったら、ナノスちゃんを開放してくれ」


「ぐぬ」


 少し喉に食べ物をひっかからせたが、そうなった気分はわかる。

 あの暴れん坊を起こしたら大変なことになる気しかしない。


「抑え役でケアニスちゃんも一緒に起こせばいい。タツコちゃんと一緒なら余裕だろう」


 さり気なく、鬼王は抑え役をやるつもりがないと宣言した。


「それでも暴れることが前提なのか?」


「暴れないかもしれない。あれでもこっちじゃおとなしいんだぜ。お前たちの土地に行って、遠慮なくやれって言ったからはしゃいでた面は否定できん」


 本当にそうなのかわからないし、亜人たちのおとなしいの基準も違う気がしている。

 まあでも、流石にアイや俺にここまできて、目的のトラックの分析をやるまで危害を加えるってことはないだろう。

 ないと思いたい。


 というのをアイも逡巡しているのかもしれないと思っていた。

 思っていたが、想定外なことにアイはナノスもケアニスも起こさなかった。


 食後にこれからのことを話し合うためと、あんまり味のしない茶っぽいものをすすりながらゆっくりしていたら、アイが寝てしまったのだ。


 もう脱力してぐっすりすやすやと椅子の上で寝始めたのを見た鬼王は、呆れて苦笑している。


「また寝るのか、こいつは」


「いろいろあった後の旅だから」


「マジかよ。寝すぎだろ」


 むしろピンピンしている鬼王の体力と気力の方が、マジかよって気分ではある。


「猫みたいだな。あれ、暇さえあればすぐ寝るんだぜ」


「飼ってた?」


「ああ。お前たちの土地でなついたのを拾ってな。こっちは過酷だったのかすぐ死んでしまったが」


 と言った後、少しだけ気まずそうな顔をした。


「なあ、アイもひょっとしてこっちの土地だと突然死ぬのか?」


 亜人の生き物としての力強さを知ると、否定はできないかもしれないと思ったけど、具体的なことは何も言えないので無言を通した。


「ソロンや元の我と違い、人間はか弱いぞ。今の我も当然か弱い」


「信じられんな」


 俺も、タツコがか弱いというのは信じられない。

 と思いつつ、ふっと苦笑した。


 なんで俺、ここでくつろいでいるんだ? と。


「じゃ、俺も疲れをとるために休むか。明日、話し合おう」


 うなずく俺とタツコ。

 それを見て鬼王は笑う。


「緊張感ないな。ま、それもそうか。今やお前らが一番の大勢力だからな。できれば俺もあやかりたいところだ」


 そう言って、鬼王は俺たちのところから立ち去る。

 どうやらこの食事をしていたスペースが、俺たちの寝床になるらしい。

 3人で使うには大きい広間だが、扉も布切れ一枚だし、警備や見張りがいるわけでもない。


 亜人たちには、捕虜とか客人とかそういう感覚すら無いのかもしれない。


「イセ、寝ないのか?」


「いや、寝るよ」


 俺も寝るには十分なスペースのある椅子の上へ寝転がった。

 だが、ちっとも眠れなかった。

 鬼王は緊張感ないと言ったが、多分俺はある。


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