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230話 鬼王の根城

 荒野を進み、木々のない山を越え谷を越え、ようやく見えてきた目的地らしきところ。

 大きな城があり、見るからにそこが王の居城とわかる。


 ここにたどり着くまでの間、関所なり砦なりもなく、さらには亜人のひとりも見なかった。

 ってことは、ここは鬼王の城じゃない?


「目的地はここ?」


「ああ。大昔の王だか貴族が暮らしてたっていう城を、根城にしてる」


「そのまま使っているのか。だから似てるんだな」


 アイが似てると評して、すぐ気づいた。

 こことは違う、豊かな森のあった湖のほとりの古城。


「お前を召喚した時に使った古城と、同時代のものだ」


 俺が召喚された場所か。

 あそこから今まで旅して回ってたんだなと思うと、懐かしさすら覚えるほど感慨深い。

 この世界にいる俺は、あそこで生まれ変わったんだった。


「同じ城か。昔の王の版図は広かったって聞くからな。こことそっち、昔は同じ国だったってことかね」


 鬼王は少し感慨深そうに言う。

 自分がそれに取って代わるつもりなのだろうか。

 それくらいのことを考えててもおかしくはない。


 そして城の目の前までやってくると、城からわらわらと亜人たちが出てきた。

 城という巨大な建物から出てきた割には数は少ない。

 一国の民というより、一集落や一氏族の家族に親しい者たちって感じだ。


 それに前に帝都で会った鬼王の部下っぽい屈強そうなのもいない。

 そこにいる者たちは鎧や武器もない状態だ。


 そいつらの前に、鬼王がまずドアを開けて出ていく。


「ただいま。今日も勝って帰ってきたぞ」


 すると、鬼王の前に寄って帰還を喜び始めた。

 王を迎える公式の歓迎というより、家族や仲間が帰ってきて喜んでいる風だ。


「なんだか、牧歌的だな」


「亜人だからな」


 アイもタツコも反応は薄い。

 これが亜人、と知っている様子だ。


 と、様子を見ていると、鬼王が声をかけてきた。


「お前ら、顔を見せてくれ」


 言われて俺はアイと目を合わせた後、ドアを開けて出ていった。


「見ろ、これが戦利品だ」


「「「おい」」」


「ん? 違ったか? 一応無理矢理連れてきたんだ。戦利品と言っていいだろう」


 いけしゃあしゃあと自信満々に言われ、確かにそういう面もあり、自分らの中途半端な立場を改めて思い知った。


「この小さいのが俺と同じく『神器』アイちゃん。こっちの仏頂面美人が元『竜』のタツコちゃん。そして戦車を操っていたのがイセちゃんだ」


 戦利品を友だちか何かのように紹介している鬼王は、亜人のひとりから質問を受けた。


「ナノスは? 戦車を操っていたのはあいつじゃ?」


「あいつは戦車の荷台にいる。ちょっと色々あってな。ってことで疲れているんで、休める準備をしてくれないか? こいつらは戦利品だから大事にするってことで、客人って感じの扱いにしてくれ」


 鬼王に言われて、亜人たちはわらわらと城へ戻っていく。

 いつ帰還するかわからなかったから、何も準備をしてないらしい。

 ひとまず、俺たちは準備が整うまで、待つことになった。


「おい、鬼王」


 タツコが鬼王に声をかける。

 珍しいのか、鬼王が意外そうな顔をした。


「休む前に風呂に入りたい」


「風呂? お前がか?」


 そう訝しげに見るのは女性に対して失礼って思うが、『竜』なのに風呂に入るのかという疑問なのかもしれないと思いついた。

 俺、この世界にかなり慣れてきた。


「人の肌だと、湯はいいんだ。元の姿では味わえない」


 風呂の心地よさを思い出しているのか、タツコが微笑みを見せる。

 いつもの仏頂面と、元々の美人さも相まってとても魅力的に見える。


「タツコちゃん、悪いが風呂は無いぞ」


「なんだと?」


「そんな驚かれてもな。ここは亜人領だぞ。人間の社会とは違う。ここではこうするんだ」


 鬼王の体から魔力の変化を感じた。

 俺もそうだが、アイもタツコも感知しているのだろう。

 剛術を使う前の気配に、俺たちの間に少し緊張が走る。


 だがこちらに何も変化はない。

 鬼王が迫ってくる様子もない。


 ただ、鬼王の全身から少し湯気が出てきた。

 どうやら体から熱を発しているようだ。


「と、こういう剛術で体の表面を焼いている」


「熱で消毒か!? ひどいな!」


「そうか? 便利だぞ」


 アイはまともに突っ込むが、タツコはそれを見て感心したように言う。


「なるほど。やってみようか」


 言った後、考え込み始めた。

 『竜』の力である真力を使い始めたようだ。


「へぇ、思ったより好奇心あるんだな。これも人の体になったおかげか」


 鬼王は楽しそうにタツコを見ていた。


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