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22話 カウフマンの誤算

 AI機関の屋敷のアイの執務室の隣には大きな会議室があった。

 そこにある広い円卓に、屋敷にいる全重要人物たちが集まっていた。


 会議の準備をしている間に、ウルシャが円卓に座る人たちを教えてくれた。


 まずAI機関の運営に携わっている幹部2人のおじいさん。

 見た感じはアイの後見役というか、孫を可愛がるおじいさん2人みたいだ。アイと話している時はすこぶる笑顔で、時々頭をなでている。

 本当は違うかもしれないが、多分そういう認識で大丈夫だろうと思った。


 それから入り口付近と、執務室の窓から外を警戒する兵士数名。

 ウルシャの部下らしく、屋敷に来た時に近づいてきた兵士たちとは微妙に雰囲気が違う。

 戦士として訓練されたような兵士だ。

 扉の外の廊下にも、同じようにウルシャの直属の部下たちが配置についているそうだ。


 そして今回の中心人物。エジン公爵令嬢オフィリア。

 静かに佇むその姿は、深窓の令嬢って感じだ。儚げな感じすらする。


 だが、ウルシャの説明によると、そこらの兵士には負けない戦士なんだそうだ。

 本来必要のない戦士としての訓練を自ら率先してやっていたとのこと。


 人は見かけによらない。でもそういえば、あの衛兵たちからあそこまで逃げてきたんだよな。

 味方だった者たちが全員敵になった城下町で、あそこまで逃げ延びてきた実力は、相当なものだったということか。


 そして最後に俺。

 アイが召喚術で呼び出した異世界の戦士。って書くと、とてもかっこいい。

 『神器』にして最後の魔法使いの切り札。

 ぶっちゃけ、この円卓に座る中でも、主役級だ。

 メガネをキラッとさせたり、手を組んで肘ついてニヤリとかしたくなるくらい、いい感じだ。


 でも、警戒にあたっている兵士たちがコソコソと「あれが戦士?」「貧相じゃね?」と話しているのが聞こえて、我に返った。格好を気にしてないで真面目にやろうと。


 でもって、この場はオフィリアの現状と、俺の紹介の話がメインになるそうだ。


 全員が席に座り、給仕等をしていた者たちが部屋から出たあたりで、アイが皆に向かって口を開く。


「みんな、ご苦労さま。ではオフィリア……様、城下町で何があったのか聞かせてください」


 アイは簡潔に言うと、オフィリアは反応した。


「アイ様。様はいりません。いつもどおりオフィリアと呼んでください」


「わかった。オフィリア、何があった? 思い出すのも辛いだろうが、教えてくれ」


 アイの気遣いの籠もった問いかけに、オフィリアは黙礼した後、話しだした。


「衛兵隊長カウフマンが、謀反を起こし、我が父を殺害しました」


 幹部おじいちゃんたちが「なんと……」「やはり……」みたいな反応をする。

 事前情報としてそうなる可能性が高いとは聞いていたが、それでも本当に起こるとなるとショックは隠しきれないといった様子だ。


「彼は、私を軟禁して、代理として公爵領の支配を企んでいたようです」


「こちらの掴んだ情報どおりだな。防げなかったのは、本当にすまない」


「いえ、忠告を無視したこちらの落ち度です。それにこう言っては失礼かもしれませんが、アイ様はむしろ善戦していると思います」


 オフィリアは、はっきりと言った。


「カウフマンからすれば、私を確保できなかったことそのものが、大きな誤算でしょう。公爵領を乗っ取る上で、欠かせないのが我が公爵家の血、ですから」


 深窓の令嬢という雰囲気を持ちながら、まるで老獪な政治家みたいな発言が出てくる。

 この世界の厳しさが垣間見えた。


「それを防いだのは……アイ様、いったいどのような『力』を手に入れたのですか? あの湖の上を走り回っていた乗り物は……いったい……」


「ああ、それはな――」


 と言いかけたところで、オフィリアは悲痛な表情を作って口にする。


「あの悪魔のような異形の怪物たちと、恐ろしい契約を結んでしまわれたのでしょうか?」


「え、悪魔……?」


 アイが、あれ? って感じで俺の方を見る。

 今、満面の笑みで俺のことを「この者の『力』で助けたのだ」とか言おうとしたところで、この反応。

 戸惑うのも無理はない。


「私は、その悪魔たちに救われましたが、しばらくの間、ひどい悪夢を見ていました。身動きが取れず、その上揺れに揺れて気持ち悪くなって目覚めようとしても、悪魔たちが何度も迫ってきて……。あのような恐ろしい者に頼らねばならぬほど、アイ様は追い詰められて……お労しや……」


「あ、ああー」


 アイがこっちを気にしながらも目が泳ぐ。


「た、確かに……かの『力』は女性にとって天敵であるからな……」


 あ、アイが、俺の『力』を悪魔の力扱いし始めた。


「救われたことには感謝しています。ですがこれ以上アイ様が多くのものを背負われては……」


 言われて、アイは優しげな目をしてオフィリアを見つめる。

 勘違いしているものの、彼女のアイへのいたわりは本物だった。

 ……勘違いはしているものの。


「オフィリア、大丈夫だ。アイが召喚したこのイセという者が、その悪魔の力をコントロールしている」


「イセ様? 召喚された戦士様、ですね」


「様付けはお止め下さい、オフィリア様」


 俺はなんかそれっぽい感じで発言した。


「私めによって『力』は完全に掌握しております故、ご心配には及びません」


 止めろって言えば、レ○プも止めるし。


「本当か?」


 と聞いてきたのはアイだ。


「多分」


 若干日和ったが、アイは真顔でそれを受け止めてくれた。


「聞いての通りだ、オフィリア。その点はアイもこの者を信頼している。だから心配するな。女性にとって最低の天敵だが、きっと大丈夫だ」


「そこを強調しないでー」


 気安くアイに突っ込んだら、ウルシャを筆頭に皆からギロリと睨まれた。

 その空気を感じ取って萎縮する俺。何? 俺が悪いの?


 でも確かにちょっと閑話休題になってしまったのは反省だ。

 アイが無理矢理話を戻し、オフィリアが話を続ける。


 謀反を起こしたカウフマンは公爵を殺害し、公爵の血筋の者を傀儡にして公爵領を掌握するつもりだった。

 そのための計画は順調で、それに反していたアイたちも後手に回っていた。


 そこで起死回生のオフィリア救出劇。

 カウフマンは、本来ならしなくていい手を打つはめになっている。

 そのことに誰もが気づいているのか、円卓のある部屋に重い空気が流れた。


「カウフマンは直属の衛兵隊を率いて、この屋敷にやってくるな。オフィリアを取り戻すためという名目で」


 皆がうなずいた。

 俺も現状の情報だけなら、そのことに納得がいった。


「ですのでアイ様。私を他領へお引き渡しください。そうすればAI機関を潰す機会は失われ、さらに我が公爵領も掌握不十分になるでしょう」


「しかし、それではオフィリアが、各国の闘争に後ろ盾もなく巻き込まれるぞ」


「私にはアイ様がいらっしゃいます。それに私も公爵家の端くれ。このような時の覚悟もできてます。父上は仰ってました。公爵家の者は最後まで死なないように最善を尽くし、民のために生きろと。そのためには命を賭けろと」


「閣下らしい。矛盾してるように聞こえるな」


「はい。でも今ならわかります。私は死ぬかもしれない恐怖も、生き残るための苦しみも受け入れ、公爵領のために今からでも戦います」


 聞きながら、全員がオフィリアの覚悟を理解しているようだった。

 俺には彼女が、自ら権力の道具になると宣言しているように聞こえた。


「オフィリア。あなたは間違っている。今からじゃない。すでにずっと前から戦っている」


 アイはそう言って席を立つ。


「あなたの覚悟はアイが預からせてもらう」


 誰よりも小さな体の幼女だから、立っても頭が皆の上にいかない。

 そのことに気づいたのか、靴を脱いで椅子の上に登って立った。


「みんな、カウフマンの衛兵隊を、この屋敷で迎え撃つぞ!」


 アイの宣言に驚いたのはオフィリアと俺だけ。

 彼女と俺以外は全員、一斉に声をあげる。


「「「「はっ!!!」」」」


 衛兵隊と戦った俺にはわかる。

 ここの者たちと、彼らでは兵士としての練度が違う。


 だが、リーダーも無茶であり、それに付き従う者たちもまた、無茶だった。


 それでも俺は彼らの覚悟を無駄にしたくないと思った。


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