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228話 亜人領へ

 展開された騎士や兵士、傭兵たちの間を抜けて、魔境城塞の城門をくぐる。

 城塞の中をトラックで徐行運転。


 それは砦にある戦力の全ての敵意を向けられている状態で走るということ。

 この酷いプレッシャーの中、トラックの巨体を壁に擦ったりする運転ミスをしなかった自分を褒めて欲しい。

「ついに出るんだな。緊張する」


 緊張とかアイらしからぬことを耳にした。


「アイは、亜人領に行くの初めてだったのか」


「出不精でな。うちの研究室にこもってることが多いから」


 天才魔法使いは引きこもり。

 それっぽすぎて意外性はまったくない。


 アイの言うことに特に反応するでもなく黙っている鬼王とタツコ。

 鬼王は自国なので当然この先を知っているが、タツコもそうなのか?

 あ、でも、鬼王に召喚されたのなら、亜人領から出て帝国領に入り、帝都を襲ったのか。


『イセ。さっきの話だがな』


 突然、タツコは俺の心に声をかけてきた。

 話しかけられたことを鬼王とアイに悟られないようにするの、大変なのでちょっとタイミングは考えて欲しい。

 って、さっきの話ってどの話?


『アイがソロンにつくのはありえん』


 さっきの話って、それか。

 俄然、興味が出てきたので聞こえてないふりを見せながら、続きを待つ。

 しかし、一向に話し出さないので、思わずちらりとタツコを見る。

 それで俺が『なんでそんなこと言えるの?』という疑問を持っていることに気づいてくれたようだ。


『行けばわかる』


 どこに? と思ったがこれ以上、細かく話してくれないだろうなと予想つけた。

 これから行く先は亜人領だ。

 そして、鬼王のホームだ。


 どっちにしろ、行ってから答えを出すものだろうから、ひとまず行くしかないだろう。


 薄暗い峡谷の道をしばらく進む。

 時々見かける魔境城塞側の小さな砦。

 それらを横目に進み続けると、前の方から強い光が見え始める。


 谷を抜けた先にある広い空間。

 そこが亜人領だ。


 まるで洞窟を出たかのように明るいそこは、岩肌だらけの殺伐とした荒々しい大地だった。

 渓谷とパッと見変わらない。


 違うのは、遠くにいくつかの火山が見えるところ。

 なんだか、魔族とか住んでそうな、そんな土地だ。


 そしてそんな土地の中で最も目立っているのが、真っ黒な地域。

 荒野や山、禍々しい雰囲気の森といった中に、黒く塗りつぶされたような場所がいくつかある。


 あれはなんだろうという疑問は、アイの驚き声によって答えを得た。


「あ! あれが……ひょっとして……」


 アイは指をさしながら、鬼王に確認をする。


「ああ、『穴』だ」


 なにそれ? という疑問を口にする前に会話は続く。


「あそこに魔素(マナ)は感じないだろう? 亜人領でアイの使う『魔法』の構築は無理だ」


 タツコが言うと、アイは目を見開いて驚く。


「それどころか……魔素(マナ)どころか、この世界に本来存在しているものが、あそこには何もかも存在しないじゃないか」


 それを聞いた俺を、タツコはちらりと見た。

 さっき心の声で言っていたのはこれか。


 亜人たちと手を組んでも、アイの目的は果たされない。

 何故なら、『魔法』が使えないから。


 そして、そんなこと百も承知であろう鬼王は、呆然としている俺に言う。


「ウチはあっちだ。このまま街道を進んでくれ」


 俺にとってこの世界は全部驚愕に値するほど俺の常識外だが、アイにとっては自分の世界だ。

 その自分の世界に、自分の常識外が存在するのは、どれほどの驚きだろうか。


 呆然気味のアイを見てると、その辺を考えざるを得ない。

 そして……


「ソロン、これを見せた上で、アイに何をさせるつもりだ?」


「あ、タツコちゃんそれに興味ある?」


 無表情で無反応気味のタツコに興味を持たせたことが嬉しいのか、鬼王はニヤリと笑う。


「俺がアイを連れてきたかったのは、こいつを実際に見てもらった上で、この戦車の謎を解いてもらおうと思ってんだよ」


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