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225話 魔境城塞

 殴り気絶させたケアニスの体を、鬼王はお姫様抱っこ状態に抱え直して、トラックの方へと戻ってきた。

 そのままその場に捨て置くみたいに扱うかと思ったら、やけに丁寧だった。


「アイちゃん、こいつにも眠らせる魔法かけてくれ」


 別に大切に扱ったわけじゃなくて、起こさないように扱っただけみたいだ。


「連れていくのか」


「魔境城塞通るのに使えるかもしれないし、せっかくだからナノスちゃんにも会わせてやろうと思う。きっと喜ぶぞ」


 俺って親切と言いたげにニヤリとする鬼王。

 ついでに言ってるだけとわかる。


「キルケちゃんみたいに、邪魔者だから排除とかするわけにもいかないし、かとってほっといたらまた襲ってくるぞ。せめてウチに着くまではおとなしくして欲しいんだよ。戦車壊されちゃたまらんからな」


「む、ケアニスがそこまでするか?」


「そっちがナノスちゃんに警戒しているように、俺はケアニスを警戒している。俺からすれば暴れん坊って意味ではどっこいどっこいだよ」


 アイ以外全部排除でも構わないって態度とってた口でよく言えるよなとは思う。

 思うけど、ここで即殺して排除としないのは『神器』だからかもしれないな。


「アイ、どうする?」


 アイを見ると、うーんって感じに考えこんでいる。


「ケアニスにタツコ、それにイセもいるし、今ならソロンに勝てるんじゃないか?」


 え、それを本人の前で言う?

 対して考えなしを見ても動じない鬼王が返事をした。


「だろうな。でも俺に勝ってその後どうするんだい?」


「このトラックをいただく」


「ひどいな。でもそこまでするなら俺も全力で邪魔させてもらうよ。そっちのひとりくらい殺して、戦車2台破壊する」


 鬼王はこともなげに言う。

 別にそれでもいいよ荒事大好きだし、って感じ。


 アイは見るからにびびってタツコを伺う。

 タツコは無表情で黙っているだけ。

 この状況で何をしたいのかわからない。


 さっきまでケアニスの恋バナに夢中になっていたのが不思議なくらい興味なし態度。


「イセ。アイを説得してくれ。わかるだろ? それが……最善ってわけじゃないけど、次善とか三善くらいだって」


 鬼王は俺に話を振ってきた。

 そして、俺も今この段階では鬼王に賛成だ。


 ケアニスがもう少し話せる状態だったら変わっていただろう。

 あんなに見境なく戦い始めるとは思わなかった。


 いや、そうでもないか。


 元々己の目的のためには、見境なかった。

 元々の仲間だった天使たちを見限ったり。

 捕まったふりをして天界ぶち壊したり。

 こっちの都合どころか誰の都合もお構いなしに動き回っているヤツだった。


「うーん、なあイセ、どうする?」


「アイ、このトラック……戦車について知りたくないか?」


 それを言われて、アイは少し目を見開く。


「知るには、鬼王の協力は必須じゃないか」


「ああ、そうだそうだ。無事に平和裏にウチまでみんなで戦車を運べたら、調べさせてやるからここは協力してくれよ。な?」


 鬼王が乗ってきて、アイは折れた。

 ケアニスを地面にそっとおろして寝かせて、彼に向かってアイは長々と呪文の詠唱を始めた。

 『竜』に使った時よりかは小さいが、普段使っているような魔法よりもだいぶ重厚で慎重な積み重なった魔法陣が宙に展開され、それによって魔素が効果を表していく。

 ケアニスは魔法に覆われ、そして仮死状態のような眠りにつかされた。


 鬼王はその間に荷台の扉を開けて、中にころがっているナノスの隣にケアネスを寝かせる。


「起こす時は一緒に起こそう」


 隣で寝てたら驚くぞーと言いたげな鬼王の笑みに、我が意を得たりといわんばかりに満足そうなアイとタツコ。

 こいつらなんなんだ?


「よし行くか。寝なくて大丈夫か?」


 鬼王が俺を気遣うが、魔境城塞が見えていて、ケアニスがここまで飛んでくるような状況下でゆっくり休めるとは思えない。

 それに今は眠たくない。

 俺はまだ運転できると告げ、皆を乗せてトラックを出発させる。


 ほんの5分くらいだろうか。

 魔境城塞の威容が、目の前に大きくフロントガラスいっぱいに広がって見えはじめる。


 それと同時に、閉ざされた大きな城門の前に並ぶ多くの人々に気づく。

 数千人規模だろうか、それとも万行くのだろうか。

 とにかく、大勢の人だ。

 映画でしか見たことがない多くの人々。

 ライブの映像でしか見たことがない密集した人間たち。


 大勢の人々という意味では、一番多くみたのは教皇庁だろう。

 だが、その場にいる人達が全員、こっちに意識を向けているのがわかる人間の集団という意味では、俺は初めてみた。

 その人々は、剣や槍や盾や弓を持ち、鎧を着ている。

 いざとなったらそれらを使うために動く意思を持った人々が待ち構えている。


「ビビるなイセ。スピードは落としていいが俺がいいと言うまで決して止まるな」


「……わかってる」


 返事をした俺の声は震えていた。

 魔境城塞に駐屯する軍団の敵意を受けて、俺は震えていた。


 いくらこいつらを蹴散らせる戦力がここに揃っていたとしても、この数やばいだろ。


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