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223話 ケアニスの敵意

 まだ太陽もあがっていない早朝だというのに、刃が煌めいた。

 陽光を反射したのではなく、剣が自ら輝いたからだ。


 宙を鞘のようにして刃を走らせ、抜かれたのは短めの剣。

 現れた瞬間から輝く剣は、持ち主によって振り上げられる。


 剣の主はケアニス。

 切っ先を届かせようと、文字通り飛ぶような一歩で鬼王に振り下ろした。


 対して鬼王の動きは最小限。

 両足を踏ん張るように地につけ、下から上へアッパーカットのように振り上げられたのは拳。


 どちらもただの剣ではなく、ただの拳ではない。

 真力の剣に、剛術の拳がぶつかり合って、お互いがお互いを弾かせた。


 鋼鉄が割れるような鈍く高い音が鳴り、ふたりの体はその衝撃で後ろに下がる。

 その間合いを互いに埋めるように再びぶつかる。


 全体重を乗せたような剣と拳。

 それが高速でぶつかりあい続けた。


 拳が当たる距離であり、短い剣で切れる距離にも関わらず、その衝撃で二歩三歩の距離が空く。

 ただの接近戦だというのに、目をそむけたくなるほどの火花が散る。


「おおぉぉ、派手だな」


 アイが端的に表現した。


「アイ、止めなくていいの?」


「止めた方がいい。タツコ」


「巻き込まれたくない」


 タツコがそう拒否した。

 それもわかるくらい、激しく打ち合っている。


「それに、あのケアニスの戦意は異常だ」


 タツコが指摘して、どういうことと思ったが、アイがうなずいている。


「やりたいことをして、止めようとしたり挑んできた者を返り討ちにしているのは見たことあるが、自分から仕掛けたのって始めて見た」


 そう言われてみると、確かに戦うことそのものには積極的じゃないよな。

 天界の真力を止めた時とか、彼にしてはずいぶんと直接的とは思ったが、天使たちが仕掛けてきたから反撃しただけだ。

 反撃にしては元を断つっていうのは、なかなかえげつないが。


 そして、あのケアニスが薄ら笑いを浮かべて余裕の対応をしている様子がない。

 睨みを効かせ、致命傷となりうる隙を突くような戦い方だ。

 鬼王の方が逆に怖い笑みを浮かべている。

 戦闘狂って感じで、ほんと見たまんまに戦うの大好きなんだろうなと思わせる。


「あれ、本気でやりあってるよな?」


 ここで見ている中では、一番戦闘に強いタツコが同意する。


「してるな。一本のショートショードに真力を集中させ、殺意を載せての斬撃。鬼王も同じように体内の魔力を一点に集中させて打ち返さないと危ない」


 しばらく打ち合ったふたりが、ほぼ同時に足を止めた。

 鬼王もケアニスも、少し息があがっている。


「巨大化、しないんですか?」


「お前相手にいらないだろ」


「手を抜くほど余裕ですか。腹立たしいですね」


「馬鹿言え。あれは『竜』用だ。攻城兵器を人に使っても避けられるだろ」


「イセさんを追いかける時にも使ってましたよね」


「逃げられそうだったからな。歩幅を大きくしたんだよ。ケアニスちゃんには、こいつで精一杯だ」


 と言って、拳の甲を見せる鬼王。


「なるほど。追い詰めることが出来てて良かったです。このショートショードは、あなた用の技です」


 ケアニスは短い剣をバトンのようにくるりと回転させてみせた。


「重さもなく刀身も鋭くはありません。ただ魔力そのものを限りなく無力化させ貫く代物です」


「だからか。さっきからかなり痛ぇ」


「多少効いてましたか」


「わかってるくせに、しらばっくれるな」


 鬼王は空手の正拳突きでもしそうな構えをとる。

 ケアニスの剣を迎撃し、カウンターを入れるつもりだろうか。


「防戦一方か。鬼王、分が悪いな」


 タツコがそう言うからには、そうなんだろう。

 俺は、アイどうするんだ? という視線を送るが、アイもジッと見ているだけだ。


「おいお前ら、ケアニスちゃんを止めてくれよ。俺、殺されちゃうよ」


 構えたまま、そんなことを言う鬼王。

 まだ笑っているが、声にどこか必死さがある。

 ほんとに危ない?


「なあアイ、どうすればいい? 止められるか?」


 そんな質問をしている間に、ケアニスが再び高速に寄せて斬りかかる。

 鬼王はそれを苦もなく迎撃して、またお互いに弾き跳び、また接近して打つを繰り返す。


 見た感じ4回か5回くらい打ち合った後、鬼王が呼吸の切れ目で口にした。


「ナノスを起こしてくれ」


 そう聞こえた瞬間、ケアニスがビクッと反応して、剣が止まる。


「ナノスがいるのか?」


「ああ、戦車の荷台に」


「反応がないですよ」


「寝ているからな」


 鬼王にそう言われ、ケアニスが戦車の方を気にし始めた。

 なんだ? ナノスとケアニス、何か因縁があるのか?


 その気配を読んだのか、鬼王がまた口にする。


「アイ、ナノスを起こせ。あいつは、こいつの想い人なんだよ」


 鬼王が意地悪く笑み、ケアニスは苦々しそうな顔になった。


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